まさにレジェンド
前からプレイしてみたいと思い、500円という安さもあって買ってはいたが、ずっと放置していた。サクラノ詩の発売まで特にやることもないなと思い、いい機会だし崩してみようとプレイしてみたら凄まじい作品であった。
[一章]
学園生編。プレイし始めてすぐに感じたのが、孝之の心の動きを描くのがとても上手いということ。例えば、自分とは縁のないタイプであった遥とのコミュニケーションに苦労しながらも、何とかやっていこうと頑張るところ。他にも受験のこと、友人のことなど色々なことに対して悩み、考えるというのは青春臭くてとても良かった。
遥の家にお呼ばれした時の食卓のシーンや、水月と腹を割って話すシーンなど一章とは思えない濃厚なシナリオで一気に話に引き込まれる。
そしてやってくる伝説と呼ばれるシーン……、こんなのずるいわ。
[二章]
一章から三年後の物語。一章で心の動きを描くのが上手いと思ったが、それが最大限に活かされており、セリフの一つひとつにしっかりとした説得力を持たせていた。そして状況の作り方が上手すぎる。孝之は「みんなを傷つけたくない、みんなで幸せになりたい」という主人公としては申し分ない考えを持っている。しかし、作られた状況では優しすぎるその考え方が完全に裏目に出る。なんで上手くいかない、俺が悪いのか? という孝之の思いが、卓越した心理描写のおかげでプレイヤーにもよく分かる。これは『君が望む永遠』の持つ強みだと思う。
ルート自体は多いが、やはり印象深いのは遥、水月、愛美ルート。遥ルートと水月ルートは涙なしにはプレイできない。完璧なシナリオとエンディングの演出で涙腺が緩みまくる。
そして愛美ルート(特にバッド)が『君が望む永遠』の完成度を引き上げている。孝之が汚い心の内面をさらけ出し、溜めに溜めた弱音と文句をはきだす。孝之が自分を最低だと自覚した上でそれを行うのは遥ルートで美しいシナリオを見た後では大きな衝撃となった。主人公としてのカッコよさなどクソくらえというまさにアンチエロゲなシナリオ。価値観の変異を見事に描いていた。
超王道の遥・水月ルート、安定した茜・蛍ルート、爽快なあゆルート、そして規格外な愛美ルート。バッドエンドを含めてほとんど手抜きなしの超高クオリティで膨大なボリュームのシナリオには驚かされた。はずれルートと思ったまゆルートでも、まゆルートで提示される「大切なものを守ること」と「相手の意外性」というのは他のルートでも扱われるため、結構重要なルートだと感じた。
そしてやはり心理描写が見事。「何でそういう行動をとるかな!」と文句を言いたくなっても、すぐにその行動に対しての心の動きが描かれることで、こちらは「……まあ、そうか」と納得せざるを得ない。文句が無いわけではなく、文句が言えないのだ。
長い上に重いシナリオのせいでめちゃくちゃ疲れたが、プレイして本当によかった。名作だの伝説だのと言われているのも納得できる、文句なしの傑作であった。
[100点である理由]
・伝説のOP
・圧倒的な心理描写
・高レベルのシナリオ