絵16+文27+音22+他08 設定が投げっ放し? 伝奇には『答え』が必要なんてルール、誰が決めたのさ。
映像面・・・
基本的には、癖のない絵柄。しかし、絵の完成度が低く、とっつきにくい印象も受け
る。
エッチのとき、裸にならないのは、趣味なのか、寒冷地という土地柄に起因するもの
なのかは、判断がつかない。いずれにせよ、エロゲとすれば、それが『着エロ』とい
うベクトルに向かっていれば良いのだが、どうにも不発気味。
エッチシーンも少なく、ヒロイン数もごく普通。エロ目的で判断するならば、駄作と
いわざるを得ない。
とういか、このブランドってそういう路線じゃなかったんだ。ただのバカ&ヤリゲー
ブランドだと思っていた。
シナリオ面・・・
この作品は、伝奇あるいは怪奇の要素を含んでいる。
そういった作品で注目されるのは、『シナリオの辻褄』であったり、『設定のオリジ
ナリティ』であったり、あるいは、『考証の巧みさ』であったり、はたまた、『余韻
としての謎の残し方』であったり、そういったものなのではないだろうか。それらを
総じて、『設定がよい』と判断されるのが、伝奇モノの宿命のように思う。
この作品の場合も、この至上命題とでも言うべきしがらみに囚われると、『設定がい
まいち』という判断は避けられない。実際は、他とは、違うアプローチで伝奇を扱っ
た作品であるにも関わらずだ。
「問題を解くのも大事だけど、何でその問題を解きたいのかを忘れない方がいい」
この作品のスタンスは、作中の、この台詞が全てを語っている。
学校の七不思議、幽世と現世の狭間。製作者は、これらの使い古された題材を、あえ
て選択したのだろうか。それならば、この台詞は、昨今の伝奇モノの偏食傾向に対す
るアンチテーゼとしての意味を見出すことも出来る。
余談のようだが、『怪奇』と『ホラー』の持つニュアンスは、大きく違うのではない
だろうか。
国内、とりわけ田舎の伝承などを扱った伝奇は、少なからず怪奇のテイストを孕んで
いる。田舎というのは、自然に近く、また古の歴史に近い場所である。時折、それら
の、自然や歴史は、邦人である我々の感性を揺さぶる効果を見せる。悪辣な言葉なが
ら、都会で生まれ育った、『新人類』であっても、歴史深い寺社や、未開発の山々か
ら抱く感情は、美麗さや壮大さだけではないだろう。
同様に、私が『怪奇』という言葉から受ける感動も、壮美であり畏敬でありながら、
忌憚であり畏怖である。
この作品が扱ったのは、『ホラー』ではなく、まさに『怪奇』だった。
これは、あくまで主観的な感覚論だ。だが、自然や歴史が抱かせる感情に、一律の解
が出せないのと同様に、『怪奇』に対して解を明示することは出来ないのではないだ
ろか。いや、答えを出してしまった時点で、それは『怪奇』とは呼べない、別物にな
ってしまうのではないだろうか。
私は、常々そんな事を考えており、その思考と、この作品のベクトルがかみ合ったが
為に、ある人にとっては、過大とも取れる高評価を、この作品に与えたいと思ったの
だ。
他人の評価との差を、フォローするわけではないが、上記の思考的な嗜好や、後述す
るキャラクターとテキストの魅力を除けば、実に味気ない作品だ。
シナリオの構成からすれば、共通ルートが大半を占め、エンターテイメントとしての
評価は低い。また、エロの薄さ・少なさは、エロゲとしては、少々致命的ともいえる
程の内容だった。
では、以下に、攻略キャラクター順に雑感を。
<絢>
正直なところ、あまり魅力を感じないヒロインだった。時折、匂わせる狂気が、ヒロ
インの魅力に昇華する事は、最後まで無かった。むしろ、内に眠る狂気に怯える姿こ
そ、彼女の本質のように感じてしまう。
シナリオの展開には、いささか不満を覚えるが、終盤の印象が非常に良いシナリオだ
った。
主人公を雪の中まで助けに行くシーンは、印象深い。正確には、直前の梢のやり取り
を含めた、一連の流れなのだが。
「進也君が今何を必要としてるか、分かる?」
「ロープと毛布」
この台詞で、このシナリオとこのライターへの評価が、急上昇したのだった。
<かざり>
当初、魅力的に感じていたのだが、シナリオ後半がやや緩く、今ひとつな印象が残っ
た。
中盤に見せる彼女の強さ(強くなろうとする姿)は、ささやかな感動を呼んだりもし
た。しかし、共通パートの長さのせいか、終盤の畳み込みが急すぎて、逆にシナリオ
にメリハリがなくなってしまったように感じた。
まあ、それでも、校庭にラブレター書いちゃったり、ラストでのハムを交えたやり取
りであったり、いろいろとツボを付いてくる部分も多いシナリオだった。
<梢>
どこか影のある女性というのは、妙に色っぽく感じてしまう。そういった思考の持ち
主には、なかなか堪らないヒロインではないだろうか。
彼女の台詞は、知的でありながら明け透けで、冷酷とすら感じてしまう鋭さを持って
いる。それは一見、強い女性である。しかし、その強さは継ぎ接ぎだらけである。
こういった設定を与え、シナリオのプロットが出来上がれば、キャラが勝手に動き始
めると、文章書きはよく言う。その本質は理解し得ないが、ニュアンスは分かる気が
する。しかし、いくらキャラが走り出しても、ライターの知識に無い言葉をキャラが
発することは無い。知的なキャラを作る為に、苦労して言葉を調べ、小難しい台詞を
言わせてしまいがちなのではないだろうか。
梢から感じる知性は、そういった類のものではなく、実に自然に滲み出してくるよう
なものだった。梢のようなキャラは、エロゲ的には、そう珍しいキャラではないよう
に思う。しかし、多くの場合、薄っぺらいキャラになりがちである。
このヒロインの魅力を、嫌味なく表現できている事が、このシナリオの魅力だったか
もしれない。
<蕗乃>
他のシナリオもそうだが、ラストのロマンチックさは、この作品の売りだと感じる。
ちょっと演出過剰ってくらいな部分があって、それを快く思わないユーザもいるんで
はないだろうか。往々にして、シナリオ重視を自称する方は、こういったドラマチッ
クは見飽きたとか、『結』がダメとか言ってしまいそうである。
しかしながら、こういうのが好きなんだからしょうがない。
<日和>
些細なことで意固地になって、相手の一挙手一投足に苛立つというのは、恋愛関係に
限らず、友人や家族、職場の同僚など、あらゆる人間関係に付いて回るものだ。
例えば、こういった素材を、学生同士の間で使えば、イジメという行動に結びつき、
友人同士で使えば、寝取りという行動に結びつくなど、エロゲ的にも扱いやすい素材
だと感じる。
しかし、この主人公とヒロインの場合、生徒と教師という枷が加わる。
陵辱系の作品ならばともかく、こういったキャラを設定するエロゲーは少ない。
(調教し堕落させていくにはもってこいのキャラなのだが)
彼女の言動に対する主人公の苛立ちには、いちいち納得でき、反面、日和の思いも理
解できないわけではない。
好き嫌いの分かれるところだろうが、素直に、このキャラ立ての妙には賛辞を送りた
い。
<タイトルについて>
謎が残ったっていいとか言っておきながら、ちょっとだけ推測(というか、内容の転
載に近い気もするが)しておく。
日和ルートの最後で、梢と一織が話している。小雪は、“こゆき”でなく“しょうせ
つ”と呼ばれる暦を指し、現在の11月22日頃だそうだ。神無月にあたり、神が出雲へ
赴き不在の為、奇跡が起こったと、一織は語っている。
更に、会話の中で、雪間に咲く花に言及している。その花が何色であったかまでは語
られないのだが、仮にその花が朱色であったならば……。
小雪に芽吹き、雪間に咲くその花は『小さな奇跡』と言い換えられるのではないだろ
うか。
音楽/声優・・・
曲数少ないながらも、なかなか良く出来たBGMでした。特に、各ルートのラストで
使われている『あーかるいヤツら』から、ED 『Passenger』のイントロへの流れが
秀逸。曲単体で聴いても悪くないんですが、ED曲への渡し方が、映像面含めて、実
に小気味いい。
やや声優のタイプが偏りすぎている印象があるが、演技力も均整が取れており、安定
した質を提供してくれる。
かざり役の秋月まいさん、梢役の美咲ゆうかさん、日和役の一宮桜さん、3名の声優
さんが個人的ツボなので、評価高め。蕗乃役の大花どんさんもなかなか捨てがたい。