キャラゲーとしてはほぼ欠点なし
全体的にキャラクター及びその心理描写が非常に上手く、プレイを通してストレス無く読めます
シナリオや設定については特別いいということはないが、ライターの腕次第でここまで変わるかという印象。
具体的ネタバレ、面白みを削ぐようなものは避けています。
自身の攻略順は 華乃→あすみ→詩桜→妃愛 で、結果的にこれは最善でした。
■華乃 85
オタク男子の考える、可愛くて面倒くさくてちょろいオタク女子。
陰の者故の外の世界への臆病さ、逆に一度内側に入ったときに発揮される内弁慶的な攻撃力や正義感など、イメージがきれいにまとまっていてキャラクターとしての完成度が高い。合体直前に彼氏彼女に特別な理由や関係性を求める主人公にキレる辺りも中々に芸が細かい。
一方で不登校の原因や文化祭発表など、後述する理由からシナリオの出来そのものは決してよくはないという側面もある。ただし、なんとなく読みすすめる程度であればもっともキャラの可愛さを実感できるルートでも有るので、序盤の攻略を進める。
■あすみ 80
オタク男子の考える、(読者に都合のいい)天使的な可愛さを持った女子。
とはいえ出会った当初から主人公に好意を持っており、実際に過剰にいい子として描かれているので違和感はない。
彼女のルートを楽しめるかどうかは、ことあるごとにあすみを天使扱いする主人公に同調できるかどうかにかかっている。
シナリオ自体は特段悪いということはないのだが、彼女の問題は自身のおとなしさや臆病さから起因するものであり、頼りになる彼氏ができたから克服できました、という以上の描写が難しくなっており、最も違和感が少ないのと同時に最も起伏が少ないルートとなっている。
華乃同様、読み込むほどの情報量はないので、序盤攻略推奨。
■詩桜 90
行動原理を自身にとっての快不快を基準に捉え、理詰めで判断するある種の人格破綻者、よく言っても本人限定の功利主義者。
とはいえ、無責任で不快な行動であっても、それは定められたルールを逸脱するまでのものではなく、自身の選択の結果が周囲にとっての迷惑かどうかを一顧だにしないだけのことではある。
一個人としてははっきり嫌いだと断言できるが、その人間性はシナリオを通じて一貫されており、言動に破綻もないため、キャラクターとしては非常に好感を持てる。
また、彼女のシナリオがある設定の根幹に踏み込むが故に、華乃やあすみのように「文化祭の出し物を通じて自己の問題を克服」するという単調で曖昧な縛りを持たず、結果として他ルートに比べ独自性が生まれた。
一方で、元々趣味嗜好から物の見方までが主人公と似通っている華乃や、最初から好感度の高かったあすみと比べ、詩桜が主人公に惹かれる必然性や説得力が非常に薄い。手伝いや行事を一緒に行動した程度で初期値がマイナスだった主人公への評価が恋愛まで発展するというのであれば、刷り込み程度の恋愛観というほかない。恋愛過程という意味ではダントツで雑なルート。
彼女のルートでは、作品の根幹に触れる設定が出てくるため、最低でも2周め以降での攻略が推奨される
■妃愛 95
ダメ兄のガチャ無心にも猫っ可愛がりで石を買い与える、財力・包容力・対応力と非の打ち所のない完璧外面超人。
シナリオとしてこれが全キャラの中で最も白眉で、恋愛過程やキャラ造形にも力を入れられているのがわかる。
「お兄がお金ないって甘えてきたの、かわいすぎるのだけど!ちょっと多めにあげちゃいました、てへり」
「お兄が女の子の自撮りもらうのにハマってるみたいだから私の送ったった。ちょっとえろいやつガハハ」
ぎゅう魔王等々、ちょっと草生えるレベルで面白可愛い。
演出でも他ルートを大きく引き離しており、序盤からのじゃんけんの使い方も地味に上手い。
残念な点として、兄妹の関係性はどちらの側からも非常に丁寧に描写されているのだが、兄妹恋愛に関しては大した葛藤もなく、声優の恋愛バレの方ばかり気を使っているのが勿体ない。これらイベントが声優業のトラブル中に起こるため、「兄妹でそういうのはダメ」という禁忌が「声優が恋愛を疑われちゃダメ」に完全に塗りつぶされてしまい、なし崩し的に消えてしまっている。せめてミリ先生に見つかって家族会議程度の修羅場はあって然るべきだと思うのだが…
純粋な兄妹関係については非常に繊細に描写をしてきた一方で、最後がコレというのは他同様竜頭蛇尾な感がある
■不満・問題点
・文化祭ステージの必要性の薄さ
主人公であるくじ引き会長に課せられた(表向きの)仕事は2点あり、ひとつは喫緊に迫ったシンポジウムでの対応、もうひとつは終盤の文化祭運営となっている。後者の山場である文化祭運営は当然各キャラのシナリオともリンクされ、シナリオ上の山場ともなる……のだが、このリンクの必然性がかなり薄いため、盛り上がりがいまいち。
精神的な問題を克服する必要のない詩桜を除いて、生徒会の出し物として文化祭ステージで自身の分野から発表することになるのだが、緊急性も必要性も無いため、文化祭である必要も無ければルートのヒロインがその発表をする必要もなくなってしまっている。
一応、他校の生徒会との絡みであっと驚く文化祭にしなくてはいけないような流れを取り繕っているが、そもそも生徒会長である主人公がそう発言したわけでもなく、顧問であるミリ先生が周囲からせっつかれている点を考慮しても「だからどうした」程度のイベントでしか無い。実際に各ルートでは期日のひと月前くらいまで準備も何もしておらず、出し物に困ったところでヒロインが自分で発表すると言い出すレベル。
主人公が生徒会長就任を受諾した理由である妃愛の出席日数を天秤にでも掛けられればもっと自然だったのだろうが、文化祭の出来栄えとそれらは一切関係もない。(逆にその不自然さを取っ払って舞台裏をフォローできる詩桜ルートの点数を上げた理由でもある)
結果、ルート終盤の文化祭で担当ヒロインがなんとなく発表してなんとなく問題を克服する、という安っぽい展開になってしまっており、終盤になるほど読み応えがない傾向がある。
これがもっとも顕著なのは華乃で、妃愛は発表の必要性はあるものの、それが文化祭である必要性がほとんどこじつけに近い。唯一、自身の精神性や信念がパフォーマンスに関わってくるあすみだけは最低限の説得力を持っているが、それでもまだ薄い。この辺りは設定の甘さでしかないと思う
・ご都合とふわっとした感動
物語を読む上で、事前に容認しなければならない設定というものはある。
いわく、魔法が存在する。いわく、妹が12人いる等々。
本作に関して言えば「クリエイティブ」の部分がそこに該当するのだが、流石に同じ学校の同じ不登校の同じ女子生徒が同じくらい各分野で才能を発揮しているというのは読み手として造り手側の都合を強く感じてしまった。いや、もっと言ってしまえば嫌悪するなろう的な匂いを感じたとでも言うべきか。少なくとも各キャラに特攻をもつ最強のカード「妃愛」があるため、上述の人間関係では主人公が無双できてしまう。
全員が全員才能豊富という前提なのだからそこにケチを付けるのは本来お門違いなのだが、取り立てて才能のない主人公とタレント揃いのヒロインという対比の影響で、各場面場面で主人公が役割が少なすぎる。
ヒロインに好かれた主人公だからかろうじて意味があるだけで、前述した文化祭ステージも言ってしまえばヒロインの独演会のようなものでしかない。(まあこれを求めすぎても華乃の言うような恋愛に特別な何かを求める男になってしまうのだが)
たまたま在籍していたヒロインが、自身の生業をステージ発表して、生徒会長として雑務しか出来ない主人公を傍目にそれを「いい文化祭でしたね」と読者が見れるかというとあまり・・・無才であることや兄であることも意味を持つ妃愛ルートを除いて終始これが頭をよぎる。
個人的意見だが、才能豊かでないヒロインが一人くらいいても良かったかなと。挫折したり、業界を離れるようなものがあっても良かった。せめて既に有名人というのではなく、主人公と一緒に才能を伸ばしていくようなシナリオがあれば少し違ったようにも思う。才能があり、既に一定の成功を収めているせいで経済的に余裕があり、仮に失敗したところでさして痛手にもならない緊張感のなさがいい意味でも悪い意味でも常に漂っている
・アメリ(とミリ先生と聖さん)
短めでもいいからサブルートはあったほうがより喜ばれたのでは?
ミリ先生は役割的に純粋にサブでもまだ理解できるが、聖さんはボランティア中に絡ませてきた理由がプレイ範囲ではまったくなかったし、アメリに関しては4人と同等のメインでない理由がわからない。
妃愛は陰キャというと違和感はあるが存在自体は声優なので、他と世界の違うアメリこそが一人のメインヒロインとして必要だったように思うのだが・・・
容量的に足りない、とまでは思わないのでファンディスクでの補填を想定してるとしか思えない
■感想まとめ
長々と不満点を述べてますが、今作に関しては「お話にならないほどダメなところ」というよりは「スペックの高さ故に惜しく感じるところ」であり、作品そのものの評価は点数とした通りです。中々このレベルでラブコメは書けません。特にキャラクターの可愛さについてはほとんどケチのつけようがない
新規?のライターさんのようですがラブコメとの親和性はすこぶる高い方のようなので、この人手放してはあかんと思います。