絵22+文25+音28+他13 製作者様方へ。あなた達の目指した物は、決して間違いではありません。ここに、リリース時にプレイしなかったことを、深く後悔している者がいます。
発売時、この作品には注目していた。しかし、延期があったり、私自身の多忙さから
プレイに至らず、その存在を失念していた。
そして、たまたま、ワゴンで見つけた、この作品。
すでにブランドは解散。処女作で散ったブランドは数知れないが、そんな作品である
が為に、知名度も地に落ちている。格安である。
他に数本をまとめて購入。結果、購入してから半年近く積む事に……
――ああ、積んでて、ごめんなさい。発売時に買わなくて、ごめんなさい。
こんな『名作』だとは、思いもしなかったのです。
映像面・・・
この原画のポップさは、一見、エロゲに不向きと思われる。そこに、キュートはあっ
てもセクシーを見出せない。そう思わされる。しかし、あくまで『一見』である。
その実、この原画は、『脱いだら凄い』のである。
さて、こういったポップさを売りにする原画ながら、メカニカルな部分の描き込みも
よく練られている。『女の子とメカ』という、間逆の要素を、いかに融合させるかと
いうのは、なかなか難しいのではないだろうか。つまるところ、どこを露出させ、ど
こを包み隠すのか。そのバランスが素晴らしい。
難点を挙げるならば、ゲームの内容からして、もう少し、燃え要素を意識した画面演
出が欲しかった、と感じる。
シナリオ・・・
白と黒の生命体というものが存在する。
二つの生命体は、銀河を渡り歩きながら、途方も無い年月を戦いに費やしてきた。
それこそ、自分達の出自も忘れてしまうほどの、年月である。
そんな戦闘の中、深手を負った白の生命体は、我々の故郷・地球に降り立つ。
主人公・晃はどこにでもいる学生である。その日、彼は二つの生命体の戦いに巻き込
まれ、死を迎える。
しかし、彼の、命を救った者がいる。
それは、一人の少女。
少女は、白の生命体の一部であり、人の姿を模倣して作られた存在であった。
彼女は、晃の脳にアクセスし、そのデータベースから『エミュレートした心』を持つ
事になる。
そして、更に二人の少女が晃の前に現れる。
彼女らもまた、模造した心を持つ少女達である。
偽りの心を持った少女達と、平凡な少年の、奇妙な暮らしが、ここから始まる。
さて、少女達は、元来、自分達に備わっている機械的なロジックと、人間の柔軟な思
考との狭間で揺れ動く。
元来のロジックが強要するのは、戦闘生物種としての自己。
エミュレートに過ぎないはずの、人間の心が、元来の自己とせめぎ合うのだ。
柚梨は、心を持った事に戸惑い、苦しむ。
彼女のロジックは他の誰よりも、システマチックだった。けれど、人の心とは、もっ
と柔軟であやふや。その違いに、彼女は苛立つ。
柚梨は思う。どうして自分の思い通りに行かないのか。どうして皆は上手くやれてい
るのに、自分には出来ないのか。
そんな彼女が知った。――誰かと心が繋がる喜び。
そして彼女は知った。――誰かに拒絶される怖さ。
彼女の心が悲鳴を上げる。
真弓は、とても人間臭い。
陽だまりにも似た暖かさ、優しさ。晃が言うように、母性に満ち溢れた彼女。
そんな彼女が言う。「晃さんが好きです」
しかし、どれだけ人間らしくとも、彼女の中に根付いているのは、『戦闘生物種』の
機械的なロジック。
彼女の『好き』は、データバンクから引き出した知識に裏付けられたもの。
人は、辞書を引かなくても、誰かを好きだと言えるのに。
人としての暮らしを続ける中で、彼女自身もまた、そのズレに気が付き始め、思考の
罠に嵌って行く。――自分は人ではないのだ、と。
鈴音は、戦うことを快く思っていない。
けれど、彼女らにとって、それはレゾン・デトル。
鈴音は、恋をしている。
けれど、彼女はいずれこの惑星を離れる。それは母なる『白の生命体』への回帰。そ
の時、彼女の心は消えてしまう。大好きなあの家も、大好きな青空も、大好きなあの
人の名前さえも。
彼女はカメラを取る。失われる自分達の存在を、何かに留めて置きたい。そんな思い
を込めてシャッターを切る。
メインたる3名に加え、黒の生命体と深い因縁を持つ少女・千夜子。晃の同居人であ
り、従姉弟であり、学校の担任でもある、はるか。
彼女らの物語も、また、深く心に染み込んでくる。
程よくギャグを織り交ぜながら、テンポ良く進むシナリオは、おおむね一本道である
が、その過程において、ヒロインたちの特徴を活かしたエピソードがちりばめられ、
周回する苦痛は感じなかった。
柚梨の幼さと聡明さ、真弓の優しさと強さ、鈴音の純真さと愛情。それらがエミュレ
ートされたものであると言うのが儚く、しかしながら、間違いなくそこには、機械で
はない少女達が存在している。はたして、作り上げられた『心』は、ニセモノと言っ
て良いのだろうか。
これほど、優しく、暖かく、儚く、けれど真っ直ぐにテーマを見据えた作品が、この
ような評価を受けていることが、酷く残念に感じる。
音楽/声優・・・
この作品の音楽に満点を送る。
これがサントラとしての評価ならば、満点はありえない。しかし、ゲームミュージッ
クとして、作品との調和の加減は、『融和』という言葉ですら足りない。
ほどほどの曲数ながら、その曲調は多岐に富み、それでありながら作品の収まるべき
ところに、きっちりと配置されている。
OP曲、ED曲も申し分なく、片霧烈火のボーカルが、よく映えている。
声優は、鉄板に偏らず、しかしキャラクターに良くマッチした配役であった。この作
品の声優陣に言えることは、約物の読み方が上手いという点だ。
テキストで表示される、句読点やアクセントに、いかにそのキャラらしい色付けをす
るのか。それが、テキスト表記が並行するエロゲの、声優の演技力の見せ場ではない
だろうか。
テキストがあっさりめの作品であったが為、逆に声優の演技が上手く感じられる。そ
ういった副次的な効果はあろうとしても、それを見せ付けられた今となっては、素直
にその演技が上等であったと認めざるをえない。
さて、この作品の評価が低い一因に、ゲーム性の破綻が挙げられる。確かに、このゲ
ームパートは、お世辞にも面白いとはいえない。単調、作業、そういった言葉が、評
価として妥当である。
しかし、一歩、視点を外してみれば、女の子とメカという、その組み合わせは、萌え
を満たすと同時に、男の子回路を刺激するという、魅力にあふれた素材ではないか。
また、ゲーム自体も、今一歩の改善を加えれば、その単調さは、ストイックさという
評価を受けたはずだ。
しかし、私は、そんな残念さを補って余りある魅力を、この作品から感じた。
絵、シナリオ、音楽。そのすべてにおいて、これほど高水準で纏まった作品は、そう
そうお目にかかれない。
すでにブランドが解散したという事実は曲げられないが、私がリメイクを切に希望す
る、数少ない作品である。