絵17+文11+音19+他00 もっと色んな『自分』がいるもの。キャラの設定に縛られすぎていませんか?
映像面・・・
原画はふみー、YU-TAの二名。
柔らかい絵柄がふみー氏、ちょっと尖った絵柄がYU-TA氏。
どちらも、それぞれ味がある絵柄ではあるが、ふみー氏の柔和ながらポップ過ぎない
絵柄は魅力的で、べっかんこうや☆画野朗辺りが好きな方は、ツボに嵌りそう。
この方の立絵は、コメディ部分の表現も良い表情で出来ており、ガチガチのキャラゲ
ーからゆるゆるの雰囲気ゲーまで、幅広くフィットしそうだ。
YU-TA氏は“尖っている”をただ言い換えただけだが、強弱というか緩急の極端な絵
を描かれ、太眉などにもそれが現れている。
これには好き嫌いの要素が大きく絡むだろうが、複数原画でやるには、鈴萌のデザイ
ンはやや奇抜に過ぎたようにも思える。
塗りは淡白で白っぽい印象。
背景画も卒なく小奇麗だが、やや枚数が少ない。
同人上がりの第一作目で、この映像ならなかなかと言えるだろうが、では、この絵だ
けで次回作も購入に値すると言えるような、独創性はなかったように思う。
シナリオ・・・
『かすかな音』と題され、少年時代の淡い思い出に溶け込んだオルゴールの音を頼り
に、進んでいく恋の物語……かと思いきや、ほとんど、その辺りの伏線が曖昧なまま
処理されており、ファンタジックやドラマティックは期待できないので、まずはそこ
はご注意頂きたい。
では、その上で描くとなれば、一つの手段には過ぎないが、キャラクター性を押し出
した、いわゆるキャラゲーと言ったカテゴリーで描くパターンが考えられる。
しかしながら……
優しくて家庭的で、でも根っこにある心根の強い幼馴染。
利己的な自分を抑えきれなくて、でもそんな自分に嫌悪を感じちゃう女の子。
など、そういうキャラクター性に捕らわれすぎてないだろうか。
これが、2980円くらいのミドルプライスで、5時間くらいの作品なら、それでもいい
のだが、フルプライスでこんなにも一辺倒なキャラ描写は、よほど丁寧に機微を描か
なければ、冗長以外の何物でもない。
これは主人公も同じで、鈍感とかヘタレとか、そう言ったよく批判されがちなキャラ
クターなのだが、では、そんなタイプの主人公が全て否定的に語られるかというと、
決してそんなことはない。
鈍感でもヘタレでも、心の優しさや弱さが描かれていれば、恋愛に対する“葛藤”が
描かれているだろう。
鈍感でもヘタレでも、一本、譲れない芯があれば、そういったところに共感も覚える
し、必然とも言える“成長”が描かれているだろう。
変わらないキャラクターを徒然に描写するだけでは、ドラマ性ってモノは描けない。
そんなキャラクターで物語を描きたければ、“変わらない”ではなく“変われない”
を描くべきだ。
誰だって、いくつも顔を持っている。
それは処世術かもしれないし、あるいは抑え切れない心の声の現れかもしれない。
都会ルートと田舎ルートという二つのルート構成をとり、各ヒロインに二つのエンド
を用意した作品にしては、キャラクターの描き方が一辺倒というのは、作品を通した
コンセプトの意義を疑われても仕方ない。
唯一、“変われない”を描かれていたのは、幼馴染の音羽だけだ。
“突然現れた”主人公の義妹の心を労り、“突然田舎からやってきた”不思議少女を
受け入れ、かつて面識があるとはいえ“数年ぶりに再会した”知人女性を姉のように
慕い、彼女らが主人公を想っていると見るや、もっとも優位性の高い幼馴染ポジショ
ンを簡単に譲ってしまう。
愚かしいほどに健気で、優しすぎる。
その後、泣いてしまっている彼女の姿があまりにも容易に想像されてしまう。
ああ、音羽が幸せになる世界の音以外、私にはノイズにしか思えなかった。
音楽/声優・・・
音楽では、都会VerOPの『同じ星の上で。/rui feat.天乙准花』が耳タコソングで、
強烈な脳内ループ力がある良曲。
大方の辛い予想を裏切って、私が思わずこのゲームを購入してしまった要因を分析す
るなら、この曲が最大の要因と言えるだろう。(分析する程でもないが)
BGMについては、キャラ別のイメージ曲が採用されており、音羽のテーマはそのま
まタイトルバックに使われているように、しっとりと優しいピアノ曲で、作品のイメ
ージを体現している。
この時点で、「これは音羽ゲーです」と言っているようなもの。
そして、体験版の頃を含め、その奇抜なツインテや、容赦無い理不尽系ツンなど、な
にかと話題に登ったのは鈴萌だったが、このキャラのテーマ曲がまた強烈で、理不尽
系ツンと相まって、この曲を聞くだけでゲンナリ出来てしまうという刷り込み効果抜
群の電波曲になっている。
その他、『スイートホーム』を始めとして、ノスタルジックなサウンドが多数を占め
る一方で、『オリエントショッピング』のようなちょっと抑え目のテクノポップも採
用されているなど、音楽的にはなかなか面白い内容だったかと。
ただ、曲調がノスタルジック方面に偏り過ぎており、曲イメージが重複している為、
無用に嵩増しされている印象も受けるのが、少々、残念なところ。
声優陣は、同人上がりのブランド故か、同人が主戦場な面子が勢揃い。
メインでは、ヒマリ、涼貴涼、大山チロル、椎那天。
サブどころでも、貴坂理緒、このえゆずこ、彩瀬ゆり辺りはよく見る名前だ。
コスト的な問題からキャラ数を絞らざるをえない同人ゲーでは、これだけ勢揃いする
ことは珍しいので、そういった意味では貴重な作品とも言える。
他にも、サブキャラの演技は安定しており、おそらく仮名義ばかりかと思わせる、熟
れた演技を聞かせてくれるので、安心して頂きたい。
他の方も言われていたが、特定キャラの声が、テキスト表示より遅れて聞こえる。
これは音声の切り出し作業の際の、作業者の癖のせいで、冒頭部に空白が入っている
為かと思うのだが、この辺り、熟れた外部スタジオに委託できなかった、予算面の辛
いところを感じさせる。