絵20+文20+音23+他18 少女達の『心の距離』が近づいていく、その様は、友情のたすきリレー。肩肘張らずに、ピュアな気持ちで泣いてみませんか?
■2009/09/23 誤情報を訂正しました
言ってしまえば、完成度はそれほど高くありません。
けれど、絵にしても設定にしても、キャラクター造形が出来上がっていて、ストーリ
ーも変にこねくり回さずシンプルに仕上がっています。
すぐにでもアニメに出来てしまいそうな、キャッチーさがあるんですよね。
ちょっと古臭く感じられる部分が多いんですが、それらの古さの足並みが揃っている
ので、作品自体の違和感に繋がっていません。
作品自体の質は、まだ改善の余地は多分にあるのでしょうが、各要素の統率の取れ方
は、現行ブランドでもそうそう無いレベル。
新規ブランドとしては、十二分なレベルではないでしょうか。
名作では無いです。これは間違いない。
けれど、ピュアな気持ちでプレイすれば、きっと良作になると思います。
映像面・・・
原画の山本和枝。
Studio e.go!の原画として、言わずと知れた人でしょうが、振り返ってみれば、この
人の作品ってまともにプレイしたことがありませんでした。
そんな私からしても、なんか雰囲気変わったなーと思う、今回の作画。
イメージ的には、陸上選手ということで、人体構造に気を配ったのか、はたまた単純
に画風の変化なのか、少々、骨太になったというような印象。
時折、肢体や顔のパーツが、歪に膨張したり縮小したりして、バランスが悪くなる部
分も見受けられました。
立絵の荒さは、少々、残念なレベル。
塗りの方は、セル画塗りで、全体的に明るめ。
なんというか、ほんとにこのままアニメ化できちゃいそう。
背景は、出来不出来の差が激しく、もう少し、頑張ってほしかったかと。
ちょっとシステムが重く、野暮ったく感じましたが、機能は一揃えあります。
花びら等の細やかな動きを再現しようという結果、どうも、落ちモノ系のエフェクト
が重く、カクカクになってしまったのは残念。
シナリオ・・・
不幸な事故で、陸上選手としての選手生命を絶たれた主人公・南瀬高。
長い病院生活を終え、そのまま卒業してしまった彼には、まだまだ陸上への未練があ
りました。
それを知っていた、教師でもある父親の計らいにより、高は、母校・門港北学園の女
子陸上部のコーチに就任することになりました。
ですが、その母校は今年限りで廃校が決まっています。
誰も期待していない、誰も注目していない無名の陸上部。
廃校までの、せめてもの思い出にとばかりに、高に校長が持ちかけたのは、駅伝大会
への出場でした。
けれど、女子陸上部の部員は僅か3名。しかも、一人は幽霊部員。
高は部員集めに奔走します。
なんとか、幽霊部員を引き止めて、留学生を勧誘し…。そんな彼の姿を見せられて、
いても立ってもいられなくなった優しい妹も加えて、ようやく5人が揃います。
主人公・高と、ヒロイン達は『海峡駅伝』を目指し、今日も走り続けるのです。
シナリオについては、あまり言うべきことはありません。
主人公がヒロイン4人を攻略して行くというよりは、ヒロイン4人に攻略される主人
公という構図が当てはまります。
上記のあらすじが、共通ルートのほぼ全容なのですが、この後、主人公にヒロインが
告白をし、二人は結ばれる、といった展開が、四者四様に繰り広げられます。
といっても、ほとんど同じ流れで、魅せるシナリオではありません。
じゃあ、ヒロインの萌えで魅せるのかと言われても、割とベタなキャラばかりで、特
筆するような属性持ちというわけでもありません。
とても、とても、シンプルなのです。
昨今、シナリオゲーだろうが萌えゲーだろうが、設定やキャラをいじくり回し、それ
を個性として吹聴している傾向があるように思えてなりません。
それが悪い訳ではないですし、そういう個性がツボに嵌った時の溢れ出すパワーは、
十分に知っています。
ですが、そんな今だからこそ、こんなにもシンプルな作品は、逆に新鮮に思えたので
はないかと思うのです。
はっきり言って、このシナリオはズルイです。
これは、泣かせゲーです。
青春とかの青臭さや、陸上競技のストイックさや、恋敵同士のどろどろや、そんなの
は期待しない方がいいです。
ただ、純粋に安っぽい感動ドラマを、何を衒うこともなく見る気持ちだけあれば、き
っと楽しめます。
ヒロイン同士、あるいはヒロインと主人公。
登場人物たちの『距離(Distance)』が、徐々に縮まっていき、やがてゼロになる瞬間
を、素直に楽しもうじゃありませんか。
音楽/声優・・・
ヒロイン別テーマ+OP+挿入歌で10曲かな?
フルアルバム並みの歌唱曲が盛り込まれており、これ自体が、なかなか他に無いオリ
ジナリティでは無いかと思います。
曲調は、ドリカムやビーイング系(特にZARDとか)などの王道J-POP直系。
ややコアなところで、Polarisっぽいイントロなどもあったりします。
そんな訳で、90年代のJ-POP全盛期をモロに経験したクリエーター陣なのかも、とい
う印象。
そう言う私も、まあ、経験者な訳ですが、大衆化した音楽は飽きも早いので、早々に
他ジャンルへと興味は移ってしまい、当時は、こういう路線の楽曲は毛嫌いしていま
したね。
結局、今や懐メロでしかなく、その衰退具合を見てみれば、かつての流行はムーブメ
ントであって、カルチャーでは無かったということなのかもしれないのですが、だと
しても、今でも聞けば懐かしくなる音楽というのは、やはりキャッチーなメロディに
魅力があったのだと、そう思わされます。
というわけで、やや古臭くも感じてしまう曲ですが、そのメロディの耳馴染みの良さ
は、シナリオのシンプルさと、とても相性が良いのではないでしょうか。
曲調自体は、やっぱり今でもあまり好きと言えないジャンルですがねぇ。
ということで、そんな歌唱曲のインスト版など、BGMも似たり寄ったりな系統の曲
です。
上の通り、耳に引っかかりやすいメロディラインが、しっとりしたシーンや、泣きの
シーンでは都合が良く、まあ、考えてみるに、この作品にはこういう楽曲のチョイス
がベターなのだろうなー、と。
SEとして鈴虫の鳴声をかすかに入れるなど、気遣いの細やかさも評価したいです。
以下、声優陣。
早輝役のかわしまりのの演技は、ちょっと、キャラ絵のイメージとギャップを感じま
した。
しかしながら、今回ももちろん、気高くエロい『しまりの節』には、いつもながらお
世話になっております。
ことは役の民安ともえは、毎度お馴染みな感じながら、安定感は流石ですが、それ以
上ではなかったかと。
麗役の柚木かなめは、声質、演技ともに、なんというか良くも悪くも、エロゲ声優の
平均値といった印象。
特筆すべきは、オリオ役の鈴田美夜子。
日常会話のヘンテコな方言も味がありますし、シリアスシーンで聞かせる掠れた儚い
声も魅力的。
エッチシーンでは、かすかに嗚咽が混じったような…、ブレス交じりの擦り切れそう
な…、そんな、なんとも言えない色気のあるハイトーンの喘ぎ声が、背筋をゾクゾク
とさせてくれます。
『日常会話ではテンポ』『シリアスでは抑揚』『エッチでは揺らぎ』
というように、声を三様に使い分けても、声質がブレないというのは、いやいや、参
りました。
これはプレイした人にしか判りませんけど、このヒロインのルートの最後の「ネ」の
発音など、すごいセンスを感じるんですが。
あー、この人、陵辱ゲー出たら凄そうだなーとか思ったりも。
エンドロールなどを見てると、改めて思うのですが、他の新規ブランドとは、資本力
やらコネクションやら、クリエーターの経験値やら、もうあらゆる面で一歩上行って
るんだろーなとは思います。
なので、単純比較してしまうと、他の新規ブランドが、ちょっと可哀そうだとは思う
んですが、それでもね、やっぱり初産っていうのは、どのブランドも苦しいはずなん
です。そりゃー、想像もつかないほど、大変なんでしょう。
けど、だからこそ、そうやって愛情をいっぱい注がれて産まれてきた作品なのですか
ら、本来なら、心から祝福して向かえたいのです。
だから、今、この新しいブランドに言いたいのです。
――Silksoftさん、おめでとう。
そして、今、産まれてきたこの作品にお礼を言いたいのです。
――産まれてくれて、ありがとう。
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