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えびさんの瑠璃の檻 ‐DOMINATION GAME‐の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
瑠璃の檻 ‐DOMINATION GAME‐
ブランド
SkyFish
得点
78
参照数
4085

一言コメント

絵18+文23+音19+他18 素直におもしろかった。もう少し、バイオレンスで邪悪で狂気的に作り込めていたらと思わなくもないが、近年では珍しくなってしまった伝奇物としての希少価値も若干加味しつつ、良い作品だったと思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

*映像面・・・
原画は、ヒロインで三名に加え、男性キャラで一名、クリーチャーデザインで一名。
ヒロイン原画については、三者三様に絵柄がかなり異なり、どの原画も一長一短と感
じられる。
一概に原画を統一すれば良いという話でもないし、プレイし終わってみると、各原画
のそれぞれに画風が活きる見せ場があって、それが各ヒロインの個性とマッチしてい
たようにも思えるしで、なんとも評価しづらいところ。

ただ、ごく単純に評価すれば、男性キャラとクリーチャーの原画の方が、安定的に高
い説得力があるのが、抜きゲーとしてはどうなのか……と思ってしまう。
もっとも、それも、しっかりと脇を固めていると、単純に評価すれば良いだけなのだ
けど。


*シナリオ・・・
**あらすじ
主人公・旺辺流人(おうべ・りゅうと)には、長らく疎遠だった兄がいた。
兄は、摩州家という、出自もよく知らないが、相当な名家に婿入りしていた。
その兄夫婦が最近、共に帰らぬ人となった事は聞いていたが、流人は詳しく知りたい
とも思っていなかった。その程度の関係だった。
そんな流人の元に、兄の妻の妹である摩州水樹(ましゅう・みずき)がやってきた。
彼女が言うには、彼女の生まれ故郷である波手乃島に、水樹と共に来るようにと、摩
州家の後見人を名乗る相手から報せが届いたという。
とある事件に巻き込まれていた流人は、それから逃げるため、また水樹が見せた摩州
家の莫大な財産や、水樹自身の美貌と人柄に惹かれ、波手乃島を目指すことになる。

波手乃島に辿り着いた流人達が見たものは、かつて栄えた片影を残すもひどく寂れた
孤島の町と、奇妙な身体的特徴を持った島民達だった。
二人を迎えた灰堂美夜子(はいどう・みやこ)と名乗る妖艶な女の言うがまま、古い
しきたりを守る為、また、この島に辿り着くまでの短い旅路の中で二人が惹かれ合っ
ていた事もあって、二人は唐突に『婚姻の儀』を結ぶことになってしまう。
そして『婚姻の儀』を終えた時、流人は摩州家の莫大な富とともに、島民が『夢見の
窓の力』と呼ぶ恐ろしい能力を身につけることとなる。
しかし、その能力の代償として、島民達が『本家』と呼ぶ摩州家の役割を果たさなけ
ればならない事を告げられる。
その役割とは、摩州家としての血筋を絶やさぬこと。そして、島民達の血筋をも絶や
さぬよう、『贄』として女を島民達に差し出し続けることだった。

みたいな感じ。

**舞台背景とか
エロゲでもお馴染み、クトゥルー神話体系に連なる作品。
Skyfishがと言うか、ひろもりさかながと言うか、クトゥルー好きなんでしょうね。
『ゲームシナリオのためのクトゥルー神話辞典/著・森瀬繚(2013年)』によれば、日
本国内でクトゥルー神話に触れた商業作品は、シリーズ物を一つと数えても、600タ
イトルを超えるんだそうな。しゅごい。

そう言った作品群の中でも、本作はクトゥルー色がかなり強めです。
特別に深い造詣は不要ですが、『ダゴン秘密教団』と聞いてピンと来ないなら、『イ
ンスマウスの影』くらいは読んでおいた方が、より楽しめるかと。

北緯31度52分 東経141度18分。
伊豆諸島の中ほど、ベヨネース列岩の東に位置する、架空の島・波手乃島が舞台。
時代背景としては、現代ですが、文明の利器が余り出てこないので、オールドスクー
ルな雰囲気の作風でした。
スマホで動画撮影するシーンなどがあるのに、電話やSNS等を使用している描写が無
かったりします。
電気水道は10年以上前からあるというヒロインの言葉以外、他のインフラについて、
作中で特に触れられていなかったように思います。
いかに孤島とは言え、母島の人口を超える800人以上が生活している現代を舞台にす
るには、もう少々、その辺りの舞台背景には手心を加えて欲しかったところ。

**ストーリー雑感
公式で『ダークミステリーADV』と銘打たれていますが、ミステリーというよりは、
ホラー的な要素が強かったように思います。
ただ、まぁ、確かにミステリーを神秘と捉えれば、ミステリーなのかもしれません。
クトゥルー物として見れば、「インスマスやルルイエは実は日本にあったのだ!」的
な切り口なので、アイデアとしては新しいものではありません。
この作品の核となるのは、永きに渡ってダゴンとヒュドラが<深きものども>の血統
から新しい依代を選んでいるという設定だったのでしょう。

ヒロイン達もそうですが、男性サブキャラ達もキャラ立ちしており、シナリオを牽引
する役割をしっかりと果していました。
もっとも、一部には、そういったエロゲ媒体特有の萌え属性要素のせいで、やや場違
い感を感じるコメディもあったりはしましたが。
そういった部分には目を瞑りつつ、また、先に書いた舞台背景などの書き込み不足に
も目を瞑れば、プレイヤーの読み気を手繰るようなシナリオだったと思います。

個別ルートに入れば、各ヒロインは、それぞれの想いに添え遂げたり、想いを踏みに
じられたりと、見せ場を用意されてはいます。
ただ、惜しむべきか、称えるべきかは悩ましいのですが、作品の核として選んだ部分
は、ヒロインの心の闇やその解放では無かった為、各ヒロインに魅力を感じれば感じ
るほど、その点で若干の欲求不満を感じる事はあるかもしれません。

特に紗也が内在する闇は、もう少し掘り下げて欲しかったところ。
なにせ、紗也ENDとでも呼ぶべきか、英久姉妹ENDとでも呼ぶべきか、名状しがたいエ
ンディングがとても鮮やかだったから。

**エロとか
陵辱シーンもありますが、思っていたよりはハードではありませんでした。
全46シーンです。
『異種姦』が5(獣姦未遂1、未挿入1、触手3)ほどありますが、どのシーンもソッチ
好きには物足りないでしょう。
『輪姦』が13ほど。複数ヒロイン同時が1枠しかないのに目を瞑れば、輪姦スキーも
それなりに楽しめるかと。油性マジックでお馴染みな、公衆便所系もあります。
『リョナ』は1ですが、カッターナイフで浅い傷をつけるくらいです。しかし、即死
しなければ体の傷も記憶も修復可能という、主人公のチート能力があるだけに、もう
少し突っ込んだものを見てみたかった気も。
『寝取られ』については、厳密なカウントは難しいですが、基本的に主人公が抱いた
女を、島民達に贄として捧げるという設定上、寝取られ要素はそれなりにあります。
ただ、堕ちているというよりは、肉欲に溺れているだけという面が強く、これを『寝
取られ』だと明言してしまうと、精神面での『堕ち』こそを本質と考えるNTR警察に
吊るしあげられそうです。
逆に『寝取り』要素として面白いと思ったのは、元恋人の記憶を消すことで、過去の
自分からヒロインを寝取るかのようなシーンがありました。

その他、割りとオーソドックスなエロが大半を占めますが、和姦では愛情、陵辱では
狡猾で冷徹といった感じに、主人公の立ち位置が、上手くコントロールされているテ
キストだったと思います。

**主人公
先にも書いた通り、本作の主人公は万能系のチート能力持ちになってしまいます。
『ギアス』+『ゴールド・エクスペリエンス』みたいな感じです。最強か。
これは、クトゥルーのテレパシーや治癒能力といった、代表的な能力をベースにして
いるのではないかと想像できます。
ただ、この能力を維持するには、島民に贄として女を提供し続けなければならないだ
とか、例外的に能力が効かない/利き辛い敵役を用意するなどして、バランス調整も
されています。
最初こそ小物感があって心配した主人公ですが、そういった能力が効かない/利き辛
い敵役に対しては、搦め手で攻めていく狡猾さも見せ始めます。
成長物というよりは、生き残るために必死になってあがいているといった見せ方でも
ある為、終盤では好感にも似た感情を寄せていました。


*音楽/声優・・・
曲数は少ないながらも、昨今、本当によく名前を見るsolfaによるサウンドは、相変
わらず安定的。
正直、ゲーム冒頭は地雷臭がする程、チープな作りの作品なので、OP曲『藍』は、曲
が壮大過ぎてあまりピンとこなかった。
一方、小春めうをVoに据えた、ED曲『漂流-ADRIFT-』が良曲だった。
どちらかと言えば、OPとEDの曲を入れ替えた方が、PR的にもハマったのではないかと
思う程。
壮大過ぎた『藍』も、作品世界の深みを知った上であれば、プレイ後の余韻を高揚さ
せるような曲に成り得たのではないかと思います。

声優陣について言えば、原画同様、男性陣がしっかりと脇を固めていた印象が強い。
女性陣では、琉花あか、蓬かすみ、辺りが好演だったかと。
シェアード・ワールドにおける考証の正確性などを言い始めると、それこそ○○警察
よろしく鬼や蛇が出てきそうではありますが、インスマウス面の人物たちの、
「ふんぐるい むぐるうなふ なんちゃらかんちゃら」
な台詞の発音については、もう一捻りなんとかならなかったかしら、と。