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かげらうさんのひこうき雲の向こう側の長文感想

ユーザー
かげらう
ゲーム
ひこうき雲の向こう側
ブランド
FLAT
得点
60
参照数
503

一言コメント

表向きのゲームの『売り』が正しく活かされていない

長文感想

端的に期待外れだった。
OP時点での、義妹に好意を抱きながら、それが叶うことはないという『ひこうき雲の終わり』という優れた設定がそこかしこで台無しにされていく過程が残念だった。
ほとんどのルートで設定に対して効果的なシナリオが書けていない。

よく話題に登る瑛莉エピローグについても、特に真新しい何かがあるわけではなく、極論を言えばどんなゲームのどんなヒロインでも可能な演出に過ぎず、シナリオ自体の評価には何ら関係しない。


以下、ネタバレ有で分けて各ルートに触れる。












■美奈ルート
10年続いた想いが、いずれの形にしろ作中で昇華されるのは美奈ルートのみ。
想いを向ける対象者なのだから、それは読み物として当然なのであって、本来評価されるべき点ではない。
ただし、消極的な意味で本作の設定上の柱がメインに据えられるのもこのルートのみなので、作中では最も高い評価せざるを得ない。


■いろはルート
身体から始まる恋もある……

交際相手として凡そ非の打ち所のない佐藤さんを振っておいて、
佐藤さんを振ってまで想い続けた美奈がいるにもかかわらず…
それにもかかわらず、貴様はどの口で物語を語るか、と。

酒に寄って女性にキスするほど溜まってるなら最初から告白を受けるか、風俗にでも行きなさい。
言動が一致しない、あらゆる創作の中で最も嫌悪されるべき人物描写。
眼帯やらいじめやらにもシナリオ上での大した意味はなく、作品のテーマに対して何ら価値を持たないルート。


■綾ルート
おまけのおまけのようなもの。
物語の本筋ではないので減点されるべきものではないが、特に価値のあるものでもない。


■瑛莉ルート
(それと感じられる人にとっては)エピローグがその価値の9割を占めるルート。
ただし、冷静に考えれば本編での進行は杜撰極まりない。

・恋愛を知らないという割には、最初にキスした辺りから主人公に好意ありあり
→本当に恋愛を知らないなら、そもそも顔を赤らめたり高鳴りを表現するべきではない。
主人公だけが彼女に好意を持って、彼女はそれを意に介さない、というのが自然だし、そうでないとおかしい。
恋愛できない→できたの重要過程が無く、、主人公から美奈への葛藤も無いためシナリオに深みが全く無い。


・盗撮カメラと試練
→恋愛を理解できないという異常者の表現方法としては充分ありだし、実際に好印象を持った。
ただ現に盗撮されていた主人公がそれを責めないのも心情として明らかにおかしい。
盗撮というインモラルを消化させるには、周囲がそれを厳しく批判して現象を地につけてやる必要があるのに、それが出来ていないから、(実際そうだが)瑛莉がそのままゲスにしか見えなくなる。
少なくともこれは、カメラを回収しました、で済むラインは超えてしまっている。


・『契約』
→主人公は親友が妹に告白仕掛けるシーンを瑛莉の盗撮で知り、それを邪魔させる事と引き換えに、瑛莉を主人公に惚れさせた上で振る、という対価を払う。

告白を邪魔させることに同意するのは大変良い。
その見返りとして瑛莉に協力するのもまた良い。

ただ上に挙げた最初から恋愛感情が出てしまっていること、美奈への葛藤がないため、なんとなく気になっていた二人が性欲のまま乳繰り合うだけという結果にしかなっていない。
また、最終的に「振る」というのもシーンとしての見栄え・設定ありきで、『恋愛を知れた』のなら、それを破壊させる必要性を感じない。

恋愛を知らない異常者だからと見れる向きもないではないが、楽しいことがないから恋愛を知る、というのならそうして生まれた『楽しいことを終わらせる』理由が全く無い。
実際、廃部決定時も同様の理由で強く抗っており、一貫性がない。

瑛莉はシナリオ上のキャラクター造詣に不可解な点が多々あり、とても好意的に見ることが出来ない。



■佐藤さんルート
メインヒロインではないにも関わらず、舞台装置として最も本作を的確に彩ったかなりの良キャラ。
本作のテーマに対して、最も忠実で、真摯で、それ故にお話の上で報われることがない、虐げられてこそ輝く不遇の人。

とはいえ、彼女の告白を受けさせてその上で美奈への思いを断ち切らせる等、自然かつ美味しいシナリオ展開はいくらでも考えられるため、惜しいという感覚が強い。

その殆どが酷評されてしかるべきキャラ描写、シナリオ展開の中で、彼女だけは終始言動が一貫し、また必要に合わせてシナリオを盛り立ててくれる。

自分の本作の評価点の内、
70%:佐藤さん
25%:主人公が入部するまでの展開
5%:美奈ルート

の割合と言えるほど、彼女の描写・存在感が抜きん出ている。
(逆に言えば他が抜きん出て悪い)


■まとめ
テーマに対しての無頓着さや、キャラクターの心情の不自然さで萎えてしまう人には特におすすめできない。
逆に酷な事を言えば、それらしい演出でも満足できる人であればオススメすることは出来る。