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えびさんの君が呼ぶ、メギドの丘での長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
君が呼ぶ、メギドの丘で
ブランド
Leaf
得点
90
参照数
5165

一言コメント

絵23+文19+音18+他30 「この作品の見せ場は何処だ!?」 私は迷わず応えます。 「はい、マリアの腰です!」

長文感想

予想以上に良く出来ていました。
ちと、高評価が過ぎますが、他30とはゲームと3Dに対する評価でありまして、他作
品とは一線を画す要素ですので、追加しております。その部分を評価対象外とするな
らば、90点満点中60点という、まあ、至って普通の凡作です。
しかし、発売日に買ったのに、二週間も放置していた辺り、自分でも期待していなか
ったんだなーと。

映像面・・・
大いなる疑問。
――なぜ、この3D化されたADVパートを評価する人が少ないのでしょうか。
例えば、『らぶデス(TEATIME)』がADVパートを3D化した際、『仕草萌え』と
いう言葉を生み出しました。エロゲーに吹き込んだ、あの春一番は、しかし、今もっ
てして、梅も桜も咲かせていませんが。
『君が呼ぶ、メギドの丘で』も、3DによるADVパートの表現を採用しながら、ユ
ーザーの注目の多くは、そこには向かっていません。曰く、主人公がヘタレだの、R
PGの難易度がどうだの、エッチが2Dだの、なんだのかんだの……。
ですが、この作品の最大の功績は、3D化されたADVパートにこそ、あるのではな
いでしょうか。
そこを批評をする人が少ないのは、『ツッコミどころ』の少なさであり、無難である
が故の地味さが介在するからでしょう。けれど、それはこうも言えるのではないでし
ょうか。
――自然に溶け込んでいる、と。
『らぶデス』でやろうとした、3Dの『仕草萌え』に対し、正当な評価でアンサーを
返しているのは、直系の『らぶデス2・3』でも、姉妹ブランドの『すくぅ~るメイ
ト』でもなく、意外にもLeafという、老舗大型ブランドの新作だったのではないでし
ょうか。

何より残念なのは、この作品がRPGでなく、ADVであったら、これ程『動く』ヒ
ロインに、胸をときめかせた事でしょうに。
そうなのです。今の紙芝居ゲーを突き破る表現方法として、3Dは間違いなく、比類
なき威力を秘めた、『矛』となるのです。
私は、Leafというブランドに対し、特別な思い入れはありません。このブランドが無
くなっても、私は困りません。しかしながら、Leafが手に入れた、この『矛』を、今
後、どのように振るうのか……。私にとっての気がかりは、その一点のみなのです。
そして、その『矛』を振るい続けるには、ブランドの地力が必要です。TEATIMEのよ
うに、『矛』の重さに振り回されているようでは、まぐれ当たりを期待するしかない
のです。
私は、Leafに第一人者になって欲しいのかもしれません。そこに続く、新たな可能性
を見たいが為に。

そして、私は言いたいのです。「挑戦者、求ム」と。

シナリオ・・・
実に歯痒い。
何故、これほどのハーレム条件を満たしながら、これほどまでに、エッチが少ないの
か。
何故、宿屋に泊まったら夜這いに来るヒロインがいないのか。
何故、ヒロインと主人公が二人きりになったら、ところかまわずエッチしないのか。
何故、複数人プレイが無いのか。
何故、何故? なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ……なんでなんだぁァァ~orz
(あぁ、エロゲに毒されてるな。)

エロければいいとは言わない。コンシューマ化を見据えて作品を作っても良い。しか
し、我々は『エロのあるゲーム』をしたいわけではない。『ゲームのあるエロ』を楽
しみたいのだ、と。
これらは、コンシューマ化を見据えた弊害であるかもしれないし、ブランドの方針が
そうなのであって古参ユーザがそれを望むのなら、あえて声高に叫ぶことではないの
かもしれない。
しかし、エロゲにあってヒロインが魅力的であれば、エッチを求めるのは、エロゲユ
ーザーの正常な反応ではないのか。
ヒロイン達が定型でありながら、それでも魅力的なのは、ヘタレであっても憎めない
主人公ベーグルに、恋をしている姿が愛らしいからである。いじらしいからである。
それを、2D3D織り交ぜて、表現しているからである。であるから、エッチしたい
のである。
コンシューマを狙うなら、何もエッチをシナリオに含ませる必要は無い。それこそ、
街に帰ったら誰かを選んで、部屋に誘うだけでいい。エッチが使いまわしでもいい。
何故、もう一歩踏み込んで、『18禁』の旨みを使おうとしないのか……。

さて、足りないエロを補う手段。その手段の最たるものが、『個別ルート』である。
だが、RPGという、長いプレイ時間を必要とするジャンルにおいて、ルート分岐は
大きな障害となる。
ヒロインの数だけ周回させれば、ユーザは間違いなくダレる。ある程度、話が進んだ
ところで分岐させれば、各ルートがおざなりに感じられ、また折角、レベルを上げた
のに、中途半端なレベルから再開するという苛立ちも感じるだろう。
よって、エロゲと『レベルの概念のあるRPG』は、相性が悪いといえる。


話は変わって、「ヘタレ、ヘタレ」と貶されまくった主人公・ベーグル。
物事をのらりくらりと受け流し、寄りかかれるものがあればなんにでも寄りかかる。
その寄りかかるものが女の子であっても、決して強がって見せたり、かっこつけたり
はしない。寧ろ、どうせ寄りかかるなら、女の子の方がいいなーなどと、世の男性が
腹の底に押し隠している部分を、堂々とさらけ出してしまう。
確かに、彼はヒロイン性の強い主人公である。誰かを攻略するよりも、誰かに攻略さ
れる対象である。
この物語のヒロインたちは、そんな駄目な彼を慈しみながらも、彼に対する『ツッコ
ミ』役に徹する。そうする事で、パーティの和は保たれているのだ。そして、誰かの
抜け駆けが、何より、『彼』を悲しませる結果を産むと知っているから、彼女らは自
らの意思に線引きをし、奇妙な共闘関係を続けていく。

彼の、子供のような無邪気さは、とても残酷なのだ。

だが、彼は言う。自分が、根無し草だと。自分には、こういう生き方しかできないの
だと。困っている女の子を、見捨てるなんて出来ないのだと。

実にエゴにまみれているが、彼と誰かが結ばれたとしても、彼は他の誰かが困ってい
たら、それを見ない振りは出来ないのだ。そして、その行為が、また新たに誰かを困
らせてしまうと知っているのだ。
であるから、彼は、誰かと一線を越えようとしない。
例えエゴであっても、そこに彼なりの哲学が存在するのであれば、安易に否定するだ
けが、この主人公への評価となることは無いのではないだろうか。

そう考えると、そのエゴが、作品のエロの薄さに直結しているという一面は、確かに
否定できない。しかし、やはりエロゲとしては、微妙であるというのは、覆らないわ
けであって……。
結局、『ヘタレ』とは、エロゲと相性の悪い主人公像を、指し示す言葉なのかもしれ
ない。

音楽/声優・・・
RPGというジャンルにあって、BGMが持つ意味は、ADVとは少し違う。
ADVにおいて、『日常のBGM』は出しゃばってはいけない。しかし、RPGにお
いては、戦闘やフィールド毎に用意された音楽は、個性的でなければならない。
派手さはなく、ドラマチックさに欠けるBGMだが、その質は決して低くなかったよ
うに思う。及第点。
OP曲も同様で、ボーカルにもう少しの華があれば、随分と違った印象であっただろ
う。しかしながら、ボーカル自体が下手ではないから、無下に否定も肯定も出来ない
という印象を受けた
声優は、好演であったが、ヒロインの声質にタイプの偏りが見受けられる。それは、
作品の雰囲気と、ブランドイメージに合ったキャスティングではあるものの、そこに
凡庸さは否定できない。


3D表現も綺麗で、RPGとしてのゲームバランスも良く、シナリオも及第点。音楽
も声優も悪くない。
では、この作品、何が悪かったのかといわれれば、『組み合わせ』であろう。
――ADVパートの3D表現と、RPG特有のキャラ同士の絡みの少なさ。
――エロゲに向かない主人公と、エロゲに向かないRPG。
――あるいは、それらを破綻させずに繋ぎ止める、『何か』の存在の欠如。

今後、この作品を否定するのではなく、新たな『何か』を産み出す橋頭堡となってく
れれば、と切に願う。