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えびさんのひだまりバスケットの長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
ひだまりバスケット
ブランド
eufonie
得点
80
参照数
1784

一言コメント

絵24+文23+音23+他10 義妹なら「血が繋がっていても、いなくても……」、実妹なら「どうして血が繋がっているんだろう……」と、そう主人公に言わせるのが妹ゲーの常だ。だが、このゲームは「なんで、俺たちは血が繋がっていないんだ?」と、そう主人公に言わせた事に、私は価値を感じる。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

映像面・・・
同ブランドの前作である『カラフルアクアリウム』に比べると、ややパワーダウンし
た面が見受けられる。
それは、立絵での表情や一枚絵の崩れでも見て取れるし、彩色に関しても、前作程の
艶やかさを感じ取れなかった。演出面においても同様である。

あくまで前作と比較すれば、という話であり、決して他のブランドに劣っているわけ
ではない。むしろ、上等な部類だろう。

だが、立絵・一枚絵に関わらず、画面を拡縮できる仕様にしてきた部分からも、この
ブランドの映像への力の入れ様が伺えるのだから、もう一歩、上を目指して欲しかっ
たと、つい欲が出てしまった。


シナリオ・・・
序盤は少々眠たい部分があり、これは外れかとも思った。
体験版は未プレイであるが、おそらく、このゲームの本当においしい部分に達する前
で終わっているのではないだろうか。
私は、序盤と終盤では、このゲームに対するイメージがガラリと変わった。
私は、序盤と終盤では、かすがという妹に対するイメージがガラリと変わった。
私は、序盤と終盤では、主人公に対するイメージがガラリと変わった。

かすがは恐ろしい子である。
ある意味、『陽気なメンヘラ』とすら思ってしまうほどであり、とても子供じみた行
動の端々から、狂気に近い危うさと、焦燥に似た苛立ちを感じていた。
確かに彼女は子供じみているし、周囲を省みないその言動は、常に危うさと隣り合わ
せに思える。
けれど、どうだろう。
誰に否定されようとも、誰にも認められずとも、ただ一人の異性を強く愛す。
友人に否定されようとも、家族にも認められずとも、ひたすらに笑顔を絶やさず。
こんなにも不器用で、こんなにも強く、こんなにも孤独で、こんなにも愛くるしい。
そんな彼女が、泣いてしまわないように……。
そんな彼女が、笑顔でいられるように……。
彼女の頭を、そっと撫でて上げるのに、家族や恋人という資格は必要だろうか。
その愛情に、理由が必要だろうか。

主人公は八方美人のヘタレである。
どこにでもいそうな普通の学生で、まだまだ未熟な子供であり、部活でも一度の怪我
で逃げを打ち、平凡な道を無意識に選んで生きている。
誰が見ても、その生き様はかっこよくないだろう。
誰かと恋人同士になった後も、未熟さゆえ、弱さゆえの過ちを犯し、苦悩するハメに
陥る。
けれど、どうだろう。
彼がその失敗を取り返した方法は、突飛なアイデアを持ち出すことでもなく、誰かの
力に頼るでもなく、全力で戦うことでもなく、自身の成長を促すことでもない。
ただ真摯に、『今の気持ち』を愛情として伝えることだったのではないだろうか。
きっと、それは単純で、だからこそ難しいことではないだろうか。
私は、この主人公の生き様を『かっこいい』と思う。

かすが以外のヒロインも、それぞれに抱えた問題を解きほぐしていく展開が用意され
ているわけだが、ここでもかすがという存在をぞんざいに扱っていない。
そして、主人公はそれぞれに『かっこいい』生き様を見せてくれる。

これだ! 尾之上咲太の描く、『ヘタレだけどかっこいい主人公』を堪能でき、私と
しては大満足なのである。

メロンのような、高価なフルーツは入っていない。
洒落たメッセージカードひとつ入っていない。
生産農家の浅井さんの写真も入っていない。
けれど、ひだまりの暖かさにも似た、優しい人々を詰め込んだ、このバスケットは、
貰ってうれしい贈り物だ。


音楽/声優・・・
さて、OP、ED共、テーマ曲はfripSideによる。
メインヒロインかすがの初見からすれば、どうも「少々、大人しめでは?」と思って
しまうOP曲も、プレイし終わってみれば、妙にしっくりくる曲調であったように思え
る。
一方、ピアノシンセの小気味いいイントロから始まるED曲は、いかにもfripSideの音
であり、いかにも八木沼氏らしい曲だ。
だが、個人的に、fripSide第一期のボーカリストnaoに比べれば、どうにも南條愛乃
のボーカルには、際立った魅力を感じないのだが。

BGMはPeak A Soul+。となれば、もうこれは安パイ……と思ったのだが、やや物足り
ない。
一曲で良かったのだが、『泣けるピアノ曲』が欲しかった。
ピアノ曲はあるにはあるのだが、いまいち感情が盛り上がってこない。
割と幅広い曲調を持つBGM群なのだが、日常の曲同士でのメリハリは少なく、泣き所
の曲同士でのメリハリも少なく、『この一曲!』というものが無かった。
Peak A Soul+に楽曲を依頼する場合は、歌モノも同チームで作ってもらい、ピアノイ
ンスト版などをBGMに取り込んだ方が、確実に感動を誘えるだろう。
ありふれたやり口だが、本作のような『ちょっぴり、じんわり』なゲームとしては、
BGMには冒険よりも堅実さを求めたい。

声優陣であるが、仲神かすが役の佐本二厘が好演をしている。
プレイ当初は、割とイラつくタイプのヒロインだけに、この声優のハイトーンボイス
にすら苛立ったりもしたが、かすがの快活さと強さを、よく表現しており、ベストな
キャスティングであったように思う。
湊深美役は木村あやか。きっちりと攻略できるヒロインとしては、ややご無沙汰気味
であったが、相変わらずブレスがエロ可愛く、また、深美の天然萌えっ子ぶりを表現
することに、如何なく力を発揮してくれた。

余談であるが、深美はメインと呼んでも差し支えないポジションなのだが、この作
品のメインヒロインはかすがであるわけだ。
そうすると、深美はサブヒロインという見方ができるのだが……木村あやかがメイン
ヒロインの作品って、すごく少ないのでは? と、なんとなく思った。



前作リリースから、かなりのスパンを要した新作となったが、総合的に評価すれば、
前作を上回った出来であったと感じる。
一方で、やはり時間を置き過ぎた為か、前作のプチヒットの威光はどこへやら、とい
った状態で、ほぼ、新規ブランド扱いなのか、批評空間においても、いまひとつデー
タ数が伸びていない。
しかしながら、体験版だけをプレイして見限ってしまうには惜しい作品であり、今期
リリースされた尾之上咲太シナリオのゲームとしては、格別のシナリオであった。