美しい世界観の頂点。そこにあるのは圧倒的な優しさ。
Driving For Fairytale...
これほどまでにしっくりとくるサブタイトルがあっただろうか。
主人公やヒロインたちノエルの人間、しろくま町の人々が立ち向かうのは分かりやすい悪役などではない。
それは天候であったり、自分の壁であったりなど、誰しもが持っていて、誰しもが抗い続けるものである。
努力して敵を打ち負かすことと、努力して困難を乗り越えること。この二つは似たような過程と結果を持つが、決定的に違う。
そこには悪意がなく、そこはただただ純粋な世界となる。
また、ここでの評価では、「ルミナやトナカイ、協会といったものの設定が薄い」というものが散見される。
しかし、よく考えてほしい。
実際にはルミナは存在せず、サンタはまがい物で、不思議な力で滑空する機械などありはしない。
だが、ここで重要なのはまがい物をまがい物でなくすための嘘の理屈で固めたおためごかしなどではない。
飛べるから、飛ぶ。配りたいから、配る。
何のために彼らは飛び、彼らは何を為すのか。
『Driving For Fairytale』。それが重要であるのだ。
そして、このゲームにはアイちゃんという少女が登場する。
彼女はこの虚構の登場人物・世界観の中で我々の『現実』というものを体現・象徴した存在となっている。
世知辛い世の中に達観し、子供ながらサンタクロースを夢物語と切り捨てる。
それでも彼女はななみルートを通じ、彼女は『現実』から、この優しさに満ちた世界の一員となる。
後述するが、このアイちゃんがいるからこそ、ななみはメインヒロイン足りえたのだろう。
そして終章。
どのルートの終わりともとれる短い掌編。その物語の中心は間違いなくそのアイちゃんであった。
1年前、優しさに満ちた世界の一員になった彼女に贈られたメッセージは、今度はその世界観を広げる役割があることを伝えるものであった。
これはゲームの中でカタカナの名前であった『アイ』が、推測ではあるがこの物語のテーマである優しさ、『愛』に変わったことを暗示しているのではないか。
そして、それは元々やるせない現実を体現していた彼女への役割の提示であるとともに、我々プレーヤーへ送られたゲームのテーマでありメッセージなのだろう。
藤原々々氏の可愛らしく温かみのある絵柄、これ以上なく世界観に沿ったオープニング。
finのでた後、タイトル画面が変わり、流れ出す『for Fairytale』への余韻。
そして何よりこのゲームを彩ったBGMは最高のものであったとおよそ3年の時を経ても自信を持って紹介できる。
つい先日('12.10月末)にはPULLTOPコレクションが発売され今まで以上に手に入れやすくなった。
これからの季節、温かい物語を、優しい世界観を、是非。