ErogameScape -エロゲー批評空間-

えびさんのマブラヴ オルタネイティヴの長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
マブラヴ オルタネイティヴ
ブランド
âge(age)
得点
100
参照数
1946

一言コメント

絵24+文25+音23+他30 つい最近、配点方法を見直したんですがねー。どうしても100点越えちゃうんですよね……。この作品を、他作品と同列に考えるのは、この作品にとっても、他作品にとっても不幸なことなのかもしれません。何故なら、この作品はALTERNATIVE――『型にはまらない』という意味を持つ作品なのですから。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

えー、一言感想のとおり、この作品は規格外なので、100点オーバーしましたが、今
回は採点方法の見直しはしません。
けれど、あえて言っておくなら、この作品は私のナンバー1ではありません。名作と
は呼びません。

この作品の、無印版→DVD版→FDという流れは、どのような見方をしても、本当
に作りたかった、『ALTERNATIVE』の為の、資金稼ぎと時間稼ぎという側面は否定で
きないでしょう。
この作品のエンドクレジットに、

『マブラヴ オルタネイティブ』を待ち続けて下さった方々

という一文があることからも、製作者サイドもそれを否定してはいないようです。
けれど、そこまでして作りたかったものが、この作品なのでしょう。
そこまで心血を注いだのが、この作品なのでしょう。
私が感じた熱は、作品の中の『燃え』ではなく、作品の外にある『燃え』でした。
この作品に宿った熱は、製作者の熱意と、信じ続けたユーザの熱意。
改めて言うならば、私にとって、この作品は最上級ではありません。ですが、この作
品に宿った熱の温度は、最上級でした。
ですから、私は、この作品を名作とは呼びません。

――エロゲ史上、最も、祝福された作品。

私は、そう呼びたいのです。


さて、以下に書くことは、作品の評価から逸脱した部分が多く、無駄に長文です。
ですので、読むことによって得られる物を時間で割ったコストパフォーマンスは、と
ても悪くなっています。
ですので、お暇な方のみ、お付き合いください。

特に映像面の部分は、かなり方向性が逝っちゃってるので無視してもらった方が、よ
いかと思います。

映像面・・・
ワイド画面っていうのは、黄金比に近いからでしょうか、はたまた、人間の視野角の
縦横比に近いからでしょうか、色々な面で演出を手助けしてくれます。
例えば、立絵では、10人同時表示しても窮屈感を与えにくくなります。
また背景画では、従来よりも左右に広い余剰スペースに描き込まれた線が、線遠近法
をより鮮明にさせ、画面に奥行きを作る効果もあります。
アクション面では、この作品のように移動物の画面移動範囲の増加と、それに伴うス
ピード感の向上が挙げられるでしょう。また、コマ割りのコマ数を稼ぐ意味でも、ア
クション面に貢献しています。
人間は、視覚の中心に最大の臨場感を感じます。ですから、画面の中央と左右にある
物体とでは、それに対する意識の質が変わってきます。ワイド画面は、そういった人
間本来の特徴を活かし、リアリティある演出をする手段として使えるわけです。

ワイド画面の最大のデメリットは、垂直方向の画素数を犠牲にする部分でしょう。
これは、オフィススイートやWEBブラウジングといった、日本人が最もPCを使う
場において、案外、無視できない物があります。そして、無駄に横に長く感じ、右側
の無駄なスペースをもったいなく感じるでしょう。
そのデメリットを解消するには、より高解像度かつ、より大画面なモニタに交換する
しかありません。つまりお金がかかるということです。
しかし、最近はワイドモニタの値段もかなり落ち着いてきており、逆に4:3のモニ
タの方が、値下げ止め傾向にあります。
エロゲにとって、ワイドモニタは、かつては鬼門でした。間延びする、フルスクリー
ン表示は、PC自体のライトユーザから、ワイドモニタという選択肢を当たり前のよ
うに奪ってしまったのです。
最近のビデオカードなら、アスペクト比固定機能など、当然、付いているでしょうか
ら、旧作のプレイにも問題ありません。

世の流れに迎合するという意味ではなく、このように映像を魅せる為にワイド画面で
の作品作りをするブランドがいる以上、皆さんも、次のモニタ購入の際には、ワイド
モニタを検討して欲しいと思います。

シナリオ・・・
さて、この作品の考察をしようだなどと、甚だ、愚かなことはしません。
まったくもって、私は、この作品の本質を捉えていないでしょうし、とあるところで
『考察力に欠ける』とご指摘をいただいたばかりですし……
いやいや、皮肉を言ってるんじゃなく、的確なご指摘を頂いたと思っています。そん
な稚拙な文章を、見ていてくれる人がいるというだけで、感謝というか気恥ずかしさ
の方が先行してしまいますので。

では、シナリオについての雑感を……

まず、印象深いのはクーデター事件です。
このシナリオに対し、「私も日本人です」と声を上げたくなったのは、それこそ今の
世の中では、ある種の危険思想に触発されたと疑われても、仕方ないのかもしれませ
ん。
田母神氏の一件の後だけに、日本という母国と、戦争という出来事に対し、言葉で表
現し得ない感情を、あえて言葉にしたくなるというのは、ご理解いただけるのではな
いかと思います。
作中でそれを実践した沙霧大尉や、それを諌め、許そうとした冥夜・悠陽、はたまた
米国人としての愛国心と自身の正義を示したウォーケン少佐。彼・彼女の強い信念に
は、人として羨ましくある程でした。
そういった感情は、そのまま主人公である武の心に刻まれ続けていく為、なるほど、
主人公とのシンクロ率が妙に高揚する作品な訳です。

そして、やはりこの作品を語る上で、あのシーンを除外することは出来ません。
ちなみに私は、グロ耐性は『やや耐性あり』くらいです。ですので、あの映像自体が
恐怖の対象ではありません。
――あの喪失感。
ここまで育て上げてきたキャラクターを、ああも無残に屠れる冷酷さに、言い知れな
い恐怖を覚えました。そして、あの映像はその恐怖をフラッシュバックさせるトリガ
ーでした。
これも、主人公の感情にとても近いものがあるでしょう。
そして、伊隅大尉に、「私にも、催眠暗示を掛けてください」と、冗談めいた独り言
を吐く程度には、心に深く突き刺さったようでした。

そして、仲間の死。それだけの為に、用意され、育て上げてきたキャラクター達。
これ程の大作になれば、製作者のキャラクターへの思い入れもなみなみならないもの
でしょう。
まして、過去作品のヒロイン達とくれば、それは製作者にとって子供も同然です。そ
れを次々と殺していく、甲21号作戦や横浜基地防衛戦などは、異常なまでの悲壮感
を、私に植え付けました。
このやり方には賛否も多いでしょうし、はっきり言って、私も嫌悪に近い印象を抱き
ました。けれど、だからこそ、この作品には重みが加わったのかもしれません。
この作品で死なせる為だけに作成されたキャラクターを殺すことよりも、より強烈な
バックボーンを既に獲得しているキャラクターを殺すことの方が、効率的で効果的な
演出と成り得たのだと感じます。
効率や効果を重んじ、常に結果を優先する。けれど、何処かに親心に近い人間的な感
情をもってして、キャラクターを見守る。そういう製作者のスタンスを、如実に反映
してるように思えてなりません。
その意味では、夕呼という自分の手を汚すことを躊躇わないキャラクターは、まさに
製作者の移し身であると感じられました。

そして、桜花作戦です。
将軍専用機の武御雷が、桜花作戦の為に用意されていたことは明白でしょう。
ですが、この作戦の為に、『3バカが3人だった』ということは、その徹底ぶりに感
心させられました。
この作戦は、他の作戦とは違い時間を端折っています。これは、いよいよラストスパ
ート前にしてトーンダウンしてしまう恐れを感じさせました。
しかし、この空白自体が嵐の前の静けさを表現する、仕掛けだったかもしれません。
確かに、大広間到達までの道程は、最後の戦いに比べれば、その密度は薄かったでし
ょう。けれど、これまでの戦いと比較しても、容易いものではなかったはずです。
あえてそれを描かなかったのは、ラストへの助走として、それでは力不足だからでし
ょう。
いらぬ助走など、描く必要は無かったのです。
これまで、実に何年もの時間をかけて作り上げてきた、5名のヒロインの散り華こそ
が、かつてたまが放った試作1200㎜超水平線砲の多段式薬室の爆発のように、ユーザ
の感情を加速させていくのです。

この作品は、実に見事でした。そして、この作品の冗長さは、私をほとほと疲弊させ
てくれました。
けれど、ただ冗長なのではなく、そこに製作者の熱い思いが込められているのであれ
ば、それは一概に否定することではないのでしょう。

この作品の最大の魅力は、シナリオではなく、製作者の熱意だったと、そう感じざる
を得ません。

音楽/声優・・・
音楽、声優については、マブラヴとほぼ同等の評価なので、端折ります。
JAM PROJECTについては、あまり好きじゃないんですが、まあ、それで減点するとい
うことはありません。
かつて君望の演技で、その演技力に甚だ疑問を感じた、石橋朋子、栗林みな実の両名
も、ほとんど違和感なかったのは、声優の経験値増によるものでしょうかね。


さて、ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

結局、私はこの作品の表面をなぞったに過ぎず、ましてアージュというブランドにつ
いて、あーだこーだと言える立場ではないのだと思います。
けれど、アージュのスピンオフ作品やFDによる戦略は、あまり気持ちいいものとは
感じていませんでした。
確かに、そこには資金回収の意味も含まれるのでしょう。けれど、それらが本当に回
収しようとしているものが、ユーザの熱なのだと実感しました。
そこで回収されたユーザの熱を、製作者達の力へと転換することで、アージュはアー
ジュであり続けてきたのだと感じました。

そして、ブランド名のとおり、このブランドは少年達が成年(age)になる様を、全力
で描こうとするブランドなのだと感じました。ですから逆に、徹底的にダメな部分も
描こうとするんですね。だから、というわけではないですが、ヘタレの王様・孝之も
認めてあげて欲しいなと、ちょっとそんな風に思ったりもしたのでした。

ではでは、本当に最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

【ヒロインタグ】
/ #ヒロインが死ぬ /
【ジャンルタグ】
/ #パラレルワールド #ループもの #戦争もの /