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ねずみ男さんのMaple Colorsの長文感想

ユーザー
ねずみ男
ゲーム
Maple Colors
ブランド
CROSS NET
得点
88
参照数
747

一言コメント

「最高傑作なり損ね」とは何か?何故そのようになったのか?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品には言いたいことが山ほどあるので、いつもに増してかなりの長文で感想を書かせていただく。

1 シナリオの導入部分の酷さについて
 まず、シナリオの導入部分の出来が酷い。
 演劇部との演劇対決という流れに持って行きたいのは分かるが、理由付けがあまりにも理不尽過ぎる。
 主人公は演劇部員にいじめられていた目々倉を救うために未来とともに暴れたのであって、単なるケンカとは違う。暴力が悪いことだというのであれば、目々倉をいじめていた連中についても同様に処分するべきであり、それが全国レベルの演劇部員だから不問だというのは理由にならないだろう。そもそも目々倉が演劇部なのだから、演劇部内での暴力事件が原因ならば、よけいいじめに加わった部員は処分されなければならない。
 また、主人公本人を退学処分にするだけでなく、何故クラス全員が停学処分なのか。
 学校にとって厄介者である2年B組を追放したいという意図が明らかであるものの、普通に考えて連帯責任の範疇には入らないだろう。高校野球等での暴力事件で、連帯責任により部員全員が試合出場になることでさえ世論の批判が強いのに、クラスということになれば世間が黙っているはずがない。
 そして、それら主人公たちの「問題行動」の責任は、担任である坂本の責任である。主人公たちが退学・停学になるなら当然坂本も懲戒免職程度の処分を受けなければ筋が通らないが、それについての描写が全くない。あまりにも不自然すぎるだろう。
 さらに、2年B組には演劇部員である秋穂、肴倉、百地、大久保、目々倉がいる。
 部長にとって目の上のこぶである秋穂や、幽霊部員である肴倉、いかにもトカゲの尻尾である目々倉を切るのはともかく、百地や大久保まで追放する理由があるのだろうか?
 特に大久保は後述するがゲーム内でスパイ役を果たしたほどである。仮に大久保が不平分子的な存在だとしても、そのような人間にスパイ役を任せることがどれだけ危険なことか、部長たちもバカではないのだから分からないわけがない。
 そして、何より酷いのが、クラス全員の反応だ。お前がまいた種なんだからお前が解決しろ、俺たちは知らない……そんな野次ばかりだったが、自分たちの停学もかかっているのだということが理解できないのだろうか。
 本当に怒りをぶつけるべき相手は、理不尽な処分を言い出した演劇部や校長たちであって、主人公ではない。さらに、主人公が皆から責められている時に、事の発端になった目々倉が全くフォローしないのにも激しく怒りを感じてならなかった。

2 対決の内容がどうして「演劇」なのか?
 このサイトのレビューを見ていていつも思うことは、ゲームにせよ、小説にせよ、受け手の価値観や思想がからむものについては、評価が分かれるし、明確な正解というものがないということだ。
 勉強のテストなら、90点が50点になることはない。スポーツでも13秒で走ったのに18秒で走ったことにはならない。どのような評価を下そうと、それは全部正解でしかないのだ。人の内心がからむのだから、こればかりはどうしようもない。
 だから筆者がここまでぼろくそに書いておきながら88点を付けているのに疑問を抱いている人もいると思うが、これもまた筆者の正直な採点結果であるから、間違っているわけではないのだ。
 さて、何が言いたいのかというと、演劇もそのような要素が実に強いものだということだ。
 誰かがべた誉めしても、誰かが酷評するかもしれない。たとえ全国レベルの演劇部の発表であっても、その作品の内容が生理的に合わなければ酷評されるのがおちだ。
 さらに、たとえ主人公たちがどんなに頑張って素晴らしい発表をしようとも、学校の演劇対決程度のものなら、金や権力で票を買収されてしまう危険性がきわめて高い。特に演劇部部長たちの人格を考えると、そのような手段をとってこなかったこと自体が不自然ともいえる。
 つまり、「全国レベルの演劇部相手じゃ勝てない」ではなく、「愛善らは絶大な金と権力を持っているから最初から勝負が決まっている」というのが正しい。
 これと同じことを思った人も少なくないと思う。
 演劇でどうやって客観的に勝ち負けを判断するのか。いくら演劇部側から持ちかけられた条件だとはいえ、自分たちの未来を大きく左右する採点方法等に全く言及がないのはおかしいのではないか。

3 何故クラス全員を味方にしないといけないのか
 そういうゲームなんだ、それが青春じゃないか、クラスとしての勝負だろと言われればそれまでだが、これも納得がいかない。特に2年B組内の演劇部員の扱いである。
 部長から邪険にされている秋穂や、演劇部に特に思い入れがないように思える幽霊部員の肴倉、主人公に恩義のある目々倉までは分かるが、やはり百地と大久保が不自然だ。
 この二人には演劇部に反旗を翻してまで主人公たちを手伝う理由がない。停学処分の対象から自分たちを除外してもらえばそれで済むだけだ。
 それよりも、この二人に手伝いを頼むこと自体が危険と隣り合わせである。案の定、大久保はスパイ行為に走った。裏切ったのが百地ではなく、よりにもよって目々倉だったのが意外というかクソだったが、「ほら言わんこっちゃない」と思ったものだ。
 特に大久保。仲間になるときの描写があまりにも唐突でくさいと思ったのだが、主人公たちもおかしいと思わなかったのだろうか。同じ唐突系でも、山田とは立場が違うのである。

4 ミニゲームがシナリオ進行の邪魔になっている
 この作品の一部のミニゲームは理不尽なほど難しい。救済措置もあるとはいえ、かなりいらいらしながらプレイしたものである。
 そして、ミニゲームをクリアした時には、もう疲れ果ててゲームを続行する気になれず、シナリオがあまり頭に入って行かなかった。
 じゃあ、ミニゲームなんかやらなければいいだろと思う人もいるだろうが、このゲームは前述したように、「クラス全員を仲間にする」ということがベストエンドへの必要条件でもある。
 ミニゲームをクリアしないと仲間にならないキャラもいるし、あるキャラの加入や、既加入キャラ数が加入条件になっているキャラもいるので、シナリオが進まなくなってしまう。
 そして、残念ながら、このゲームはのんびりプレイできるほどの時間がない。リアルのように、無情にも期限が来て、バッドエンドに向かってしまうのである。
 思うに、ミニゲームとは、箸休め的なものであり、メインではない。
 また、全員を加入させる必要がないのであれば、特にチート的な能力を持つキャラの加入条件として難しいミニゲームをやらせるというのは分かるが、このゲーム内でのキャラの能力は完全に等しい。「1(人)」としか認識されていないだろう。
 つまり、鬼小島だろうが誰だろうが同じ扱いでしかないのだ。特定キャラの加入に理不尽なゲームを課すのはいかがなものか。ひいては加入条件になっているキャラへの憎しみのようなものさえわいてしまいかねない。

5 土下座ばかりの主人公
 思えば主人公は土下座してばかりだ。鬼小島の加入の時はやむをえない感じはある。
 しかし、それ以上も土下座に次ぐ土下座だ。
 確かに主人公は頭で考えるタイプでないし、人望がないのでこれしか思いつかなかったのかもしれない。しかし、さすがにこうも続くと芸の無さを感じてならない。シナリオライターの引き出しが乏しかったのが残念だ。
 また、主人公はあくまでも目々倉を救おうとして演劇部とやりあっただけであって、クラス全員を停学にするというのは、演劇部側から言い出したこと難癖に過ぎない。主人公ばかり悪者扱いするというのはいかがなものか。
 さらに、土下座といえば、大久保と目々倉も土下座する。シナリオライターはそんなに土下座が好きなのだろうか?

6 担任坂本の悪質さ
 前述したが、これは担任である坂本が解決するべき問題だ。
 幸い坂本にほれ込んでいる教師もいるし、発言力(というか声の大きさ?)だけはあるようだから、味方に引き入れて教職員会議とかで訴えれば、さすがに連帯責任までは理不尽ではないかという話になるだろう。
 しかし、坂本は何もせず、主人公たちが動き出しても傍観しているだけだ。
 さらには、改心した後も、クラスの作業に加わるのではなく、ただ眺めているだけ。
 直接作業に加わるまでしなくとも、何かやれなかったのか。せっかく担任としてのイベントCGまでもらったのだから、何か見せ場(演劇部の不正行為の物証を押さえるとか)があっても良かったはずだ。このままでは、やはり担任失格だとしかいえない。

7 達成感のない準備作業
 前述したように、おそらくこのゲームでは、仲間にしたキャラ数でしか判定していない。
 そのためか、誰が加わったから準備作業がどれだけ進んだとか、どんな影響をもたらしたとか、全く分からない。数値として見えないから当たり前とはいえ、最短ルートで全員揃えようとも、最後の最後までもつれこんでも、全員揃えて最後のミニゲームに勝てば勝利である。
 作業現場に仲間が揃っていくのはうれしいものの、特に会話している描写もなく、全員もくもくと作業しているだけである。何か苦労の割に達成感を感じなかったのである。
 また、仲間を揃え終わっても、主人公はどこも手伝うことができない。やれることはヒロインとのHくらいである。何か虚しさを感じる。

8 理想の青春
 ここまで書いておいて、あえて88点をつけたい。
 理由は、筆者が思うに、少なくとも2-Bのどのキャラの視点から見ても、理想の青春の思い出を描いているからだ。
 主人公や未来、他のメインヒロインはもちろんのこと、あまり注目されなかったキャラ視点でも、貴重な思い出となったことが容易に予想できる。山田や菩提樹のようなキャラでも、皆で困難を乗り越え、自分がそのために助力できたということは、単なるモブとしての学園生活ではなかったと誇れることだろう。
 また、大久保や目々倉のように、「やらかした」キャラであっても、最後は体を張って小悪党に立ち向かったこと、キャンプファイヤーでの主人公たちとの会話などを考えても、忘れられない貴重な思い出として残ったと想像するに難くない。
 つまり、このゲームは、「主人公とヒロインたちの青春」ではなく、「2-B全員の青春」なのである。モブどころか、2-Bには脇役も存在しない、全員が主役の物語なのである。

9 最高傑作なり損ね
 ここまで書いていて、はっとさせられた。
 何故このゲームはわざわざ演劇を扱ったのか?
 作中では大道具・小道具担当が半数以上を占めている。
 しかし、彼らは決して裏方ではない。我々は見せられていたのである、全員が役者の演劇を! なんとすごいことだろうか。これを傑作と呼ばずに、何を傑作と呼ぶのか。
 まあ、筆者にとって、「家族計画」が最高傑作であることは確かだし、このサイトは100点までしか表現できない。「家族計画」は実は150点である。
 そして、この作品もそれに匹敵する「素質」があったものの、だらだらと長文で述べたように、問題点が多かったので、「150点から88点に減点」したのである。

10 さいごに
 「書くの疲れた」
 「読んでくれてありがとう」
 「おいおい、所詮ゲームだろ?熱くなるなよ(ぼそっ」 

以上