(GiveUp) 絵22+文14+音19+他04 Whirlpoolが作るものは、実に手堅い。あらゆる部分が親切で、穴らしき穴が見つからない。しかし、エロゲのヘビーユーザからしてみれば、そこに開いている見えない穴の大きさに、突っ込まずにはいられない。これこそ、ヘビーユーザのサガであろう。
映像面・・・
Whirlpool2ライン化の、今後を占う意味で重要な、今回の作品。
てんまそという人気原画家に対し、初の単独作品となった水鏡まみずという原画家。
同ブランドの『メリ☆クリ』『77 ~And, two stars meet again~』で、既にてんま
そとは違ったその画風に、一定の評価は得ていたとは思われるが、一枚看板を貼れる
程の人気を得ていたかについては疑問が残る。
今回の原画を見て、良くも悪くもてんまそ氏の影響を受けているなというのが、正直
な感想だ。
以前、氏の絵から感じていた『甘々』な雰囲気はやや成りを潜め、端整、清清しさと
いったようなシャープな雰囲気が特に印象的だった。
その辺りは、キャラクターの頭身や、顔の輪郭の変化に見て取れる。
水鏡まみずという原画の画力が向上したとも取れるが、Whirlpoolの色に染められた
とも取れる。
氏のネームバリューが、Whirlpoolの中であるが故に響くのか、或いは、そうでない
道もあるのか……それは、ご本人の問題であるので、軽々しくは口に出来ないが。
少なくとも、『メリ☆クリ』で始めに感じた、あの柔和でポップな画風が損なわれて
いくのなら、私としては、これ以上、追いかける意義を見出せない。
確かに、妹・さやかのCGには、なんとも言えない、氏の魅力も感じられるし、髪型
の曲線の上手さは、てんまそ氏にも見習って欲しいとすら思うのだが。
シナリオ・・・
いかに尾之上ファンを自認する私でも、これは流石に厳しい。
何せ、商品コンセプトがあまりにも不明瞭なのだ。
一見、このゲームを見れば、ありきたりな……
『ドタバタコメディ系ファンタジーADV』(通称『萌えゲー』)
だと判断できる。
だが、プレイしてみると、割合、早く訪れる『サービスシーン』のシチュエーション
の濃さから、「ある程度、抜きを意識しているのか?」と考えさせられるだろう。
(その実、そのエロが実用的であるかどうかは、この際、考えない)
そのシーンとは、開始、3時間程度で到達する、『ダブルフェラ×2シーン』のこと
であるのだが、では、その後、結ばれた二人の本番シーンに、それ以上のエロスがあ
ったのかと言われれば、首をひねらざるを得ない。
エッチシーンのコスパターンは多いものの、特にネコミミを活用しているわけでもな
く、プレイ内容もハードとは言いがたい。
また、いつも通りの甘々な尾之上節のエッチシーンである為、緊張感も無い。
シナリオ展開も、ドタバタ一色なら、そうしてしまった方が良かったのに、下手にキ
ャラクターの感情の部分を扱おうとした為に、
・おバカな舞台設定が付いて来れなかった。
・過剰なサービスシーンが、ストーリー部分に裂くべき時間を奪った。
という風に、根本的にコンセプト段階での躓きを感じさせる作りになっている。
また、いつものWhirlpoolに見られる、『ベタを意識的にやる』という部分が疎かだ
ったように感じる。
アイコン化した萌えは、それをそれとして理解して扱っていれば、ライトユーザには
判りやすく、ヘビーユーザには「飽きた」と言われながらも「王道だよね」と邪険に
されないのが、このブランドの持ち味だったのではないのか?
何かを表現したいのか、或いは、表現することを放棄しエンターテイメント性を突き
詰めるのか、Whirlpoolはなかなか優秀なブランドだと思うが、そういう商品のコン
セプト作りの部分が下手なブランドだと感じる。
音楽/声優・・・
野中"まさ"雄一、影家淳、田辺トシノ、大久保薫といった、ある層にはお馴染みなミ
ュージシャン達。
名前を知らなくても、アニメなど、多数の楽曲を提供しており、アニメ以外での楽曲
提供、アレンジ、スタジオミュージシャン等々、カタチを変えて、彼らの関わった音
楽を耳にした事が無い人はいないのでは無いかと思わせる面子。
(彼らのご活躍については、Wikipedia、Anison Generation、ご本人のHP等を参照し
ていただければと思う)
では、そんな彼らの音楽が、『エロゲー』の音楽として良い物であるかどうか。
確かに、テーマ曲のキャッチーさ、シーンにマッチし安定したBGM。どれをとって
も、減点すべき要素が見つからない。
だが、正直なところ、加点すべき部分も見つからない。
どんなエロゲにもマッチしそうな、汎用性のある音楽は、個性という部分を重要視す
る私にしてみれば、あまり高評価できないものであった。
声優陣であるが、超人気の面子を揃えた、というわけでもない。
概ね高評価と高い人気を得ているが、ややクセのある面子を揃えてきたという印象が
強い。
今回の声優陣をそのように評する要因としては、独特な声質の為でもあろうが、いま
一つ、代表作と呼べるものが見当たらないことが挙げられる。
攻略対象としては、2番手、3番手の、サブヒロイン級のキャスティングが多く、ヒ
ロイン名を冠した『○○ゲー』と呼ばれるような作品が思い浮かばない面子なのだ。
(昨今の萌えゲーの都合上、確固たる『メインヒロイン像』を一人のヒロインに持た
せるゲームというのは、減少しているようにも思えるが)
演技はといえば悪くないのだが……このキャスティングならではという部分が感じら
れない上、有栖川みや美と木村あやかは入れ替えたほうが良かったのではないかとま
で感じたのだから、あまり良い印象は無い。
Whirlpoolらしく、親切な作りではあるのだが、Whirlpoolらしさ故に自身の壁を打ち
破れない、或いは、打ち破ることを放棄したような、向上心に乏しいブランドの姿勢
には、あまり共感できない。
どうやら、AXLに引き続き、このブランドともお別れをすることになりそうではある
が、『77 ~And, two stars meet again~』での古清水 凛(声:青山ゆかり)のよ
うな、典型的な尾之上式ツンデレが見られる可能性は残るだけに、なかなか、切り捨
てられない、目の上のタンコブ的なブランドが、私にとってのWhirlpoolなのだ。