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くるくすさんのplanetarian ~ちいさなほしのゆめ~の長文感想

ユーザー
くるくす
ゲーム
planetarian ~ちいさなほしのゆめ~
ブランド
Key
得点
95
参照数
553

一言コメント

「アンドロイドものSF on ギャルゲー、センチメンタル風味」。世界大戦後の廃墟を舞台とした静かなお話。もの寂しい世界の中で強調される「憧れる想い」が読んだ後も心に残る。この手の読み物の中で私が一番好きな作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 Keyさんらしからぬ外見と、Keyさんらしい内容を兼ね備えた作品だと思います。全体的に湿っぽい感じもするのですが、ヒロインのロボット娘・ほしのゆめみ のお茶目で明るい性格が、作品の空気を重くなり過ぎないように持ち上げてくれています ( 見ていて痛々しくもなりますが ) 。作者の主義思想をことさら強調するタイプの作品ではありません。むしろカマボコにチーズが練りこまれていて、口に入れるとチーズの味がするといった感じでしょうか。短くて丁寧な作りの作品を読みたい方、恋愛を前面に押し出したストーリーにやや食傷気味の方にお薦めの掌編です。
 以下はネタバレ感想です。ここでは本編からの引用文にダブルクオートを付けることにします。



 プラネタリウムの廃墟に稼動状態のまま遺棄された解説員ロボット・ほしのゆめみ。彼女の前向きで明るい性格 ( と、ロリフェイス ) に惹かれた読者は多いでしょう。しかしそれと同時に、心のどこかで彼女を遠ざけたく思ったことはありませんでしたか?
 彼女はもはや誰も来るはずのない廃墟で、こう語ります。
" お客さまはかならずお越しになると考えます "
はっきりと、力強く、歌うような声で。そう信じるように彼女はプログラムされています。
 「特別投影」の原稿に至っては奇麗事のオン・パレードです。
" 争いの時代はおわりました。世界じゅうの人々が、手をとりあって、宇宙を目指す時がきたのです "
 そんな彼女を見て「いじらしさ」や「けなげさ」を感じましたか? 違いますよね。むしろ「実際にはそううまくは行かないんだよ、ゆめみちゃん」と溜め息半分で嘆きたくなりませんでしたか? 彼女が理想を語れば語るほど、それと正反対の現実が主人公 ( と読者 ) の心に突き刺さるのではないでしょうか。そして私も主人公も「そんな眼差しで私を見ないでくれ!」と、彼女を遠ざけようとしてしまう。
 ところが、私も主人公も彼女のもとから、何故かどうしても離れられないのです。
" なのに、いつの間にか足はとまっていた。"

 本当は皆、希望を持ちたいと思っています。誰だって未来が自分の思い通りになってほしいと本当は願っています。ですが中々うまく行かないのが世の常で、おそらく本編の主人公はその極限の形なのでしょう。そこで敢えて希望や夢を持たないようにする、もしくはその存在を小さくしようとする向きが、人間にはあるのではないでしょうか。主人公や私が彼女を遠ざけたく思ったように。
 もちろん作中前半の主人公のごとく、夢や希望の世界に浸って逃げ込んでしまうのは論外です。作者も「停電」という形でこれをきっぱり否定しています。
 とるべきは「現実と希望のバランス」です。主人公と彼女は廃墟に閉じ篭るのではなく、別れるのでもなく、ふたりで廃墟の都市を脱出しようとします。
 
 主人公は廃墟で偶然出逢った彼女に夢を見ようとしました。ところがその夢は、終盤のあの出来事によって打ち砕かれてしまいます。あまりに悲しい結末ですが、彼は「希望は天から降ってくるものではなく、自分で持とうとするものである」という当然のことを「再発見」したのではないでしょうか。

 そして、物語はあたかもカミソリで先の展開をさっと切り外したような終わり方をします。本作品のエンディングの時点で、読者と主人公は同じ状況に置かれている点には注目すべきでしょう。どちらも「ゆめみはもはや傍に居ないが、彼女のあり方を確かに目撃した」のです。そして読者は自分自身と主人公とを重ね合わせ、彼がこの後どう生きようとしたかを想像できる、そんな終わり方になっています。
 「あなたが主人公なら、もとの生活に戻りますか? それとも……?」という作者の問いかけに、読み手はどう答えるべきでしょうか。



[気になった点]
 読んでいて気になった点のみ、いくつか簡単に列挙します。偉そうな物の言い方で恐縮なのですが。

◆人によっては読後に「ごった煮感」を覚えるかもしれません。本作はいくつかの捉え方があると思われますが、どうもそれがあだになってしまって、私は初プレイ後「なんじゃこりゃ?」と感じました。
◆出来事そのものには特に不自然さを感じないのですが、出来事のタイミングが良すぎるなと感じた箇所がいくつかありました。
◆結末パートが多少もたついている気がします。描き方が大げさなのではなく、おそらく全体に対して長すぎるのではないかと。
◆戦場にあっても妙に気取った表現をする主人公には少し引っかかりました。

■2010年11月7日 一言コメントおよび長文感想を新規追加。