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えびさんのL.i.n.k. 奇妙な運命に繋がれた者達の、血と涙の謡(うた)。の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
L.i.n.k. 奇妙な運命に繋がれた者達の、血と涙の謡(うた)。
ブランド
SGPSoftware
得点
46
参照数
1697

一言コメント

絵12+文12+音17+他05 企画力があっても、再現力がないのなら、やらない方がいい。

長文感想

さて、前作は色々な面で問題が多く、ブランドとして新作をリリース出来る状態であ
るのかすら疑わしかった、SGPSoftwareの新作がめでたく(?)リリースされた。
この作品においても、広報などを見てみれば、発売のギリギリまで危ない橋を渡って
いたのではないかと、疑わざるをえない。
このブランドは、企画力はあっても再現力がないブランドであるように思われ、今回
の作品も、漂う雰囲気の良さに対し、中身の無い作品になっていないか、大いなる不
安を抱きつつ、プレイしていこうと思う。


この作品の構成は、ちょっと面白い複数視点が用いられている。
複数視点、ザッピングといったシステムは、かつて、ADV形式のエロゲで、様々な
実験が行われてきた。
それは、かつてのエロゲにはゲーム性があった。あるいは、ゲーム性で勝負せざるを
得なかった事が、背景としてある。
何分、当時は、マシンスペックや記録メディアの容量制限が厳しく、今のように奔放
な作品を作ることは困難であった。
その分、オリジナルのシステムを構築し、ユーザをあっと言わせる驚きに満ち溢れて
いた。

前作でも感じたことであるが、田代氏はやはり古き良き次代のゲームを作りたがって
いるように思われる。

本作で用いられた複数視点のシステムは、ある視点での選択肢が、他の視点でのシナ
リオにも遡及するというものだ。

例えば、AとBという人物が、麻雀をしたとする。

まず、A視点でプレイしてみると、BはAの字一色と大三元に振り込んで、ハコにさ
れてしまう。
次に、B視点でプレイしてみると、『發』を切るか、『赤五萬』を切るか、選択肢が
出てくる。ここで、『發』を切るとハコにされるのだが、『赤五萬』を切ると、あれ
よあれよという間に緑一色となり、逆にAをハコにしてしまう。
この後、A視点で再プレイしてみると、AはBの役満ラッシュで撃沈し、身包み剥が
されて路地裏へポイされてしまうのだ。

うむ、判りづらい。

ともかく、他の視点での行動が、相互に影響し合い、複雑な構造を持ったマルチアン
グルを形成しているのだ。
この試みは、なかなか興味深く感じる。

このようなパズル要素を、いかに上手く扱うかは、ADVゲームにおけるマルチアン
グルの最大の焦点と言えるかもしれない。

ただ、やはりこの手の仕掛けは、整合性の確保が難しく、労力の割りに得られる効果
が未知数であり、シナリオの破綻に繋がり易い。
また、フルボイスが当たり前になった、現在のエロゲにおいては、分岐パターンの増
加は、内部スタッフの努力では埋めきれない、コストの増加にも繋がるだろう。
その為、今回の場合は、エッチシーンのパターン強化であったり、次章でのバッドエ
ンドへのフラグ程度に扱われている。
その上、このフラグが非常に判り辛く、おそらく、三章を突破するのは、かなり難し
いだろう。私自身、どうやってクリアしたのか、よく判らない有様だ。

面白い試みであったとは思うし、ゲームクリエーターとしての、心意気は買いたい。
しかしながら、やはりこう思う。

企画力があっても、再現力がないのなら、やらない方がいい。

このブランドのやりたい事は面白いと思うのに、まさに『企画倒れ』になってしまう
現状を嘆かわしく思う。
そう思うのは、誰もが、既に『お手軽な電脳紙芝居』の魅力を知ってしまったからで
はない。
ただただ、クリエーターとしての力不足だと思わざるを得ない。

いかに面白い構成であっても、元になるシナリオが面白くなければ、お話にならない
のだ。
先に述べた麻雀の例のように、役満ばかりで駆け引きのない麻雀漫画を見て、誰が喜
ぶだろうか。
このようなシステムを組み立てるのならば、それこそ山を積み上げる段階からの、緻
密な駆け引きが必要なのだ。でなければ、そこから生まれてくるのは、『子供騙し』
でしかありえない。

力量不足もさることながら、ブランドの体力不足である為か、圧倒的にボリュームが
足りない。

映像に見所がないとは言わない。
作品の雰囲気とは、あまり相性が良くないと感じるほど、頭身の低いキャラクターだ
が、最低限のクオリティは維持している。
しかし、CG枚数57枚は少なすぎないのか。

シナリオに見所がないとは言わない。
設定が厨二と言われてしまいそうだが、特異なヒロイン像は、今のエロゲには無い魅
力を感じる。
他ヒロインのエッチシーンはあるが、ルートは一本道で、いくつか、シナリオ進行中
でのバッドエンドがある程度。
メインルートを辿れば、推定で6時間程度で読める。

音楽は比較的、よく出来ており、作品の雰囲気にマッチングしていたが、曲調の偏り
が目立ち、バトルシーンなどの演出で力不足を露呈している。
曲の数自体は問題ではないが、音楽は16曲、もしくは15曲+EDテーマ。
もしくはというのは、バグの為か、ギャラリーを使用できなかったから、項目数のみ
しか判らない。

明らかに、素材不足であり、それらをいかに切り貼りし、ユーザを魅せる演出をする
かというのは、考えてみれば古き良き時代のゲーム作り方に似ているかもしれない。
しかしながら、この完成度であれば、クリエーターの心意気の高さよりも、弱小ブラ
ンドの痛々しさをユーザが感じ取ってしまうだけに成ってしまったように思えてなら
ない。

であるから、改めて言いたい。

企画力があっても、再現力がないのなら、やらない方がいい。

過度な期待はしていなかった、むしろネタ的な意味で購入した動機が強い。そんな私
が言うのもおこがましいが、あまり、ユーザを失望させないで欲しい。




二章の黄蓮視点。
SEとしてシャワーの音があるんですが、いつまで経っても止まりません。
買い物に行こうと、マンションを出ても、商店街に行っても、
「シャーッ…ジョロロォ~」
と、鳴りっぱなしなのです。
結構、しんみりするシーンなのですが、流石に笑ってしまいました。
いや、バグとは判っていても、ねえ。デバッグやってるの?

どうでもいいけど、あと4秒早かったら気持ちよかったのにな~。
2009年09月20日20時20分24秒 えび [ネタバレ投票/投票]