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えびさんの幼馴染と十年、夏の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
幼馴染と十年、夏
ブランド
夜のひつじ
得点
86
参照数
987

一言コメント

絵17+文24+音19+他26 『まだ見ぬものを二人で知る』 共有するということの喜びを、優しく綴った、思い出をたどる物語。  (あー、チクショー、やってらんねー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(※ロープライス・同人を対象に、他の項目は、最低点をベースアップしています)

映像面・・・
『親友が美少女になって帰ってきた。』以来の、コリタ絵を採用。

幼馴染と主人公の歴史を描く作品において、同一キャラの成長を描く事に、苦労され
たのでは無いかと思える。
柔和な印象を抱かせる絵柄だが、それだけに、エッチシーンなどの不安げな枝梨の表
情が強く印象に残る。
その表情の裏にある、未知への恐怖や戸惑いと、それでも葉人を、愛する人を受け入
れたいと思う心の揺らぎ。
また、ほんの少しだけの、禁忌に触れることへの好奇心。

そして、そんな表情だからこそ、ともすれば倒錯的な悪戯心を刺激され、しかし、そ
の心情を慮って大切にしたいと思う気持ちの板挟みで、ユーザー側も揺れ動く。
このユーザー側の感情は、主人公のそれと重なって、より一層、枝梨という幼馴染を
愛おしく感じる。
(こんな可愛い枝梨が寝取られたら、と思った不謹慎な輩には、一杯おごらせて頂き
たい)

これまでの、夜のひつじ作品とは違い、メッセージ性や人物の感情描写よりも、ただ
二人の物語を柔らかく優しく描いた物語だったからこそ、コリタ氏の絵柄の暖か味の
ある絵柄がマッチしていた。


音楽/声優・・・
ヒロイン枝梨のみ、フルボイス。
3つの時代を作中で描き、枝梨自身も成長していく中で、声優の演技にも注目したい
作品。
平成11年の頃の、ちょっと浮世離れした不思議系とも思えるような少女像は、どこと
なく上の空な声の演技による貢献度が高い。
平成14年になると、もっと明確な自意識が芽生え、しっかりした印象を受ける。
しかしながら、相変わらず不安げなセリフの部分になると、平成11年頃の子供っぽさ
が垣間見え、成長途中の少女像を上手く演じている。
平成16年になると、葉人に対して既に家族であるかのような親密さを感じさせる、や
や脱力気味で砕けた演技。

と、シナリオや絵に誘導されて、そう聞こえてしまう部分はあろうが、特に平成11年
の演技は秀逸で、“ロリコン勢まっしぐら”な演技であろう。

この作品で、最も印象深いのは、音楽。
夜のひつじ作品は、常にmadetake氏のシンプルな音楽に彩られている。
同人では、フリー素材による音楽演出が多いが、より細やかな曲指定が出来るという
意味で、このサークルの最大の強みと言って良いかと思っている。
そんなmadetakeサウンドだが、過去作品では、人物の感情面にスポットを当てた曲調
が多く、その最たるものとして、『恋妻くずし』のラストシーンにおける、“堕ち”
のBGM演出が象徴的だろう。
(あのシーンのあの曲は、筆舌に尽くしがたい、凄まじい破壊力を持っている)
しかし、この『幼馴染と十年、夏』をプレイしてみると、そんないつもの作品とは、
明らかに違う部分がある。
日常のパートからして、ドラムのフィルインから始まる明るめな曲がある。
こんな夜のひつじ作品は知らない。
どうやら、人物の感情面よりも、例えば朝なら朝の曲、夕方なら夕方の曲といった、
そのシーンごとの情景にあわせた曲指定であるようだ。

(そのようなことを、Twitterにてつぶやいたら、製作者様からもリプライを頂いた
ので、概ねでは、的外れでないようで安心)

ともかく、そういった日常描写に合わせた曲のチョイスがされていることで、他作品
のようなドラマチックな曲演出は鳴りを潜めているが、登場人物が過去を振り返って
いるかのような、空気感が滲み出ている。

この物語は、エンディング後のエピローグ部分に示唆されているように、葉人が夢の
中で過去の思い出を振り返っている物語なのではないかと思われ、そう考えてみると
曲の指定を変えていることにも、深く頷けるだろう。


シナリオ・・・
幼馴染と過ごした十年。
おそらく、平成11年以前のシナリオの構想もあったのだろうが、そこはあっさりと流
してしまっている。
平成11年以前の思い出は、それほど鮮明に思い出せる記憶でない、もっと子供らしく
純粋過ぎるものであったのかも知れない。

音楽の項で述べたように、過去の思い出を、断片的に夢の中で振り返っている物語で
ある。
これは、ほぼ断言しても良いと思う。
エピローグ部分で、葉人が夢で見ていたのは、“川べりの匂い”というキーワードか
ら、平成11年の祭りの夜の出来事だと想像できる。

「いつもすごく幸せそうな顔してるから」

と、枝梨が言ったように、葉人は常々、二人で安らかな時を過ごす中で、過去の思い
出を確かめるように、夢の中で思い出を振り返っているのだと思える。

これは、平成16年のエンディング前の最後のシーンからも読み取れ、シーン中の葉人
の独白的な部分から、

 “時間が再び動き始める。”

という言葉で、枝梨の台詞へと移行する部分は、夢の中で過去を思い出しながら、そ
れを第三者視点で眺めて、反芻しているように感じられるだろう。


この物語は、読み解く類のものではないようにも思え、上記のような蛇足は無粋にも
思えるが、あえてこの物語を読み込むのならば、『アメメダカ』を見つけた象徴的で
美しいシーンを足がかりにすることをお勧めしたい。

では、最後に、作中からの引用を持って、この感想の締めとしたい。


 五年、十年先に、今言った言葉を二人で思い出して、甘やかに語れるように。


 想いは募る。
 募り続けて新しい想いになる。
 知らなかったことを知る。
 まだ何も知らないことを知る。二人で。