裏切りではないが、やはり一本道が致命的に合ってない
不満点多々あげてはいるものの、基本的なクオリティは間違いなく高い。高いが・・・
朱雀院絶対倒すマンの部分だけはネタバレ有り
good
■青春スポ根としての素養
主人公が着任した時点でクラスはバラバラであり、そこからまとまっていく過程は十分丁寧に描かれており、キャラクターへの愛着を育てるのに一役買っている。またその過程において主人公も存在感を発揮しており、序盤から物語としてのクオリティが高い。
■キャラクター同士の関係
上手い、は上手いんだが・・・
割合早い時期にクラスとしては出来上がってしまうため、朱雀院絶対倒すマンにしても名前負けしてしまっている感はある。ライバル感より仲間感が先に出てしまっているとでも言うべきか。梨々夢辺りはこの辺カバーする犠牲かなあ、とも思う。
■演出の強化
特別素晴らしいということはないが、少なくとも前作比で見れば明確に進歩している。
■伝記大幅カット
これはこれで正解のようには思う。
ただし、悪意を持ってみればルート数を削減した結果、わざわざ伝記要素書く必要もねえよな? と考えたようにも取れる。
bad
■堂々たる一本道シナリオ
公式の紹介文で
・共通+個別ルートの形式ではない一本道であること
・個別はエピソード形式であること
は予め明示されているので、詐欺や裏切り等の批判は(ある程度は)筋違いではあるがその上で言わせてもらう。
これはダメでしょ
太古の昔から引き継がれる共通+個別ルートという形式はそれに理がある、もっと言えばそれ以上に理があるものが無いから存続しているのであって、それを捨て去ってしまうのはやはり誤りだと思う。
シナリオを一本道にすることで他キャラのルートに合わせた整合性を取る必要もなくなり、また作業自体の効率化もはかれるので、本筋のクオリティが確実に向上するのは理解できる。
が、本来こういったことはメインヒロインが物語において確固たる位置を固めているゲームでのみ許されるものであって、そこから外れてしまえば単なる手抜きでしか無い。
共通ルート(ではないが)の流れとして基本的には紅葉が勝つのはしょうがないにしても、その辺りを個別でどうやって見せる、もしくはひっくり返すのかが一番読みたいところであるはずなのに・・・
■前作品の過去という扱い
本作が「絆きらめく恋いろは」の過去であることは明示されているわけで、その時点で大正義朱雀院の優勝も確約されていることになる。つまり一本道であることを知らなければ予選落ちした梨々夢に「???」となるし、知っているならそもそも茶番でしか無い。旭がどれだけ努力して紅葉を追い込もうが勝敗はわかりきっているし、雪月花とヴィクトリアの勝敗も見えている。
要するに、一本道と過去舞台(さらにはトーナメント)という設定が最低最悪のシナジーを生んでしまっている。せめてどちらか片方であればもっと違ったのだが、まさか都子を出したいがために過去舞台で作品を作ったのか・・・?
■脇役が浅い
まあそのちゃん先輩のことだが。
劣悪な幼少期を過ごした ← なるほど
だから一匹狼の不良 ← わかる
金持ちは死ね ← くだらん
貧乏キャラが金持ちキャラを僻むのは割と月並みな展開だが、そこに読み手が共感できるような前向きさを付与できるかどうかが肝心なのであって、これが出来ているのが前作の葵、出来てないのがこっち、ということになる。
そのちゃん先輩のモノローグで自分に投資してくれた恩師について語っているが、優勝すればプロ確約で金とかその恩師が余命幾ばくもないとか適当な設定を盛っておけば彼女の「必死さ」にも共感しやすくなると思うのだが・・・
現状では境遇に恵まれなかったキャラが世を儚んで世界ごとぶっ壊そうとする安っぽいRPGのそれと大差ない。
■スザクハイパードライ
妹達に重荷を背負わせないために当主になろうとするところは共感できる。が、友達がいない点くらいしか物語的な不足がなく、しかもそれが本人にそこまで悪影響を与えていることもないので、朱雀院絶対倒すマンとの関係を感動的に演出するのに少々無理がある。
この辺りは序盤でクラス関係をしっかり演出・構築出来てしまっているのが問題で、もっと孤高で性格も悪く、ボッチ、ハブのように描いていればそうはならなかったろうが、そういう作風でもないんだろなあ・・・
もっと紅葉に負荷を掛けられていれば、対応する絶対倒すマンの見栄えも良くなったように思う。
例えば前作の椿はその境遇と性格故に優勝候補最右翼でありながらも十分すぎるほど追い込まれており、勝利に自身の存在を依存していたが、紅葉がそれが薄すぎる。
■朱雀院絶対倒すマン
キャラとしては結構好き、好きだが絶対倒すマンの理由が別段差し迫ってないように思えるため真剣味があまりない。
姉の蛍雪がのし上がって当主になるために当時ネギ(変換面倒)になる、というのはそこだけ見ればわかりやすいのだが、作中でも語られるように当主への過程は必ずしも一本ではないため、「次期朱雀院総帥とツーカーなら候補として結構な加点よなあ」という、割合誰でもかなり早いタイミングで思いつく理由でシナリオが決着する。終着点が悪いため、終盤にいくほどつまらない話の典型
■鬼女
特別良いとも思わない代わりに特別悪い点もなく、語ることがない。
旭はネギに対して十分すぎるほど必死に取り組んでいるのだが、その理由である兄、及び主人公との描写が不十分であるため、メインヒロインとしては影が薄い(ついでに言えば主人公自体も中盤以降空気)。一本道でシナリオがよくなる部分はたしかにあるが、旭(と主人公の掘り下げ)については個別という形を取ったほうが良かったのでは
■梨々夢
シナリオの犠牲者その1
予選落ちで勝負の残酷さを見せるそのために敗退させられ、メインでありながら脇役になっている哀れな子。
梨々夢は旭のための養分であり、旭は紅葉のための養分でしかない、悲しき一本道の犠牲者。シナリオの焦点がハイパードライと倒すマンに傾倒しているため、どうしても残りの二人に割がいってしまう。旭同様影が薄いのはこれが原因。
まとめ
繰り返しになるがクオリティは高い。
ただエロゲーの美点を捨ててこの出来栄えでは正直苦しい。
シナリオの根幹である青春スポ根という部分には85点~くらい付けてもいいが、全体の竜頭蛇尾感や鬼女さんたちの掘り下げ不足については何ら擁護する点がない。
せめてダブルヒロインの形にして両者だけでも分岐させるということはできなかったんですかね