絵15+文27+音13+他30 広壮な作品観に対し、ややエピソード不足を感じる面はあり、また、ラスト付近でバッサリと切り捨てた部分は、賛否が別れる部分だろう。けれど、私は切なさに涙した。いよいよリリースが迫った、商業デビュー作への期待が膨らむ、良作同人ソフトだった。
(※ロープライス・同人を対象に、他の項目は、最低点をベースアップしています)
*映像面・・・
立ち絵が簡素で、差分表現も少ない。
一枚絵も少なく、解像度も640×480サイズと小さい。
同人といえど、2010年の作品としては、映像力は、やや非力と言わざるを得ない。
面白いのは、吹き出し表現による会話演出。
立ち絵に対して、キャラがしゃべっている台詞を、漫画の吹き出しのように表現して
いるという、立ち絵の演出である。
この演出が効果的なのは、キャラクターに長台詞を喋らせるシーンなど。
吹き出しは都度のクリックでは消えず、一定のボリュームを同じ画面に表示させた後
に、すべて消えるようになっている。
この様に複数の吹き出しが表示される時、単に文字で表現する以上に、キャラクター
の感情が乗っているように感じられることがあった。
語調の強さによって、吹き出しの形状を変える。
吹き出しで埋め尽くされた画面からは、畳み掛けるような凄みが感じられる。
また、右に左に、上に下に、吹き出しがバラバラに表示されて行くが、特に上下方向
に上がったり下がったりする場合、ワンフレーズ毎に微妙な感情の抑揚があるように
も感じられる。
先述の通り解像度の低さもあって、若干、読みづらく感じる部分もあり、洗練された
演出という印象はないが、テキストウィンドウだけの演出よりも手間隙をかけ、独自
の雰囲気を作り出しているという点は、好意的に評価したくなる。
*シナリオ・・・
人間に成りたいという夢を持つ人形ロマ。
ロマの夢を叶えるため、共に旅する少女リーベ。
物語は、人形(オートマタ)が存在する世界で繰り広げられる。
人の替りとして、忠実で優秀な労働力として、専用の人形を創り、操る技術が、この
世界の最先端の技術である。
そして、何時の時代も、最先端の技術は戦争の技術でもあった。
闘いの傷跡も生々しい世界で、一人と一体の旅は続いていた。
ファンタジックな世界観ではあるが、無常、非情、といった寂寞感を感じさせるスト
ーリー展開になっており、実に読み応えがあった。
主人公であるロマは人形であることから、その感情面の平坦さから、冒頭こそ、やや
コミカルな印象を受けるのだが、ロマが成長して行く過程に立ち会う度に、読み手で
ある我々が常日頃当たり前に抱いている感情とは、一体どういったものであるのか、
再考させられたような衝動を覚える。
全般的に印象深いストーリー構成だったが、個人的な物語のピークは、第二章。
同じ人形師によって創り出された、ロマと兄妹のような存在でもある、人形アーデル
ハイドとの闘争のシーンだった。
何故なら、
どうして、“二人”は闘うのか。
という戦うことの意義が、しっかりと描かれており、その闘う理由が痛切に心を締め
付けるからだ。
そして、闘いの中で、溢れ出した感情が、
「死にたくない」
という、まるで“生命”の持つ本能の叫びにも思えるような、生々しさが感じられる
ものだったからだ。
このような、“生命”の在処を考えさせられるエピソードは、人形モチーフの作品に
おいて、“恋愛”と並ぶ最大の見せ場だろう。
その“生命”の闘争を、実にドラマチックで、実に絶望的に描ききった第二章の物語
は、この先ずっと忘れられない程に、強い衝撃を受けた。
端的に言えば、涙した。
一方、終盤は、駆け足気味に感じた。
しかし、それは序盤から中盤にかけての展開の内容が、実に濃厚であったという事の
裏返しでもあるだろう。
ラストの打ち切りエンド的な部分には、賛否あろうかと思える。
個人的にも、もう少し「スッキリする」展開を想像していた為、その分の落差があっ
た事は否定出来ない。
また、人形モチーフ作品の大きな見せ場でもある、“恋愛”という部分に触れている
パートでもあったが、その意味での結果が、やや宙ぶらりんになってしまった感があ
る。
この結末を肯定する方にしても、そういった部分に期待していたとすれば、落胆する
心理も理解いただけるだろう。
そういった面で、やはり終盤以降の弱さを感じもする作品ではあるが、それ以上に、
序盤から中盤にかけて、物語の引力が素晴らしい作品だった。
*音楽・・・
ボイスレス作品。
歌モノは無く、インストゥルメントなBGMのみで構成されている。
楽曲はSENTIVEからの物であり、流石のクオリティである。
曲数自体は、20曲強使用されているようだ。
バトルシーンの個性的な曲も、ただの痛快なバトルではなく、“生命”の闘争を感じ
させ、低いところから沸き上がってくるような感情の高揚や、相反するような切なさ
を表現するには、大変良くマッチした選曲だったように思える。
商業デビュー作である、ヨナキウグイスの『運命予報をお知らせします』に、強い期
待を抱かせる作品であったし、そうでなくとも、単体としてのこの作品に出会えたこ
とを、本当に喜ばしく思えるような、私的に名作と言える作品だった。