絵23+文21+音16+他08 システムにこだわらず、シナリオを膨らませられれば、名作だったかもしれない。
映像面・・・
一枚絵の崩れ、ムービーの荒さなど、質の部分が今ひとつ。ただ、ムービーをカット
インとして使うなど、数や細やかな演出がなされており、他作品とは一線を隔してい
る面も無視できない。
背景画がいい。手芸店の、油彩風のタッチは、非常に好み。立ち絵とのアンバランス
さが気になるが、そこはかとなくシュールな味とも思えるから不思議。もっとも、す
べての背景が、同等以上のクォリティというわけではないし、ややお粗末な物もある
のだが、トータルで見れば、悪い印象が残らない。
背景と、背景に入るエキストラは、別の手で描いていて、それを切り貼りしているよ
うに見える。そのせいか、時折、遠近感やライティングなどに不整合が見られる。た
だ、質感の使い分けがされている為、背景と立ち絵のタッチのギャップを埋めるとい
う、副次的な効果になっているように感じた。
シナリオ・・・
気取った感じの無いテキストは、嫌味無く読める。
典型的なニブチン主人公。まあ、ちょっと度が過ぎるけど。こういうタイプには、悪
友がいて、そっちからフォローが入るのがエロゲ的ベタなんでしょうが、そういう役
どころのキャラがいないから、歯止めの利かないニブさが延々と続くシナリオ。
恋愛方面にニブいのは、まあいいとしても、夕凪の異常さを意に介さないというよう
な、そういう方面のニブさは、流石に「おいおい」って突っ込んでしまう。
シナリオというよりは、システム面に言及するようだが…
作品の見所であるはずのザッピング。プレーヤーが恣意的に視点を変えられるという
発想は、実は珍しい。というのも、多くの場合、それがシナリオを破綻させてしまう
から。
ザッピングを用いた作品の場合、複数の視点で見ることによって、それまで見えなか
った事実を提示し、真実に近づいていくという、思考のパズル的な面白みがあると思
う。またそこには、表裏一体になった事柄を、ある側面だけを見て判断してはならな
いという、善悪論にも似た教訓を孕んでいるのかもしれない。
こういった狙いの元、本作のような恣意的なザッピングがあれば、間違いなくシナリ
オは破綻するのではないか。もし、これを破綻させることなく、組み上げる手法があ
るなら、それは稀代の名作か、中身の無い駄作になるだろう。
さて、この作品のザッピングの扱いとしては、確かに、上に示したような思考のパズ
ルという要素も含まれている。しかし、それ以上に、ただ、人の心を描写しただけと
いう印象が残る。ある事柄が起こったとして、それにAという人間はこう反応しまし
た。Bという人間はこう反応しました。そう感じてしまう。
それらは、普通の作品なら、主人公の視点で示される事柄から、プレーヤーが類推し
ていく事で用を足すし、この作品でも同じことが言える。
先ほどから、ザッピングと言っているが、私は、プレイ中、この機能をほぼ使用しな
かった。もちろん、○○ルートといった各ルートは全てプレイしたが、それはマルチ
アングルという方がしっくりくる。つまるところ、この作品のザッピング機能自体が
無用の長物だった気がする。
マルチアングルのルートについて言えば、夕凪の行動の裏づけや、美奈萌の狂気とい
ういうような、見所のある作品であったと思う。ただ、それ以上の驚きや、感動が無
かったことに、大いに不満を覚えた。
シナリオ自体は、好みの路線だったので、余計に残念に思う。
音楽/声優・・・
OP曲が駄目。曲の出来の問題では悪くない。ここまで露骨に『何処かで聴いたこと
がある』というのは、いささか気分を害されたのだ。
この曲は、どこぞのアニメなどからひっぱて来たような二番煎じに感じる。それがパ
ロディ的な要素で、なおかつコミカルやシニカルな風合いの作品なら、そういった二
番煎じにも、一風変わった楽しみ方もあるかもしれない。だが、この作品はそうでは
ないだろうに。
作品の顔である、OP曲だけに、残念に思う。
BGMは、全般的に、アレンジがオールディーズを思わせる部分があり、好き嫌いが
分かれそうだ。私も、作中の何曲かには、苛立ちにも似た気持ちを覚えた。それは古
いものを拒絶したいのではない。ただ、『古い曲調に、シンセの生音』という組み合
わせの無粋さに対する、気恥ずかしさがあったのは間違いない。
海原エレナさんの上手さの前に、他の声優の魅力は吹き飛んだ。というか、夕凪以外
のキャラに、感情を揺さぶるものが無さすぎたシナリオのせいかもしれない。
(えー、ちょくちょく、音飛びするのはバグ? 私の環境のせいでしょうか?)
さて、このシナリオ、ザッピングシステム、あるいはムービーや無駄に凝ったOP曲
など、はたまた期待に胸躍らせたユーザすら、それらすべてを一太刀でぶった切る。
そんな、あまりにも象徴的な台詞が作中にあったので、最後に記しておこうと思う。
理沙ルートにて……
理佐「報われないわね……」
佐川「……なにがですか?」
理佐「なにもかもが」