最後までたどり着ければいい作品ともいえる
周回ごとのおおまかな感想は一番下の総評だけ見てください。
恐らく、ゆいが可愛いと思える人は(四週目まで耐えれば)いい作品でしょう。
まず、ゲームを始めていくつか違和感あり
①柔道部が暴れすぎ
普通、たかだか文化祭で見せ場を作るために暴行を繰り返したり、女生徒を人質に取ったり、生徒会に殴り込んだりしません。仮にしても廃部、退学、警察沙汰で終わりです。
序盤のドタバタ全般が白々しいを通り越して痛々しい
②三つの課題
すなわち、天文部が解決しようとする幽霊騒動、眠り病、5Fで続発するトラブルです。
これらは問題そのものが天文部にとって何ら影響がない上に、解決に向かわない(そもそもが解決不可能なのですが)ので、活動が空回りしている感が否めません。
一応、これらは物語上の伏線ではあるのですが、その果たしている役割と言えば序盤の尺稼ぎ以上の存在ではありません。
眠り病に至っては、完全に主人公達による人災であり、設定そのものが蛇足とすら思えます。
では改めて、本作の主題とも言える部分について。
佳織が事故に遭い、それを回避するために奮闘していく――これが物語の骨子なのですが、他の方が言っているのと同様に、Anotherという扱いで極めて容易に悲劇を回避できてしまうため、トゥルーエンドとも言うべき真の結末が若干お粗末な物と化しています。
正確にはそうして佳織が助かった時点で、彼女の事故を契機として生まれる「ゆい」が因果の関係で消失するので
「これじゃハッピーエンドとは言えない!」
と思った方もいるでしょう。それは感想として正しいのですが、しかし誤りです。
なぜならプレイしている段階では――少なくとも(YUIS)ルートに入り、彼女の奮闘した背景を知るまではそれなりに固定周回を重ねる必要があるからです。
言い換えれば、そこに至るまでのプレイが単調で味のない物になっています。
さらにその単調さに輪をかけるのが、各ルート間での非常に似通った展開です。
基本的にほとんど同じ出来事を、攻略するヒロインの違い程度で駆け抜けるため、既読スキップも出来ず、茶番のようなAnotherを鑑賞することを強要されます。
逆に言えば、ゆいルートに入って以降は今まで未消化であった伏線をなぞれるため、物語としてのクオリティはそれなりです。もっとも、そのゆいルートですら視点が彼女に移っているだけで、イベントの似通い具合は相当な物ですが。
それから個人的に作中の許容しがたいご都合主義がありまして、それは
・佳織の精神をゆいに移し替える水準の技術(ぎりぎり未完成)
・人造人間を作れる技術(ほぼ完成)
・タイムトラベル(完成)
の3者が併存していることです。
これらは物語を成立させる大前提ですが、少なくとも物語の2008年段階では技術的にその土壌があるとは言い難く、たかだか14年の間に主人公の希望を満たす3つの技術が発達するというのは都合が良すぎます。
結果として精神の移し替えは失敗しますが、予備策としてタイムトラベルが残されているなんて、なんと優しい世界であることでしょう!
現に愛理は過去を行き来して、過去の自分に理系に進むよう指示と情報を与えています。
制作者に言わせれば、それだけタイムトラベルが用意でも、因果の鎖とやらを覆すのは難しいということでしょうが、それではAnotherの存在が蛇足になります。
結局はその因果の鎖なるものが胡散臭いのです。
車での事故を防げば、別の最悪の事故を呼ぶ恐れがある?
ならAnotherはどうなんだ、と。
結果として、プレイヤーは容易にタイムトラベルをしている一方で、「何故か」悲劇の回避は難しいというジレンマを味わうことになります。
その理由として、これはこの作品全体に言えることなのですが、あるシーンや設定を表に出す、その方法や順番が致命的に下手なのです。
例えば一週目のバッドEDの段階で、主人公と愛理がゆいを過去に送り込もうとしている14年後のシーンが見せられます。この直後、佳織のAnotherが解放され、結果として「悲劇を回避」します。
直接の記述や演出はされませんが、クレーンでの事故を回避したのは影で「ゆい」が影響を及ぼしたのでしょう(これはYUISでの描写ですが)。
その背景自体は魅力的ですが、それが明かされるのは実質5周目であり、そこまででプレイヤーが萎えてしまいます。
別の言い方をすれば、過去に送られた「ゆいの役割」を効果的に演出できていないんです。記憶が確かであれば、どのヒロインのルートでも「悲劇」の発生日時以降、ゆいの姿も、彼女の話題がでる事もありません。
つまり、丹念にシナリオを追っている、もしくはゆいに注目しているのでない限り、彼女の存在が空気になってしまうんです。
水を差す形になるかも知れませんが、それぞれのヒロインが迎えた幸せの背景に、実はゆいの努力があったことを示す何かがほんの少しでもあれば、それはプレイヤーに対して次の周回へ向かわせる強い牽引力となったはずです。
ところが、これが実際に明かされるのはYUISのコンプリート前、言い換えればトゥルーの一歩手前です。
(逆に言えばそれだけカタルシスが大きくなるとも言えますが、物語として最後だけが面白ければよいという体裁を、私は強く嫌悪します)
また、各自主人公に好意があったならもっと貪欲になって欲しかった。
そう言う意味では某エンドの愛理は人間味があって素晴らしかった。
好きな男を取られるために14年研究するなんてはっきりいってありえないです。
人はそんなに強くないし、強くあるべきでもない。
@総評
一週目(佳織)→ふうん、こんなもんか
二週目(愛理)→ヒロイン違うだけ、つまらん
三週目(凪沙)→同上。
四週目(ゆい)→やっと物語が動いた
五週目(YUIS)→ここでやっとゆいが可愛く思えるようになる
YUISの穴埋め→かったるい
トゥルー→予定調和