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かげらうさんの魔導巧殻 ~闇の月女神は導国で詠う~の長文感想

ユーザー
かげらう
ゲーム
魔導巧殻 ~闇の月女神は導国で詠う~
ブランド
エウシュリー
得点
60
参照数
670

一言コメント

名作「エレンシア戦記」の劣化版。理不尽仕様多数

長文感想

DMMでセール中のため購入。
決して駄作とまでは言いたくないが、とにかく常軌を逸しているとしか思えない仕様が多数存在しており、スタジオエゴきっての名作(異論は認める)キャッスルファンタジア ~エレンシア戦記~の超劣化版としか思えない。ジャンルや操作感はある程度似通っており、片方が楽しめればもう片方も楽しめるだろうくらいにはそっくりだと感じているのだが、エレンシア戦記の方はエロゲ故の完成度さえ目をつぶってしまえば


・名うての傭兵が故郷に戻って戦乱の中、英雄になっていくまでの王道で良質なシナリオ
・弓チク、魔法チクが前提とはいえ操作がそのまま結果に繋がるという攻略感
・自国から敵国に至るまでの味方キャラ描写の秀逸さ(セリカ推し)
・キャラエンドはあるが、一本道故の安定感


これらが先発であるにも関わらず魔導巧殻より上を行ってしまっている。
操作性は似たようなものであるにも関わらず、あちらではクリックの反応が悪いなどということはなかったし、拠点の柵に自動攻撃してイラつくようなこともなかったし、ましてや3人などというアホらしい人数制限もなかった。


エウシュリーそのものについては幻燐、戦女神、そしてやはり名作と名高い「神採りアルケミーマイスター」等々、エロゲ業界においては応援していきたい存在ではあるのだが、7年前とはいえRPG開発経験がある中でのこの程度の出来栄えでは擁護するのは難しい。

以下、システム面について酷評していく。



■出陣キャラ総数=3というショボさ

控えも含めて戦場には10ユニット参戦可能ではあるものの、戦闘に、つまりマップ上に同時に存在できる味方は3ユニットのみ。後述する操作の面倒臭さもあってあまり多すぎても困るが、3は余りにもお粗末で初見では面食らう。

例えば作中では弓兵、魔法兵等の長距離ユニットが存在するため、物理職で蓋をして後方からチクチクする、という戦法が単純に有効になってくるのだが、当然ながら

上限3ユニット-(壁部隊+遠距離部隊)=残り1ユニット

という極めて残酷な数式が常に成立するため、戦術の幅があまりにも狭い。

この仕様は敵方に関しても悪影響を及ぼしており、例えば囮ユニットで敵を釣って弓部隊と連携して撃破!と思いきや敵を撃破した瞬間に、敵AIは残存ユニットを即時投入するため、敵出陣範囲が広く設定されているマップなどでは敵部隊が目の前にワープしてきて???となる。

アプデ前(速度選択が実装される前)であればせめて5ユニット程度の仕様であっても問題なかったように思うし、そもそも最初からすべてマップに表示されている状態で何がいけなかったのか理解に苦しむ。




■レベル差の理不尽

チュートリアル時点で既に敵レベルがこちらの倍、というのは流石に製作側の正気を疑う。
(アプデで出陣ユニットが3から上記10ユニットに変更されたらしい?が)SRPGに心得がわずかでもあれば敵を釣って囲んで叩くのは常識なので自分は余裕ではあったが・・・ただ釣って温存して3ユニットで囲んでなお結構際どい結果なので、これはなんとも・・・

ゲームの作法としてこうした定石を覚え込ませるのは必要だが、それならそれで完全に手順を固定してその通り指示してやれば良い。誰もが一度は全滅するチュートリアルなどその役目を果たしていない。

また、このレベル差は序盤で再度顔を出し、その時はこちらのレベルが10行くか行かないか、敵のボスレベルが30という最早正気とは思えない数値になっている。ゲームの仕様上いくらでも勝ち目は作れるが、やっていて気持ちのいいものではない。



■レベルアップの理不尽

まず経験値の仕様がおかしい。
レベルアップに必要な数値も入手する数値も(見た限り)一切変動せず、つまりは低レベルのザコ相手にどれだけ連戦するかが成長に直結するというなんとも残念仕様。

そしてさらに残念なことに、各ユニットが得る経験値の圧倒的大半は毎週復活する雑魚クエストであるということ。つまり毎ターン同じ相手に同じことをして同じ経験値を得る賽の河原モードになっている。敵国との戦闘頻度はゲームを通してそこまで高いわけでもなく、また上記仕様により経験値獲得数は敵撃破数に依存するので、結局は毎週の依頼をこなすしかない。これが面白いという人間はもはやゲーム制作に関わるべきではない。




■進行の不親切さ

序盤でシナリオのルート選択が行われるのだが、いつまでたっても進まないなーと思っていたところ、自拠点のはるか西方にある都市に画面をスクロールして移動しないといけないことが判明して仰天。

シナリオ上でそこに挨拶に行かないとな、とはいってはいたがそんなもん自動でイベントにしてくれと。少なくともそこまでにマップから拠点を選択してイベントを進めるという要素が無いところに突然そんなものぶっ込まれても困る。

そういう作りにしたいならマップからアイテムを拾える等々の動線を予め張っておくべきで、はっきりとセンスがない。




■操作の面倒臭さ

SRPG(RTS?)の仕様上多少やむを得ない面もあるがとにかく面倒。
物理職の場合は座標が大幅にずれていなければまだいいが、弓魔法については

・(スペースでポーズをかける)
・(移動速度を上げるため、移動陣形に切り替える)
・まず射程ギリギリの位置まで移動させる
・(スペースでポーズをかける)
・左クリックでユニットを選択肢、敵方向にカーソルを合わせて右クリックで向き直す
・(攻撃陣形や防御陣形に戻す)

()内については任意だが、これを攻撃対象ごとに、もしくは敵ユニットが移動するたびに行っていくことになる。
遠距離ユニットについては多少のズレは許されるが、あくまで上下左右への攻撃であるため、斜め位置の敵には無力な点も面倒臭い。

さらにこれも後述する要素に関連するが、少しゲームを進めると敵が必殺技を連発してくるため、技の範囲内にぬぼーっとユニットを留めておくと、後衛どころか前衛もユニット付きの兵隊がすぐにいなくなってしまう。よってこまめな移動や丁寧な位置取りはほとんど強制に近い。

また、ユニット選択等の反応も(処理上の問題の可能性もあるが)あまり芳しくない




■必殺技の理不尽

端的にゲージが溜まりやすすぎる。
時間経過で、撃破で、被撃破でとにかく加速度的にゲージが溜まる。特に被弾時(≒小隊減少時?)の伸びが著しく、囲んで棒で叩いているとすぐに必殺技が飛んでくる。

ユニット本体は必殺技で落ちることはないのだが、お付きの小隊はガンガン削れていくため、こちらで上手く被害を軽減してやらないと出陣3ユニットの兵隊が一気に消えて無くなる。結局消耗戦になりやすくなり、これなら別に自分が操作しなくても同じやろという虚しさが出てくる。

実際はエウのゲームは属性の相性差がデカイので相手のユニットに対応してこちらも属性を選ぶ必要があるが、それらも操作感とユニット上限の都合からひたすらに手間がかかる悪循環。




■敵本拠地帰還の理不尽

今作のユニットには

・ユニット(隊長キャラクター本人)のHP
・ユニットに付随する小隊のHP(兵種HP*人数)

と二種類のHPが設定されており、小隊のHPを削られるとステータスはダウンするが、本人が健在であれば戦力的に微妙になってもユニットとしては成立する。また、戦闘で小隊が壊滅した場合はその戦闘中は復活しないが、隊長本人のHPは本陣に帰還させると5カウントで回復する。

これだけであれば問題ないのだが、各戦闘では制限時間(カウント)が設定されており、これを超えると防衛側の勝利となってしまう。つまり(基本的には攻め手に回る)こちらにはメリットが無く、(基本的には守り手に回る)敵には圧倒的に有利になる。

敵を追い込んで最後のユニットになっても、その本体HPを短時間で削り切るのは(特にこちらも小隊を消耗している場合)時間がかかるため、そこから敵本陣に逃げ込まれると無尽蔵に時間とこちらのHPが減っていく。敵本陣そのものを攻城陣形+ユニットで落としても良いのだが、それらは限られたユニットしか持っておらず、そうしたユニットは戦闘力自体は微妙であり、さらには一瞬で城を落とせるわけでもない。(攻城ユニットはあくまで居留守的に用いるのがメインのハズなので)

そのため敵ユニットに本陣に駆け込まれると非常にイラッとする。5カウントで回復ではなく、カウント経過でHP回復にしておくという仕様ではない理由が意味不明。




■UIの問題

色々あるが、自分的にイラッとした点は

・各拠点に駐留しているユニットが一覧で見れない
・配置物のアップグレードの感度が良すぎて複数回行われる

特に前者はプレイするたびに不快感を覚える。
移動時のユニットの管理が拠点単位ではなく所属全ユニット単位となっている(既に何を言っているかわからないレベル)ため、Aさんはこの拠点にいてBさんはここでCさんは・・・という一覧が表示されるおよそ人間が作ったとは思えない無秩序な仕様。

アプデで?軍団化と称した機能が搭載されているため、複数のユニットを一括管理しておけば多少マシにはなるが、それはつまり拠点ごとにその都度グループ設定をしておけという強制に他ならない。


結局ユニット移動させる場合は


「ユニットが存在する移動元の拠点ではなく」移動先の拠点を選択する

その拠点に移動可能なユニットがすべて表示される(拠点2つ移動可能なユニットもいるため、さらに一覧が煩雑になる)

自分が移動させたいユニットを一覧から的確に探し、選択する


という七面倒な行為が強制される。
まあそもそもユニット表示の並び順すら変更できないシステムに期待することなどないのだが




■ユニークユニット弱すぎ問題

これはもう上述した経験値の仕様が絶望的に悪いのだが、雇用可能なモブユニットは同種間でステータスを共有するため、経験値取得及びレベルアップに対する効用が非常に大きい。
一方ユニークユニットは一生懸命経験値を吸わせたところで育つのはそいつ一体のみであり、イベント戦や一部強ユニットを除き趣味の領域でしか無い。

SRPG好きとしてはユニークキャラには可能な限り贔屓をして行きたくなるが、それは非効率な部隊の運用とほとんどイコールで繋がる。また言うほどユニークとモブに差があるわけでもない。もっと言えば顔グラと名前だけはあるモブとすら言える。




■数値(要素)多すぎ問題

拠点の環境値や人口など、存在しなくてもゲーム体験に影響しない無駄要素があまりに多い。
なんでもかんでも詰め込みすぎた結果、開発側は調整に難儀し(場合によっては放置し)ユーザー側はその把握にすら苦労する。端的に要素の取捨選択がまったく出来ていないと感じる。

属性ごとの相性もこれらのお仲間で、「無属、物理、万能、地脈、火炎、冷却、電撃、神聖、暗黒、神格、魔神、反万能、霊体、不死、創造」これらについて相性がそれぞれある訳で、最早把握する気にもならない。魔神辺りはエウの特色といえば特色に当る部分だからいいとして、神格は神聖か魔神に統一されてもいいし、暗黒と霊体、不死辺りに至っては別れている意味がわからない。もっと言ってしまえばマニュアルの時点ですでにごちゃごちゃ小さくて見る気になれない。

しつこいようだが、エレンシア戦記には侵攻先を選べるような全国マップはもちろん無かったし、把握しきれないほどのユニークキャラもいなかった。SRPG部分のステータスはごくわずかで、シナリオも一本道・・・だが出来の悪い闇鍋よりは断然面白かった。

神採り辺りもこの辺りの批判は免れないところだが、そこは奇跡的な出来の良さと(ファイアーエムブレムのいいところを素直に見習ったんじゃないかという)オリジナリティの無さ故に高く評価された。

コンシューマーとは開発規模が天と地であることは理解しているので、どうか自分の手の届く範囲を再認識していただきたい。