ErogameScape -エロゲー批評空間-

えびさんの夏の終わりのニルヴァーナの長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
夏の終わりのニルヴァーナ
ブランド
ぱじゃまソフト
得点
90
参照数
668

一言コメント

絵25+文26+音24+他15 ただしく涙のスイッチを押してくれる作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

*映像面・・・
大野哲也による原画。
大野絵と言えば、プリズム・ハートシリーズの極端な造形など、キュート系のロリロ
リしさが印象的で、そのピーキーな奇乳表現や異常なまでに細い四肢など、知覚の迷
宮に嵌り込むような絵柄。
本作は、そのシリーズから比べれば、かなり絵柄は落ち着いた印象を受ける。
大野絵らしさは残しつつ、より広いユーザー層に訴えかけるキャラ造形に終始してい
る部分は、本作に掛けるブランドの意志が伝わってくる。

夏の強い日差しを感じさせる、光彩の揺らぎ。
夕映え色の背景とよく馴染む、曼珠沙華の花びらが舞う系のエフェクト。
加えてダイナミックレンジの広い背景の彩色に、暗色を極力排した明るめなキャラの
彩色もよく馴染んでいるように感じられる。
キャラの彩色といえば、半透明な和紙のようなテクスチャを、キャラの髪や衣服に重
ねており、どこか儚いイメージを抱かせ、彼岸を訪れる亡者や天人という、まさに浮
世離れした世界観を象徴している印象を抱いた。

また、背景画自体がとても美麗であり、プレイ開始時には、まずその事に目を奪われ
た。

目パチなエフェクトなどもあり、演出部分はなかなか凝っている作品だが、やはり光
の使い方が非常に印象的で、好印象を受けた作品であった。


*シナリオ・・・
他の感想などでも触れられている通りであるが、まったくもって、日常部分の上滑り
感は残念であり、序盤こそやや苦痛を伴うものの、それを差し引いて余りある個別ル
ートの『泣かせ』が光る作品であったかと。


**ボクは……なんのために生まれてきたの
余命半年のナユは、自分が生きている意味を見出せず、生に絶望していた。
虚弱で病に冒され、短命の業を背負った魂魄の哀れ。
彼女を救ったのは、かつて自らが誰かの幸せを願い、風船に結わえて飛ばしたコスモ
スの種。
自分の想いを伝え、それを受け止めてくれた人の存在が、ナユ自身の生に意味を見出
させる。
そんなナユが選んだのは、苦しくとも懸命に、僅かな生を生き抜くこと。

**私は……人殺し
ミハヤの母親は彼女を産む代償に亡くなり、また父親は火事から彼女を救い出す為に
亡くなった。
心ない人々の悪意が彼女を追い込み、やがて自身の生自体を罪として、それを罰する
ために自死を望むようになる。
与えられた命を自ら絶った業を背負う魂魄の哀れ。
彼女を救ったのは、彼女の生誕を祝福し、その健やかな生を願う人々の想い。
ミハヤは「生きたい」と叫ぶ。自分を想う人達に応えたいと願う。

**ナユとミハヤ
生きたくても生きられないナユと、生きることを辞めようとするミハヤは、対比的な
存在だったようにも思える。
それだけに、ナユルートでナユがミハヤを叱責し頬を打つシーンは、心に響くものが
あるのだが、二人が辿り着いた先が、誰かに「ありがとう」と想いを伝えるという共
通のものであったことが、特に感慨深い。

**薄汚い人間は、みんないなくなってしまえばいいのよっ!!!
他者の悪意から目を背け、世界を呪ったレイア。
レイアを想ながら、彼女を助けられなかった後悔を抱えたノノ。
しかし、その関係が明らかになると、レイアはノノに依存し、再び自分の殻に閉じ籠
もってしまう。
愛する者から裏切られた者と、愛する者を守れなかった者の、絡み合う業。
全ての他者の声を悪意と見なし、世界を拒絶し、目を、耳を、閉ざしたレイア。
レイアを救ったのは、彼女に向けられた心からの想い。そして、ノノが奏でた、想い
出のおもちゃのピアノ。
レイアが辿り着いたのは、人を信じ、人の想いを受け止めること。
ノノが初めてレイアを「レイア」と呼ぶ、そのシーンはゆるぎ難い強度を持って、心
を揺さぶる。
しかし、生き返ることの出来るレイアと、もう生き返れないノノ。
別れを嘆くレイアに、「生きて欲しい」と願うノノと、その想いを受け止めるレイア
と。
“二人の心が繋がって”、二人の魂魄が背負った業から解き放たれる。
二人は手を取り合うが、やがて消えていくノノの姿は瞳を潤し、ナユやミハヤと同じ
ように、ノノに「ありがとう」と言ったレイアの笑顔で緩んだ瞳から涙が溢れ出す。

**1200年の片想い
ここまでの四名のヒロイン達のシナリオへの感動だけでも、充分に良作のシナリオで
あったが、やはりメインヒロインのシナリオは一味違った。
各ヒロインや他の登場人物の業の起点となった1200年前のエピソードを中心に、彼ら
の縁を描き、そして一人その想いを抱え続けて来たクオンの語られない想いに直結さ
せる。
再び輪廻のめぐり合わせで引きあった魂魄達を前に、なにも語らず、見守り続けたク
オンの心情を想うだけで……
そして、1200年続けた片想いを受け止め、大切な人達との縁を絶ってでも、自分の大
切な者の為に、最後まで生き抜くことを選んだカルマの裁き。

果たしてカルマが選んだ二人だけの世界が、悟りの境地、涅槃と言えるものかは、定
かではないが、永久に続く二人の愛を、縁を絶たれた者達も祝福し続けるだろうと思
えた。

**エロゲにエロはいらない
クオン以外は本編中からエロを排し、IFストーリーとしてルート攻略後のおまけ的な
扱いで組み込まれている。
レイアとノノに至っては、3Pシーンが購入特典としてしまっている辺り、使い古され
てしまい、かつてあったであろう意味も漫然としている「エロゲにエロはいらない」
を地で行く作品となっている。
賛否はあるだろうが、クオンルートの強度を確固たるものにする為ならば、確かにそ
れも仕方ない、ひとつの『配慮』であるようにも感じられた。


*音楽/声優・・・
泣きゲーらしい正統派感のあるテーマ曲の切なさも去ることながら、エンディングへ
流れ込む見せ方と、そのイントロががっちり噛み合っていおり、物語の余韻を引き立
てている。
BGMはクラシックアレンジを多用しており、ノスタルジックな雰囲気や激情的なシー
ンなどで、効果的な部分も多々あった。
しかし、日常局の部分では、必ずしもそれが成功しているとは言い切れない場面もあ
り、特に過去編での珍妙さは際立っていた。

声優陣では、やはりノノ役の桐谷華の演技が、特に耳に残る。
それ以外にも、夏野こおりや車の人、他にもアレな関係で表だ裏だという方など、人
によっては充分に豪華と言えるキャスティングになっており楽しめる。
個人的には、サブキャラとはいえ、ネタ要員化してしまった千手役の青山ゆかりに、
あまりにも見せ場がなかったのが寂しくもある。