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かげらうさんの十三機兵防衛圏の長文感想

ユーザー
かげらう
ゲーム
十三機兵防衛圏
ブランド
ATLUS
得点
85
参照数
346

一言コメント

SF設定は非常に良い。ただ、群像劇の仕様も相まって理解が面倒かつ困難

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

舞台設定については若干ネタバレはありますが、物語の核心や細かい点には触れません。

good

■良質な群像劇
13人の主人公及び周囲のキャラクター像は確立されており、いわゆる着地点が見える王道とは異なり、物語がどうやって展開されていくんだろうという、期待感が常にあります。


■親切な機能群
物語を進めるにつれ、得られるポイント等でTIPSを開放できるようになります。
これによって物語の核心を整理することが出来るようになり、プレイ後の没入感を高めるのに一役買っています。


■斬新とまでは言わないものの、予想を裏切る展開と設定
読んでいて飽きません。本作の最大の売りであり、その名に恥じないレベルだと思います。個人的には「セクター」の発想は非常に好きですね。



bad

■とにかく難解な演出、及び設定
最も気になった点であり、最も面白みを削いだ点です。この原因は

・4つの時代
・自分たちの姿をした、自分たちでない人の夢
・姿は同じだが、名前が異なる人物
・人間だったり、そうでなかったり

等々です。

このため見ている側として5W1Hをそこにいるキャラとリンクさせるのが非常に困難であるため、「誰だか確定できない人物が」「よくわからない場所で」「よくわからない理由で」「誰だかわからない人に」「よくわからないことをしている」局面があまりに多すぎるんです。

これらはTIPS等で判明した情報を完全に理解し、エピソードを閲覧する順番を吟味すればあるいは可能かもしれませんが通常、そこまでの労力を割く人が多いとは思えません。結局、「ある程度物語を進めれば解説されるだろう」という淡い期待で持って、あやふやなまま最終盤まで読み進めることになります。

前半で良質な群像劇と書きましたが、これはその良質さがそっくりそのままデメリットとして跳ね返ってきていますね。各キャラが自由に動きすぎているため、物語の把握が困難になってしまっているのです。

なお、ネタばらし自体は比較的丁寧に行われますが、わかりにくいエピソードに対するフォローは行われません。回想モードでは、そのエピソードに登場するキャラが、「どういう状況に属するキャラなのか」字面で触れられていますが、そこまでされてすら尚わかりづらいです。「Aが~した、って書いてあるけどこれどのAだよ」となってしまうんです。例えばMというキャラについて言えば、その名前に分類できるキャラが何人もいますからね。こうした混乱を回避するためには他のエピソードを網羅的に理解することが必須です。これは設定的な失敗というより、演出上の失敗だと思います。Mを複数人出すなら出すで、エピソードをころころ自由に選択させずに、特定のMを連続して見せるようにすれば回避できたのでは、と思います。それどころか一本道で良かったのではないかとすら思いますね



■特に必要とは思えなかったADVパート
ある特定の場面からスタートし、操作キャラの行動によってエピソードが展開されていくのですが、その行動を変えたり、また既に得られた情報を元にすることでエピソードが変化していきます。これ仕組みそのものはまったく問題ないと思うのですが、言い方を変えれば、セーブ&ロードで前の選択肢に戻って選び直しているのと構造としては全く同等です。

で、そう考えるとこの流れは酷く作業的なんですよね。むしろ「あのキャラがいなくなる前に話しかけて――」みたいにタイミングや動作が強要される分、本作の仕様の方が面倒くさいです。既プレイの方なら共感していただけると思いますが、女子高生3人が道路でクレープ食ったりしてる場面、進める仕組みがわからず一体何十回猫を出したり引っ込めたりさせたことか・・・

他のエピソードでも進め方がわからない場面は何度も有り、無駄に画面上を右往左往させました。完全に時間の無駄です。キャラを動かすのはいいとしても、エピソードをどちらに分岐させるかは選択肢として固定してしまってよかったように思います。少なくとも自分は没入感の妨げとしか感じませんでした。



■戦闘パート
酷評するレベルではありませんが、それでもミニゲームよりは明らかに上、シミュレーションとしては~凡作程度でしょう。やることは大差ない上に、発展性が有りません。後半になるにつれ敵が増えるだけです。13人いる操作キャラの役割も、おおざっぱに4世代に分かれているだけで、後は使えるスキルが違う程度であり、結局は誤差レベルです。

まあ読み物が本筋である作品で無駄に難易度が高いよりは余程マシではありますが



■.主人公による、努力(できる環境)の欠如
一応、13人の中で重要なのは十郎になるのでしょうが、○○の影響で記憶がふわふわしているせいもあって、問題解決のために奮闘している感覚が全く無いんですよね。これも群像劇のデメリットでしょうが、13人がそれぞれ受動的に事態に巻き込まれて行くという都合上、誰かの働きですっぱり解決という結果を取れないのです。

このため、主人公に読み手として共感することが難しく、カタルシスを得ることが出来ません。紅莉栖を救うためにラジ館にタイムワープしたオカリンのような、あの感動を得ることが構造的に出来ないのです。もし、現代の十郎ではなく、あの十郎視点による物語ならあるいはそれも可能かもしれませんが



■プレイを通して物語の筋が複雑すぎる
ネタばらしが始まるタイミングが遅すぎます。序盤中盤なんなら終盤も結構なところまで、物語を理解するためのとっかかりが与えられないため、道中の消化不良感が半端ないのです。どうしても物語のどんでん返しは最終盤に持ってこざるを得ないため、そこだけの瞬間最高風速は凄まじいのですが・・・物語全般を通して楽しめたか、と言われれば断固として「NO」と答えます。

これもシュタゲ準拠になってしまいますが、あちらはまゆりがああなった辺りからエンディングまで、「どうなるんだろう」「どうしよう」というテンションを維持していました。あれはタイムリープしてもどうやっても問題起きちゃう、という実にシンプルな話の筋だったから出来たのです。リープの仕組みはどれだけ複雑であっても「そういうもの」として読み飛ばすことが可能ですし、読み手を選ばない素晴らしい構成です。

一方こちらは、というと・・・まあ流石に比較対象が悪すぎますかね




■まとめ
良作以上であることは間違い有りません。煮詰められた設定だけで考えれば、ちょっと並べる作品が思いつかないレベルです。ただ娯楽のための読み物としてはいくつかの致命的な欠点を突きつけざるを得ませんでした。

シュタゲ準拠でグダグダ言いましたが、逆に言えばそうまでしないと粗探しが難しいということでもありますので、この路線を維持して別作品ができればまたプレイしたいとは思います。