絵16+文28+音14+他28 素晴らしかった。ぜひ、プレイしてください。それ以上、言うことはないです。
(※ロープライス・同人を対象に、他の項目は、最低点をベースアップしています)
フリーゲームです。
ゲームエンジンはADV+++。
以前は、YOX-ADVという名称で2002からリリースされていた、十年来の歴史を持つノ
ベルゲームエンジンだそうです。
一揃えの機能は揃っており、メジャーなゲームエンジン以外では、案外、縛りがあっ
たりもする、高解像度にも対応しているようで、このゲームも1280x720という、商業
作品にも引けを取らない解像度でプレイ可能です。
また、64bitOS対応もされており、今回の作品については、32bit版と64bit版両方の
起動ファイルが同梱されています。
ゲーム中のセーブやコンフィグは、画面上部にカーソルを合わせるとバーがスライド
ダウンする仕掛けになっています。
デザイン性と実用性を両立させるインターフェイスデザインは、Webデザインが花型
でしょうが、そういったデザインにおけるポリシーを、こういった古参のゲームエン
ジンが吸収している部分に、ノベルゲームという媒体の円熟味を感じたりもします。
さて、似た雰囲気の作品ですと、コチラも同人のnasskaさんの『es-node』が思い浮
かびます。(メインヒロインのビジュアルも似てる)
nasskaさん、まだ、待ってますからねー。
*映像面・・・
一枚絵の点数は少なく、立ち絵の差分表現も多くありません。
半分近くのキャラには、立ち絵自体ありません。
その辺りを含めた演出面では、やはりフリーゲームと思えます。
一方、メインヒロインのトラ子さん(デリヘル嬢)の可愛い照れ顔などに、演出の的
を絞って彩りを添えています。
フリーゲームで短編作品らしく、無理にやりたいことを詰め込もうとせずに、力を抜
くところは抜いて、“作品として形にする”事をきちんと見据えている部分は、同人
作品の美点でもあり、制作のコツでもあるのかと、改めて感じさせられます。
そして、この作品において、そういった略式演出に「手抜き感」を感じにくいのは、
限定的に施された最低限の演出が、物語のツボを抑えているから、すなわち、
「トラ子さん、可愛いよ」
を、きっちり表現しているからでしょう。
一枚絵も少ないながら印象的です。
インサイドのディティールを細めの線で描いて、アウトラインをポップで太めの線で
描き、肌は柔らかい色で塗りながら、髪や瞳には強い色を配色しているなど、アルフ
ォンス・ミュシャの絵に関心を示すような人の琴線に触れそうです。
(アール・ヌーヴォー風という意ではなく、ポスターアート的な意として)
また、昨今おなじみな、ほんのり肌の艶感を出すようなハイライトも、ぼんやりして
しまいそうな画面に、よいアクセントになっているように感じられます。
*音楽・・・
ボイスレス作品。
いくつかの音源サイト等から、セレクトした楽曲群。
歌物もエンディング部分で使用されています。
特に、お馴染みな煉獄庭園さんのサウンドが、きゅっと胸を締め付けますね。
商業ゲームを多くプレイしているユーザーにとっては、フリー音源を使っている場合
は、どうしても評価は辛めに成りがちというのは、致し方ない部分です。
ですが、他の同人ゲーム作家の方も言っていたことですが、フリー音源からBGMをチ
ョイスするのは、とても楽しい作業けど、とても骨が折れる作業だそうです。
これだけ沢山ある、素晴らしい音源の中から、「コレだ!」と言える物を選択する作
業を思うと、それはそれで大変な作業だと、常々感じます。
そして、選ばれた曲が、これだけ作品に馴染んでいれば、それを評価しない手は無い
でしょう。
*シナリオ・・・
僅かに2時間程度の作品で、その上フリーゲームなので、あまり仔細を語るよりも、
プレイして確かめて頂きたい、という気持ちが強い作品です。
いえ、損はさせませんよ。
では、簡単にお話の方向性だけ。
とある理由で、家出をした主人公くん。
食うに困って強盗に押し入り、家主の女性を縛り上げたところまでは良かった(?)
ものの、どうやら女性は裕福とも言えないようで、手持ちの僅かばかりの万札しか、
目ぼしい金品もないという、なんとも間の抜けた話。
そんな強盗くんに、家主の女性トラ子さん(デリヘル嬢の源氏名)が提案します。
「だったらさあ、この家に泊まりなよ。好きなだけ」
強盗くんと、トラ子さんとの、奇妙な同棲生活が始まります。
と、まあ、タイトル通りの不思議な展開から始まって……
謎のミュージシャンやら、怪しい雰囲気の妹やらが登場してきて、心理学とか持ち出
してきて、「あら、これはトラ子さんとイチャコラするゲームじゃないのかー」など
と思っていたら、物語は明後日の方向から一昨日の方向まで、驚きの急展開!
若干、2時間程のプレイ時間の中に、これだけ色々と詰め込んでおきながら、無駄な
部分と思えるようなエピソードはなく、逆に不足感も感じさせないっていうのは、構
成の巧さと、読みやすい文体のおかげかと思います。
扱う題材が、割合、プレイヤーが共通認識を持ちやすい様な、判りやすい題材をチョ
イスしている部分も、作品理解を手助けしているでしょうね。
また、端折った部分は端折ったからこそ、コチラの想像を掻き立てたり、余韻を感じ
させる効果もあったりで、この作品の長さに対して、実にフィットした文章量だった
ようにも思えてきます。
そして、トラ子さんが可愛んだ。抱きしめたくなる。
思わず、涙腺を刺激されました。
思わず、笑顔になりました。
思わず、ありがとうと言いたくなりました。
とても、幸せになれる作品に巡りあえて、実に満足な日曜の夜です。
あ、ジャンケンは『グー』でしたよ!!