満開の桜、満点の作品
私がこの作品に求めたものは、素晴らしき日々に至った後、得られるであろう幸福について。すかぢが考える幸福とは何か、その答えだけを求めた。
[Abend]
櫻達の足跡が良かった。これは、やってること自体は『最後の一葉』のベアマンと同じだが、『最後の一葉』のような犠牲は否定する。生の絶対的肯定の考え方を持つ、ウィトゲンシュタインの影響を受けたすかぢなら当然だ。死によって傑作を作るのではなく、皆で一生懸命楽しむというのは学園ものとしてもいいし、何よりすかぢの今の考え方がどこにあるのかを示すのにも役立っていた。
[Olympia]
テーマは過去との決別。『素晴らしき日々』のおさらいという感じだ。EDはファンサービス。最初にプレイすべきルートといえる。
[PicaPica]
この話はウィトゲンシュタインの主張、「幸福な世界と不幸な世界は別ものである」をもとにしている。圭は櫻日狂想だけでは世界を変えられなかった。それは、圭がムーア展に向けて書いていたものが物語っている。しかし、真琴は直哉の絵によって世界を変えられ遂には愛を手にした。
愛を手にして力を尽くすことで、望んだものではないが別の素晴らしいものを得た。今ある幸福から抜け出し、想定外の幸福を得るという世界の変換による素晴らしき日々の変化を上手く描いていた。
[ZYPRESSEN]
PicaPicaで描いたもののさらに先を描く。ヒロインとは別に優美をおくことで、幸福の伝播を見せてくれた。幸福をもらった優美が直哉と里奈に幸福をプレゼントするという非常に美しいシナリオだった。また、幸福とは幸せの認識を行うことだという答えを示していた。
[A Nice Derangement of Epitaphs]
話の前半は、ワクワクするような悪巧み。1章や2章に直結する重要な話。また、Olympiaとも繋がる。Olympia単体ではやっていることは『素晴らしき日々』と同じだが、実はOlympiaではすでに素晴らしき日々に辿り着いていた。実はOlympiaは、「素晴らしき日々が連続的なものであり、そこから離脱し続けること」がテーマであったのだ。
さらに、素晴らしき日々の限界に辿り着いたときに何が起こるかについても描く。この話のタイトルは、コミュニケーションの哲学における一つの到達点に達したデイビッドソンの『碑銘を上手く乱すこと/墓碑銘の素敵な乱れ』からとられている。非常に面白いが真面目な内容の論文のタイトルを使い、こんなに感動的な話に仕上げてくるとは思わなかった。
物語の裏側を見せることでここまでの全ての話の価値を高めることができており、しかもこの話自体も面白い。見事としか言いようがないが、話が面白すぎて雫の告白シーンが全く印象に残らなかったのは残念。
[What is mind? No matter. What is matter? Never mind.]
1章から20年近く前の話。ここで夏目家や中村家についてわかり、櫻の詩の意味も明らかになる。また、幸せとは何かについてのすかぢの考えも知れる。短いが、とても内容が濃かった。
[The Happy Prince and Other Tales.]
タイトルからして憂鬱。幸福に生きることへのカウンターとなる話。素晴らしき日々の変容を描く。『素晴らしき日々』の後でしか描けない話だが、まさかこんなものも用意してくるとは思わなかった。
[「 」]
直哉は弱くなったように見えるが、終ノ空に魅入られることはなく、幸福な生に踏みとどまっていた。絶対的な唯美論に対する一瞬の儚い美、人間的な弱々しい幸福はとても美しく思えた。
この作品をプレイしたいと思う人はまず『素晴らしき日々』をプレイして欲しい。『春ノ雪』で期待したものとは別物だったからだ。この作品は『素晴らしき日々』をプレイして、すかぢの考え方が気に入った人向けの作品である。あの作品をプレイしているか否か、そして何をこの作品に求めたかで大きく評価が変わると思う。私の場合は、欲しい答えが得られたかどうかだけでこの作品を評価した。話の面白さは『素晴らしき日々』や、私がプレイしてきた他の作品の方が断然上だ。普通の作品ならば、もちろん絵やBGMやシナリオやメッセージ性を合わせてその作品がどうだったか判断するが、この作品に関しては例外。面白いに越したことはないが、ぶっちゃけエロゲという形でなくても同じように評価したと思う。テキストやストーリーすら割とどうでもよかった。私が望んだものとしては100点だが、他の作品と同じように点数をつけると高くても84点といった感じだ。
『素晴らしき日々』の先の先は、いつか辿りつけるのだろうか? 生半可な続編ではThe Happy Prince and Other Tales.で綺麗に終えるという『サクラノ詩』を超えられない。しかし、すかぢならやってくれそうという『サクラノ刻』への期待が、この作品に最後の一味を足している。私にとってはパーフェクトとしか言えない作品だった。
この作品で、望んだ答えは得られたため、『サクラノ刻』ではそれは望まない。あとは純粋に物語としての面白さだけ。この作品を楽しくプレイしなかった反動でもあるが、ほとんどBADエンドといえる状況の続きであり、さらに成人した主人公の物語というのは中々珍しい。どうする気だろう? 『サクラノ刻』がとても楽しみだ。
[100点である理由]
・素晴らしき日々に辿り着いた後が描かれた点
・面白いシナリオが見れそうなことへの期待