とことんマジメに不真面目な設定を練り上げた傑作
※シナリオ的なネタバレはしていません。
今までどこにでもあったような、ある種典型的ですらあるアホらしい設定を守りつつ、真剣に、丁寧に練り上げた稀に見る力作。
昨今のなろうや異世界転生もののように、シナリオ重視の人間が見たらすぐに「あっ、大丈夫っす・・・」となりそうな劣悪なタイトルから紡ぎ出される、奇跡的なバカとシリアスの調和がとにかく素晴らしい。
Good
■秀逸な舞台設定
抜きゲーみたいな島、というのは現実的にはありえない、あくまで創作としての設定ではある。しかしその設定については
・島の過疎化
・貧困児童の救済
・利権獲得の暗闘
等々といった、極めて現実的な視点を織り交ぜて語られており、それ故にキャラクターの行動原理に説得力が生まれている。
序盤はほぼNLNS視点のようなものだが、読み進めれば読みすすめるほどSSメンバーや島の状況にもスポットが当たっていく構成はまさに鉄板。
■マジメに不真面目
あくまで作品の根幹はタイトル通りのバカゲーであり、しかしそのバカゲーという枠の中では極めて真面目に物語が作られている点がとにかく秀逸。
無論、設定の中でもすべてシリアスという訳でもない。
例えば美岬は作中通してほぼ完全にネタキャラであり、逆に礼先輩は(ギャグ要素はあっても)ほぼシリアスキャラとなっている。したがって常時大体のネタと適度なシリアスが常時入り乱れており、どちらかで食傷気味になることがない。
本作のある種救いようのないタイトルは、これしょうもねぇゲームだな~という、いわば「罪人の入れ墨」であり、同時にバカゲーだからこれくらいの無茶はokだな、という「免罪符」ともなっている。
バカゲーである以上、本当に上澄み中の上澄みのような傑作(自分であればWA2やG線辺り)に並ぶことはないものの、そもそもシリアスゲーとバカゲーを一緒に評価する必要がないわけで、本作はナンバーワンである代わりに十分すぎるほどオンリーワンたりえている。
■とにかく作りが丁寧
これも個人的に感心した点。
割合早い段階で共通ルートから個別に分岐させ、その展開をルートごとにしっかり変えている。好感度上げきった後だけを個別でごまかす構成と比べてどれだけの手間がかかったことか。また、事件解決した後の島の様子を功罪含めて描写している点も創作物として真摯といえる。
他に、作中の合間合間で「ぬきたし」というタイトルコールが入るが、例えばアサちゃんがわんわん泣いてるところは泣きながら「ぬきたし」と言っていたりして、しょうもねぇところまでしっかり手入れてんなと感心した。
Bad
■シナリオセレクトが役に立たない
各パート名がネタに走りすぎて完全に判別不能。他者のゲーム名のパロだったり、四字熟語みたいになってたり、100%ネタであり、順番以外は用をなさない。
■タイトルが・・・
別に抜きゲー~が酷いという意味ではなく、それに該当するキャラがわたちゃんと文乃だけであり、もっと言えばそれが原因でNLNSに加入するのはわたちゃんだけであり、さらに突っ込めばわたちゃんそれ自体は(加入のきっかけになる事件があるが)ドスケベ条例そのものではほとんど困っていない。
まあキャッチーなタイトルを優先したんだろうし、それが間違っているとは思わないが、ちょっと違和感は残る。
キャラクター別感想
■わたちゃん先輩
誤魔化しようがないほど「のんのんびより」のこまちゃん。
R18ならではの表現の幅、またメディアを異にすることから可能になったプレイ(視聴)時間の違いによる表現機会の差、これらを考慮してもこまちゃんそのもの。
NLNS的には掛け合いの意味でも戦力的な意味でも必要であり、また本作のテーマに関係するので、これはこれで良かったとは思う、なんだかんだこまちゃんである以上一定の可愛さは保証されるので。
しいて残念な点を上げれば、テーマに直結するキャラではあっても、身長的な意味を除いて何かが欠けているキャラでもないため、成長する要素が無い(=カタルシスがない)点。
SS側の対は礼先輩。
この二人のセットがドスケベ条例という本作の根幹であるテーマに挑む形になり、わたちゃんが成長しない分の役割は敵である礼先輩が担っていく。テーマを考えた際の作中の最重要キャラは(敵方ではあるが)彼女であり、個人的なお気に入りも同様。
余談だが、ロリじゃないですけど!って本作で何回くらい言ったのかちょっと気になる。
■奈々瀬
キーキャラクターその2。
こちらは主人公のキャラ造形的に必要なキャラ。特徴的な属性こそあまり付与されていないが、その代わりに万人受けしやすく、シナリオ上の役割からも良く出来たキャラとは言える。常識人の枠でもあるので、同時にツッコミ担当もこなす。
ただシナリオ的にはどうしても他メンバー同様グランドの前の前座的な扱いになってしまうため、SS側の対である桐香を含めて、「相互理解のツール」というテーマ的にはそこまで強く響くものでもないかなあと。とはいえ作品の流れに外れたものではないですし、ルートとしての出来栄えは消して悪くない。
■美岬
最初は主人公好みの文学少女という設定だったのが、あれよあれよとネタまみれのデブ扱いに。どんな暴言履かれても一顧だにせず、斜め上の切り返しを行うセンスがやばい。
シナリオについては99%ネタと思って間違いない。ネタゲーの看板をフルに使って事件を解決していく。最初にやるとなんだネタゲーか、で終わってしまいかねないので、個人的にはわたちゃんか奈々瀬の後に進めるのがおすすめ。普通に考えて自転車乗り慣れてるからトラック飛行機操縦できるわけはないが、その手の役割を全部雑に美岬に突っ込んでも「このタイトルで、しかもこのキャラのルートならしゃあないな」と思わせるネタ的な説得力はある。
SSの対は郁子。他二人とは対照的に、多分テーマ的なものは無いと思いますが、SSを追われて合流する展開は中々に好み。
■アサちゃん
ボケ、ツッコみなんでもござれの万能無能キャラ。
各キャラごとにダメダメな本性ダダ漏れの対応がしっかり固定されていて、こういうキャラが居るとシナリオが読みやすく、かつ制作側でも書きやすそう。
対兄や奈々瀬でのダメっぷりが非常にアホ可愛く、近年の駄目妹キャラの中ではちょっと並ぶものが思いつかない程度には白眉の出来栄えで、上でも触れた序盤の泣き声タイトルコールは必見。
個人的に親族の名前と被っており、一人称でアサちゃんと呼ばれるたびに笑いのブーストが掛かってなおかわいい。
■文乃
本作のグランド担当にして最重要キーキャラ
あの手この手で主人公に尽くしてくれるところは単純に好ましく、作中キャラに言及されるように、小動物的な動きが非常に愛らしい。序盤から名前が上がるとおり、本作きってのキーキャラクターであるものの・・・いかんせん登場が遅すぎる。
さらに文乃については他のキャラ、つまり自身の意志でNLNSに参加するメンバーと違い、存在そのものがキーになっているため、文乃というキャラクター個性自体の重要性がさほどではなく、結果としてどうしても他キャラに比べて印象が薄い。本作であまり感じなかった、ほとんど唯一の不満
まとめ
バカゲー好きなら文句なく面白く、シリアス好きでも十分読める。
アメイジング・グレイスでは「ジャンルは無理でも年度は代表できる」と書いたが、こちらは年度は当然、ジャンルも代表できる傑作だと断言できる。