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えびさんの魔物娘の館 彗星館異形録 ~人魚の章~の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
魔物娘の館 彗星館異形録 ~人魚の章~
ブランド
Vanadis
得点
76
参照数
1904

一言コメント

絵22+文19+音17+他18 もんむすの迷宮探索は、未だ、道半ば。深い、深すぎるぞ。

長文感想

▼▼読まなくてもいい▼▼
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迷宮の深くへ沈み、どれ程の時が過ぎただろうか。

ここは迷宮の地下5階。これまでの階層とは、明らかに空気が違う。

「くそっ……」
魔物避けの香を焚き、簡易キャンプを設営し終えたビショップが、思わず漏らした。
いつもは温厚なビショップが、思わず見せた苛立ちに、状況の深刻さをかみ締めざる
を得ない。

警戒用のトラップを仕掛け終えたらしい、ニンジャと魔法使いが戻ってきた。
ニンジャは、獣皮紙に歩測した地図を書き込んでいる。
「あの一方通行な扉を潜った辺りか……」
座標計測の呪文を唱えた魔法使いが、獣皮紙を覗き込みながら言った後、神妙な表情
をこちらに向けてきた。

オレはと言えば、僧侶の女と共に、エルフの戦士を治療していた。
キャンプに寝かされたそいつの左腕は、半刻ほど前に遭遇した巨大な獣に持っていか
れていた。
前脚の太さが、大の大人の一抱えもあるような、巨大な獣だった。
その獣からは、なんとか逃げ出したものの、重傷者を抱えている現状は最悪と言って
もいい状態だった。

「足手まといになるだけだ」
と、戦士を切り捨てることは出来た。
だが、それを許さなかったこのパーティを、俺は気に入っていた。

絶対に、全員で地上に戻ってやる。


状況が一変したのは、キャンプを張って三刻ばかりが過ぎた時だった。

「右に回れ!」
斬りかかりながら叫んだのは、ニンジャだった。
その合図に従って、巨大な獣の右に回りこみ、オレは戦斧を振りかざした。
ニンジャの動きに気を取られていたせいだろうか、オレが振り下ろした鉄塊は、獣の
前脚を容易く捕らえた。
咆哮をあげる獣に、ほくそ笑んだ瞬間、強い衝撃に身体ごと弾き飛ばされる。
「ぐっ……」
一瞬意識を失いかけたオレが、次に見たのは、巨大な顎に噛み砕かれたニンジャの姿
だった。
僧侶とビショップが回復の呪文を唱え始めているが、とても間に合いそうにない程、
深く突き刺さった牙の隙間から、赤い物が噴き出していた。
魔法使いが放った火炎が獣の身体を舐めると、獣はたまらずニンジャを放り出し、後
ろへ飛び退った。
ニンジャの元へ駆け寄った僧侶が、回復呪文を叩き込みながら叫ぶ。
「だめだ! 死ぬな!!」
だが、一度ひるんだ獣は、すぐさま体勢を立て直し、無情にも今度は僧侶を獲物に定
めて飛び掛ってきた。
その巨体からは想像もできない俊敏さに、反応できる者は居なかった。
前脚で抑えつけられた僧侶が、悲鳴を上げた次の瞬間には、その身体は獣の顎に捕ら
えられ、ボキリと骨が砕ける嫌な音がはっきりと聞こえた。

「二十秒、稼げ!」
魔法使いの叫びが聞こえ、オレは立ち上がった。
本来の得物は、獣に薙ぎ払われた時に見失っていたが、目の前に転がっていたカタナ
を拾い上げる。
ビショップは長柄のスタッフを構え、獣に正対する。
元々、モンクだったというビショップは、棒術もそれなりにこなす。
オレが横から、ビショップが前から、獣に飛び掛っては離れを交互に繰り返す。
ダメージの有無は関係ない。
時間さえ稼げればいい。
そう判ってはいても、相手の一撃の威力が判っているだけに、死の恐怖が動きを鈍ら
せる。
たった二十秒が長い。
時間の引き延ばされた、濃密な二十秒間。
「下がれ!!」
魔法使いが叫んだと同時に放ったのは、最上級の爆裂呪文。
迷宮を揺るがす程の爆発が獣を捕らえたのを、はっきりと視認する。
巻き起こった熱風はすさまじく、立っている事すら出来ない。
まだ覚えたてて、やっと一発放てるようになったばかりの魔法であった為、魔法使い
自身、成功するかどうかは賭けであっただろうが、見事にやってくれた。
数秒間に渡り響いていた幾度かの爆発音が止み、巻き上げられた砂塵が晴れ、視界が
戻ってきた。
だが、その時、オレ達が見たのは、褐色の毛並みに焼け焦げた跡こそあるものの、以
前、健在な獣の姿。
呪文発動後で、完全に無防備な魔法使いは、獣にとって格好の餌食だった。
襲い来る獣を前に、立ちすくむ魔法使い。
そして、その前に立ちはだかった、隻腕のエルフの戦士。
戦士は片手で構えた剣を、しかし一振りする力さえ残っておらず、獣の体重が乗った
跳躍で頭部を踏み潰され、ぐしゃりと音を立てて逝った。
誇らしげな咆哮をあげる獣を前に、絶望以外の感情は湧いてこなかった。

……
…………
………………
始め、何が起こったのかわからなかった。
それが、何者かがオレの目の前を駆け抜け、獣の喉笛に一太刀浴びせたのだと気付い
たのは、獣の巨体がぐらりと揺れ、その巨体に見合った重量感のある音を響かせて、
倒れ伏した後のことだった。

「運が無かったな。突然変異種のヘルハウンドに出会うとは。ただでさえ、この階層
で、一番、厄介な相手なんだ」
そう言ったのは、黒褐色の甲冑に身を包んだサムライだった。
「おい、蘇生してやれ」
サムライの一言でやっと気が付いたが、いつの間にか、サムライと同じ色の鎧を着込
んだ一団がオレ達を取り囲んでいた。
その一団から若い女の僧侶が二人進み出て、獣に蹂躙された仲間の身体を治癒し、す
ぐさま蘇生呪文を唱え始めていた。

黒いサムライの仲間らしいニンジャが、オレに転移魔法のスクロールを手渡しながら
話しかけてきた。
「一度、街に戻って立て直せ。もし、またコイツらに出会ったら、まずは魔法で眠ら
せるか麻痺させるといい。本当なら、群体で出てくる上に、ブレスも使ってくる、厄
介なワンコロだからな」

仲間達の蘇生が終わると、再び、黒いサムライがオレに話しかけて来た。
「アミュレットを取り戻せ。近衛隊で待っている」

そして、黒いサムライ達は迷宮の奥へ消えていった。
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▲▲読まなくてもいい▲▲


さて、例によって意味不明な枕にお付き合い頂けたのなら、まずは感謝を。

さてさて、では、Vanadisの魔物娘シリーズ新作のレビューをしましょう。

本作の場合、まずは、なんといっても過去作品とはまったく雰囲気が異なる、ダーク
ファンタジー的な作品コンセプトについて、語らざるを得ないでしょう。
『ラミア』から『蜘蛛と鳥と◎と』までは、確かにシリアスな部分もありましたし、
特に『アルラウネ』などはシナリオ性というものを、かなり意識した設定であったり
しました。
しかし、比率で表すなら、ドタバタ3:ラブイチャ5:シリアス2程度だったように
思えます。
シリーズ各作品の続編でもあり、総決算とでも言うべき『聖もんむす学園』にあって
も概ね、その比率は同等でした。
つまり、楽しくドタバタしながらイチャイチャしておいて、終盤はシリアスに傾けて
おいて、ラストはやっぱりイチャイチャするという、まあ、萌えゲーに限らず、極め
てスタンダードなエロゲの構成を周到していました。

では、本作の場合はどうかと言えば、ドタバタ0:ラブイチャ6:シリアス4と言っ
た感じになっており、茶化そうと言う雰囲気がありません。
これまでが本気じゃなかった、というわけではないのでしょうが、もんむす市場の移
り変わりによって、規定路線から脱して、Vanadisにしか作れないもんむすワールド
に深みを持たせていこうというような、意気込みが感じられる作品でした。

そう言ってしまうと、華々しさが無い地味な作品とも捉えられてしまいそうですが、
今回のヒロインである人魚のメルフィアのビジュアルは、それを補うかのように華が
あり、その見た目だけでなく、ピュアな心の持ち主故に、充分なエロさを引き出して
いました。
原画ぶぶづけの画力の向上は、安定感マシマシになっており、ほぼ隙がない仕上がり
を見せてくれました。
また、箒星という館の女主人の黒褐色な姿と、メルフィアの真珠を思わせるような淡
く乳白色な姿は、そのカラーリングだけで相乗的に互いを引き立てあっているような
印象さえ受けました。
それだけに、両者を交えた3Pがあると嬉しかったのですが……

人魚と悪魔というもんむすの為、性行為は比較的、一般的なものが多く、エクストリ
ームセクロスは、やや控えめだった本作品。
その物足りなさを補ったのは、このブランドの魅力の一つであるフェラ描写の力強さ
でした。

本作に限らず、このブランドのエロシーンは、どうしてもフェラ偏重になりがち。
それは、人間と魔物という異種族の物語であるからです。
魔物にとって、性的な行為は吸精という食事と同等の行為ですから、性的な行為に対
して積極的であり、出会ったばかりの序盤の内から、性行為は頻繁に行われるように
成ります。
これは、抜きゲーとしては都合がいいですが、人間がヒロインの場合、ただのビッチ
扱いされてしまう可能性が高く、魔物娘だからこそ違和感なく(?)シナリオを構成
できる強みであろうと思います。
その一方で、このブランドは抜きゲーであると同時に、魔物娘に萌え心を刺激される
という萌えゲーの側面も持っていますから、やはり人間と魔物が恋し結ばれるシーン
に、性的な行為もピークに設定しやすいロストバージンを持ってくる必要があり、そ
うなれば、そのロストバージンまでの性行為では、オーラルセックスを始めとする、
『性行為に準ずる行為』の描写が必至となるわけですね。

そして、『性行為に準ずる行為』にバリエーションを持たせるべく、ある者は触手、
ある者は尻尾、ある者は羽、などなど、人間の女の子にはない器官を駆使した、エク
ストリームセクロスを展開。
また、オーラルセックスもシンプルな物から、吸精行為らしさを、より強く打ち出す
為、ディープでエロくねっとりと描いていこうとする過程で、ついついやり過ぎて、
『ひょっとこ』がデフォルト化してしまったのではないかと思えてきます。

と、まあ、そのような様々な要因が重なったのか、もしくは単純に、影花、ぶぶづけ
両名の趣味が良い具合に暴走しただけなのかもしれませんが、兎にも角にも、このブ
ランドの作品におけるフェラの表現は、一種独特なオリジナリティであろうと思えま
す。
もんむすのVanadisであると同時に、フェラのVanadisである、と思うわけでして、そ
んなブランドの作品でしたから、当然、メルフィアのフェラは『ひょっとこ』全開で
エロエロで実用的でした。(ごちそうさまでした)


シナリオについて言えば、正直なところ物足りなくも感じます。
シリアス偏重でありながら、アルラウネの方がしんみりとしました。
スキュラ&スライムのドタバタ感が、このシリーズでもっとも楽しかったと思ってい
ます。
そういった、過去作との比較に依る部分は差し引けないまでも、箒星の狂気は曖昧で
したし、解決がご都合的な部分は止むを得ないにしても、シナリオの展開も平坦で、
ドラマ性に欠けると感じました。
箒星の狂気という意味では、もう少々悪役らしい悪趣味なエピソードがもう一つ二つ
欲しいですし、BADエンドでは、もう一枚はハードな描写のCGが欲しかったところ。

とは言え、これまでのブランドが積み上げてきた武器は活かしつつ、新たな方向性へ
チャレンジしようという意気込みは伝わってくる、意欲作ではあったと思います。


先にも述べたように、エクストリームセクロスが控えめだった事は、もんむすの迷宮
の探索者としては、やはり残念ではあります。
ただ、エクストリームだけが、もんむすの魅力ではない事を提示するかのような、本
作品のあり方もまた、もんむすの迷宮の奥深さを証明しているようにも思えてくる、
そんなシリーズとして『魔物娘の舘』が続いていくのも悪くない、と、そんな風にも
感じられる作品でした。