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えびさんの恋七夜の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
恋七夜
ブランド
スナック・ファクトリー
得点
68
参照数
3422

一言コメント

絵17+文21+音15+他15 『寝取らせ』の入門編のような作品だが、それ以上に、『寝取られ心理』の入門編として、ヒロインの心情を想像しながらプレイするには、なかなか良い作品。突き抜けきれないもどかしさ、物足りなさはあるものの、良作の部類だと思います。

長文感想

20周年を迎え、記念作品『13人の麗しきケダモノ』のリリースも迫ったMink。
老舗ブランドのロープライスライン、スナック・ファクトリーの最新作。
過去作品を見ても判るように、ラインと言っても、ライターも原画も固定化されてお
らず、作品の傾向もかなり振り幅が広いため、固定ファンを獲得しあぐねている感の
あるブランドです。


*映像面・・・
原画は、saxasa。
過去作品は多くありませんが、『りぼる・さもなー(M de Pink/2010)』にも、スペシ
ャルサンクスで名前が上がっており、現行Minkの活動には、広く関わっている模様。
作品外の情報や、繋がりが判り辛いのですよね、Minkさん。

さて、絵柄についてですが、顔の描写は昨今の萌え絵風ながら、意外にもしっかりと
した重量感の感じられる肢体描写が印象的。
若干、コスデザが野暮ったく、古臭さを感じたりもしますが、肉感的な肢体と、特に
切なさがにじみ出ている表情の魅力など、充分に吸引力のある原画。
塗りの方は、『Mink EGO』のグロス感のある塗りとは違って控えめ。
しかしながら、多くのシーンが薄暗い地下室という中で繰り広げられ、また、性行為
の意味に重みのある作品であったからこそ、過度にハイライトを飛ばしたりという、
ポップな彩色にしなかったことは、好印象を受けます。

長らくは、壽々郎やINOの印象が強くこびり付いていたMinkですが、ティータ・J、雛
咲、本作品のsaxasaなど、良い絵師が揃ってきており、萌え路線にしても、抜き路線
にしても、「エロありき」を貫く、古参ブランドの今後の活躍にも、期待したいとこ
ろ。


*シナリオ・・・
現行のMink作品にあって、La.氏の企画は、やや異彩を放っているように思えます。
と言っても、私自身が、それほど多くのMink作品に触れているわけではないので、か
なり偏った主観に基づく感覚での話です。
まあ、これというのも『りぼる・さもなー』という作品の印象に誘導されてのことな
のでしょうが。

このLa.というライターさんのテキストは、癖は強くないものの、特別に洗練されて
いるといった印象は受けません。
しかし、エッチシーンにおける女性の心理描写(あるいはその心理に基づいた言動)
が、いちいち胸に刺さって来ます。
きっと、悲恋モノを書かせたら、私はヒロインに心を持っていかれるでしょう。


ストーリーをざっくり言ってしまえば、主人公が、他の男に娶らせるために、元彼女
を調教するといった内容。
そこへ至る経緯というか設定は、抜きゲーらしく、実に安直というか雑ですが、物語
を進行させる切欠として、最低限の役割が果たせた時点で、その設定にディティール
が不要になってしまうというのが、エロゲらしい潔さにも思えます。

その設定の内容と言えば……
富裕層の子息子女が通う学園では、学園が仲人になって、秘密裏にお見合いが行われ
ていました。
富裕層のお見合いともなれば、政治的な色合いも色濃く、両家とも慎重にならざるを
得ません。
それは、身分や家柄、性格、素行などを調べられるのは当然のこと、大事な跡取りを
産むための“身体の相性”についても重要視されています。
そこで、見合いの席で、両親が見守る中、性交渉を行い見定めるという儀礼が繰り返
されてきたというのです。
この為、学園の地下には、見合い前の女子を性的に調教する為の、調教部屋が設けら
れているのだとか。
その地下調教室の住人こそが、かつて地上の学園に通っていた、主人公・和也だった
のです。


んな、バカな!!!


という設定に、ツッコミを入れている時間もない程、テンポよく物語は進行していく
というのが、本作がミドルプライス帯の作品だという証明でもあるのでしょうね。


さて、先に述べたように、La.シナリオの見どころは、エッチシーンにおけるヒロイ
ンの心理描写だろうと思えます。
本作の場合は、主人公の元カノにして、別の男に娶られる為に、未だ未練を残してい
る主人公に調教されるヒロイン・かなえの、揺れ動く乙女心。
気丈で朗らかなかなえの性格は、それだけで魅力的ですが、そんな彼女が、表面に出
さない本音の部分を想像すると、非常に萌えます。

見合いの失敗により家族に与えるだろう影響への恐れと、想い人でもない相手に抱か
れ嫁ぐことへの不安。揺れ動く心。
なにより、恋する相手と性的に結びつく悦びと、恋する相手が他の男の為に自分を調
教していくという事実への悲しみ。
そんな想いを押し殺すかのように笑顔を見せる、かなえ。
ああ、かなえ可愛いよ。

主人公視点で見れば、この先にある『寝取られ』を予見出来ているわけで、『寝取ら
せ』ジャンルの作品とも言えます。

と、結末はお定まりといった感もあり、もう少し寝取られ感を強調するようなエンド
があっても良かったと思えるのですが、寝取られまでの過程の描写が、じわじわと心
に染みる。
そんな作品だったと思います。


*音楽/声優・・・
音楽については、テーマ曲などもなく、BGMにしてわずか8曲。
取り立てて目立つ部分はありません。
ロープライスならともかく、ミドルプライスなら歌モノでなくともテーマ曲なりは、
用意して欲しかったところ。

かなえ役の計名さや香が、まずまずの好演。
しかし、特別な凄みはなかったかと。



名前を目にする機会は多かったものの、なかなかプレイしていなかった、スナック・
ファクトリーの作品。
正直なところ、過去作品の浮き沈みからして、継続的に買いたいブランドとは言えま
せんが、今回の作品は良作で、胸にチクリとした刺を残してくれました。