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くるくすさんのLove Sweetsの長文感想

ユーザー
くるくす
ゲーム
Love Sweets
ブランド
MOONSTONE
得点
65
参照数
1125

一言コメント

ラブラブルと似たような感想を懐いた。ありがちなヒロイン像のコピーを見せられても、プレイヤーはあまり楽しめない。キャラ立てを表層化させないためには、イチャラブゲーにも多少のストーリー性を含ませた方がいい。割と良好なのがみなも編で、逆に没個性的なのが櫛無編だろう。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(シナリオ素点の内訳は次の通りです。櫛無編:55(点 / 満点100、以下同様)、結衣編:55、奏絵編:60、みなも編:65、伊織編:60)


 イチャラブゲーにストーリー性は必要なのでしょうか。奏絵編、みなも編、櫛無編を例にとって考えてみます。
 奏絵編において、ヒロインの魅力はストーリーによって裏打ちされています。奏絵は熱心で生真面目な女の子。樹が的確に彼女の人物像を評しています:「こういう直向きなところや、真面目すぎるところも気になってる。」もちろん細切れのイチャラブシーンだけでも、彼女の人となりは確立されているのですが、後半のシナリオによって一層明瞭になってきます。パティシエ志望の彼女はお店から大役を任されて、樹と共に新レシピに挑みます。頑張り物語を通して伝わってくるのは、彼女の頑固一徹さです。男性的な魅力といえます(女の子ですが)。
 みなも編においても同様に、ヒロインの魅力はストーリーによって保証されています。みなもの良さを挙げるなら、真っ先に思いつくのは母親的な優しさです。伊織が嫉妬してヘソを曲げてしまった時も、みなもは伊織を第一に案じようとします。以下のシーンを読めば、彼女の包容力を感じ取ることができるでしょう:

みなも「わたしね、双見くんに幸せになってほしいの。そして、幸せにしてあげたい」
みなも「だから、そのために自分は何が出来るんだろうって、最近よく考えるんだよ」
みなも「付き合い始めたばかりの頃は、恋人同士ってなにをするんだろうって、そういう事を考えて……」
みなも「たとえば、手を繋ぎたいデートをしたいって思ったら、それを二人で実行していったんだけど……」
みなも「相手のことをどんどん好きになって、大切になっていくと、もっと別の、違う気持ちが生まれて」
みなも「それが、相手を幸せにしたいって気持ちなの」
みなも「だけどね、それ以上になによりも……わたしは好きな人を困らせたくない」
みなも「伊織ちゃんは彼の妹だから、これまでも一緒で、これからもずっと一緒でしょう?」
みなも「だから、伊織ちゃんに遠慮をしたり、無理にわたしを優先してほしくないの」

樹をめぐる三角関係の積み重ねの末に、このセリフがあるのです。細切れのイチャラブシーンの連続では、決して彼女の暖かみは引き出せませんでした。
 奏絵編やみなも編と比べて、櫛無編はストーリー性を著しく欠いていますから、キャラ立ても表面的です。奏絵といえば「ホットショコラで頑張る娘」ですし、みなもといえば「世話焼きの先輩で、交際相手の妹を案じてくれる娘」でした。では櫛無はどうでしょうか? もちろん彼女の小動物的な愛らしさは、ぶつ切りの日常風景からもある程度は伝わってきます。しかし、それだけ。彼女の人となりは具体的に掘り下げられることがありません。奏絵やみなもと比べると記号的で、固有性に乏しいのです。大胆に言い表すなら、他の萌えゲーからコピーしてきたような娘です。
 もちろん単にストーリー性を出せばよい、というワケではありません。奏絵編にしろ、みなも編にしろ、物語として無理があります。例えば奏絵編なら、バイトのJKがパティシエまがいの業務を任せられるなど、奇妙な話です。あるいはみなも編なら、伊織の幼児退行に学園生らしからぬ不自然さを指摘できます。一方、櫛無編のストーリー展開には無理がありません。序盤でやけにフレンドリーだなぁと怪訝に思いましたが、後は普通のイチャラブシーン集として、引っかかることなく読み進められます。そもそもシナリオと呼べるものが存在しませんから、矛盾のきたしようがないのです。
 シナリオにストーリー性を含ませれば無理が生じるのなら、どうするべきなのでしょうか。キャラ立てとシナリオを両立できれば一番いいのですが、本作の趣旨を考えれば厳しいようです。ならばいっそのことストーリー性なんて放り投げて、櫛無編のようにイチャラブに没頭したらいいじゃないか! 一理あります。ですがソレじゃ人物造形が薄っぺらくなってしまいます。イチャラブゲーは平衡感覚が難しいのです。
 もし多少の破綻が許されるとしたら、イチャラブゲーにも幾分のストーリー性が盛り込まれるべきでしょう。私は奏絵編やみなも編にアラを見出したとはいえ、さほど大事には考えていません。かつ物語の中で奏絵やみなもの息遣いを感じ取ることができました。ですから、両編を櫛無編よりも高く評価しています。



[キャラクター]
 奏絵 = みなも > 伊織 > 櫛無 = 結衣