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ねずみ男さんの家族計画 ~そしてまた家族計画を~の長文感想

ユーザー
ねずみ男
ゲーム
家族計画 ~そしてまた家族計画を~
ブランド
高屋敷開発
得点
80
参照数
1137

一言コメント

感動はしたが、偉大な原作の「力」を利用し過ぎているようにも思える作品だった

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

筆者は家族計画を最高傑作として位置づけている。
それだけ家族計画のシナリオに感動したし、プレイ後はしばらく何も手につかないほど、良い意味での衝撃を受け、生きるとは何か、家族とは何か、絆とは何かと深く考えさせられたものだ。
家族計画はもはや文学作品と言っても過言ではなく、仮にエロゲーだからといって毛嫌いして、プレイしようともしない人がいるならば、人生の半分を損しているかわいそうな人だと哀れみの目で見ることだろう。

この作品は、その家族計画の続編である。
筆者の期待は言うまでもなく、頂点に達していた。
しかし、プレイ1周目を終えた後の正直な感想は、「何だこの手抜き作品は」であった。

はっきり言って状況がさっぱり分からなかった。
シナリオの中核になりそうな「あかり」という少女は、末莉に似ているが、末莉との関係が分からない。
司以外の高屋敷家のメンバーが一向に登場せず、末莉が夕方になると登場して去っていくだけ。
末莉の台詞から、もしかして司と末莉は離婚してしまったのだろうか? そしてお互いに未練があるために夕方にだけ会っているのだろうか?と考えたりもした。
だが、司の話し方にも違和感がある。一体どうしていいものか……そこで、仕方なく、レビューページを読んでみたら、「とにかく周回せよ」というようなことが書かれていたので、それに従うことにした。
そうしたら、シナリオが追加されていき、ちょうど3周目、あかりに語りかける劉の姿を見て、ようやく状況を理解できた。

その後は感動の嵐である。
サブタイトルである「そしてまた家族計画を」の真の意味が分かり、司が「高屋敷家のみなの元へ行く」場面では、また頭をガンと殴られたかのような強い衝撃を感じた。

システム設計としては随分下手くそな見せ方だとは思う。
何しろ、1周目・2周目は、はっきり言ってどうでもいいような、期待外れともいえるサブシナリオを見せられるだけで、全くもってつまらない。
ここで愛想が尽きてやめてしまったら、この作品は駄作としか扱われかねない。
やはり、良い話だからこそ、1周目で全て見せるべきではなかったのかと思えてならない。

そして、この作品が、かの傑作・家族計画の続編だからこそ、プレイした人たちの多くは最後まで期待を捨てずにシナリオを読み、大作だった原作に比べるとあまりにも短すぎ、コストに見合わないながらも一応の納得をしているのだろう。
そう考えると、偉大な原作の「力」を悪用しているようにさえ思える。
世の中には、あたかも偉大な連作ものの続編のようにうたっては、全く関係のないシナリオの凡作を売り出すメーカーさえあるのだ(それもコンシューマでである)。

しかし、見方を変えるとやはりこの作品は偉大すぎる。
何故なら、この作品を発表したことにより、司・末莉・春花・青葉・準・真純・寛そして劉を中心にすえた続編を作ることができなくなったからだ。
つまり、偉大な原作の「力」を悪用しようと思えば、この先もいくらでも続編と銘打った短編作品を乱発して荒稼ぎできるかもしれないのに、自ら、その可能性を閉じたのである。
これには一種の潔ささえ感じた。

そして、潔く物語を完結させたことにより、また深く感動をかみしめることができた。
シナリオライターの無限の可能性を感じるとともに、どうして、「加奈」があんな内容だったのか、本当に同一人物なのかと疑問に思えてならないのである。

筆者は登場人物を殺して感動を得るという方法が大嫌いである。
それが物語の中核に近いキャラであるほど、強い嫌悪感を抱いてしまうのである。
あまりにも使い古されているし陳腐だ。感動するのを押し付けられているようで嫌なのである。
「加奈」についても、生存ルートのシナリオがオマケ程度の内容で、死ぬシナリオばかり力を入れられていたもので、思わず酷評してしまった。

では、このゲームではどうか?
嫌悪感を抱かない。
何故ならば、司の「終わり」は決して不幸ではないからである。
まさに「そしてまた」の「始まり」なのだ。

しかし、この短さでは90点レベルの高得点はつけられない。
末莉ルート以外にも、ルートが異なるとはいえ、その後どうなったのか?と気になる点もあったので、それが全く語られていなかったのは残念でならない。