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えびさんのひめごとユニオン ~We are in the springtime of life!~の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
ひめごとユニオン ~We are in the springtime of life!~
ブランド
SEVEN WONDER
得点
64
参照数
946

一言コメント

絵23+文19+音19+他03 FDで補完? とか、思わず言ってしまいそうな、消化不良。どう考えても、ヒメリアルートに攻略制限をかけて他の三人のヒロインのストーリーを伏線にするとか、グランドエンディングが必要そうな内容なのだけれど……

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

PULLTOPの主要メンバーが独立して立ち上げた、SEVEN WONDERというブランドの、セ
カンドタイトル(FDや移植は除く)として、リリースされたこの作品。
デビュータイトルであった『太陽のプロミア』は、ファンタジーとSFを融合させた、
壮大なスケール感が印象的な作品で、名作とまでは言いがたい部分はあったものの、
ブランド名に見合った冒険心をくすぐるような作品だった。
さて、では、この作品はどうだっただろうか。


*映像面・・・
前作に引き続き、たけやまさみと川原誠が、概ね同量の原画を担当し、それぞれに魅
力あふれるキャラを活き活きと描いている。
前作同様、コミカルな部分も多い作品にあって、たけやまさみが担当したヒメリアの
立ち絵は表情豊かで、個性的。
相変わらずの独創的眉毛描写も相まって、オンリーワンな魅力がある。
また、そういったやや砕けた立ち絵表現とは裏腹の、繊細な線と“張り”や“ツヤ”
のある肢体描写は、一枚絵において目を見張る出来栄えだった。

川原誠も、やや癖はあるものの、独特な躍動感のあるポップな絵柄は健在。
あまり飾らないシンプルなデザインは、たけやまさみとは間逆な印象を受けるが、今
回は、コスチュームを含め、小物使いでメリハリをつけた印象があり、それによって
キャラの可愛さが増したように思う。
特に小春や、サブキャラである飛鳥などは、シンプルな造形に髪飾りを添えただけな
のだが、このワンポイントがあるかないかで、かなり印象が違っただろう。

総じて、高いクオリティと、オリジナリティを両立させている部分には、「流石」と
いう他ない。


*シナリオ・・・
『太陽のプロミア』という作品が、意外な程、スケール感の大きな作品だった為、一
見して緩くドタバタっぽい雰囲気の本作品についても、終盤でのどんでん返しがある
のだろうと、発売前から期待していた。
だが、どうにもプレイ済みユーザーの反応を見る限り、今回はそういった仕掛けは無
いようであり……というわけで、なかなかプレイする意欲が沸かなかった。

そして、いざプレイしてみれば、これは確かに、『太陽のプロミア』の方向性とは違
うが、まあ、これはこれで……といった雰囲気で、ドタバタシナリオというよりは、
バカシナリオとも言えるくらいのはっちゃけ具合と、小悪魔ちっくで可愛い小春ルー
トを楽しんだ。

だが、夕輝ルートの吹雪というアンドロイドに与えられたピュグマリオンモチーフ的
な部分が、逆に本来のヒロインの夕輝に与えられた『勇気』というモチーフと、上手
くマッチせず、どうにも微妙と感じて、なかなかプレイが進まない。

聖ルートは、本質的に何が聖の剣を変えたのかよく判らず、結局、“それっぽさ”だ
けを頼りに描かれている印象を受けてしまった。
男装女子モノとしては、キャラクター的にもギャップが弱く、エピローグのお料理シ
ーン並みの女の子らしいエピソードが、本編中にも欲しかったところ。

ラストにヒメリア。
面白いキャラだと思う。
面白い世界観設定だと思う。
でも、唐突にシナリオを端折って、急加速でエンディングに向かい、あっさりと解決
に至ってしまう展開は、ひどく残念だ。

と、まあ、プレイし終わってみて、ヒメリアルートの演劇については、やはり、他の
ヒロインのエピソードの根幹にある、過去の事象とのリンケージがあると思われ、そ
うすると、本来は、ヒメリアルートは攻略制限を設けられたグランドエンディング的
な位置付けが、当初はあったのかもしれないと感じてしまう。

かなりの期間を掛けて、ゆっくりとプレイしたが、それは一気に読み進めたくなる魅
力が乏しかったから。
(まあ、艦これで忙しかったしね……)
見せ方次第で、もっと違った、好意的な読後感だったかもしれないのが、残念だ。


*音楽/声優・・・
声優陣は、ベテラン一色ヒカルから、現在向かうところ敵なしの桐谷華まで、と、な
かなか幅広いキャスティング。
恐るべきジュニア女子、こと、小春役の桐谷華は、共通パートでかなり目立つ。
ヒメリア役の如月るりの、「なんと!?」は、そのコミカルな立ち絵と相乗効果で、
耳に焼きつき印象的。
また、サブキャラ担当の松田理沙が、地味にいい味を出していたりも。

OP『Secret!』Elements Garden feat.NANAは、イントロのキラキラとサビのフレーズ
の繰り返しが、流石、ツボを抑えているといった印象。
EP『二人の歩幅』Blueberry&Yogurt feat.Ritaは、こちらもお馴染みなコンポーザー
と歌手の組み合わせで、エンディングらしくしっとりしながらも、透明感のある光を
感じるようなハピネスに溢れた曲。
BGMは、作風に合わせて、ドタバタ風味やコミカルなど、多種多様。
ただ、前作の『紅炎開花』のようなキラーチューンが無く、そこは寂しい。


全体的に、前作とは方向性が違う作品だったとはいえ、未完成に感じられる要素を、
多く残してしまったのが、最大の敗因。
FDで補完するにしても、そこまで引っ張れるほどのネタがあるか微妙。
また、非攻略キャラ昇格という面で見ても、ディアーネにしても、はねるにしても、
ややキャラクターとして萌え要素が薄かったりもして、余程、慎重にFD要素を選ばな
いと、FDもグダグダしてしまいそうな不安も残る。

フィーリア、祭、駒鳥先生辺りを、上手く料理すれば、案外、面白いFDになるかもし
れないですが、まぁ、発売されるかどうかもわからないFDに、何を言っても無意味だ
な、と、そんな感じで、今回はこの辺で。