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えびさんのPYGMALION -the dark romance-の長文感想

ユーザー
えび
ゲーム
PYGMALION -the dark romance-
ブランド
STRONGER
得点
74
参照数
3320

一言コメント

絵18+文20+音20+他16 製作精度の低いパーツが、組み上がった製品の質を貶める。それは、体験版という粗組みの段階から、明白であった。しかしながら、この稀有な着想には、プレイ後となった、今でも、心引かれる思いである。

長文感想

発売から二週間。ここへの投稿1件。2chのレスが100未満。
うーん、まったく、売れていないようですね、この作品。

映像面・・・
立絵をアニメーションで表現した作品は、多いとは言えませんし、希少でしょう。意
外にも、滑らかな動きで、演出されており好印象を受けました。
しかし、動くからこそ、その動きのぎこちなさが、逆に気になります。まるで『マリ
オネット』のような動きの歪さ。
その歪さは、ある意味で作品のイメージと符合するものの、その偶然の符合が、作品
の仕掛けであるはずもありません。演出力不足でしょう。
アニメーションを活用するのは良いのですが、もう一歩、拘りを見せて欲しいもので
す。
2009/08/12 ちょっと追記 ---------------------------------------------------
うーん、やはり狙ってぎこちなくしているようにも見えますね。
最初のロード画面やタイトルバックの背景が、『幕』であるように、人形劇を模した
演出であるような気もします。
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一枚絵に関しては、水準を下回る出来。エロさも可愛さも、すべてが置き去りにされ
て、
――ただ裸の女がそこに転がっている
そんな印象すら受けました。

拘りを感じるシステムデザイン。そのセンスは、賛否別れるところでしょうが、オリ
ジナリティは評価すべきファクターでしょう。ただ、使い勝手の良さを犠牲にしてい
る面もあり、好意的に受け取ることが出来ないという意見にも頷けるところがありま
す。


シナリオ・・・
タイトルの通り、この作品は『ダークロマンス』であり、暗く悲しい恋の物語です。
主人公は、新進気鋭の人形作家ヨハン。
彼には、天真爛漫で献身的な、ジュリエッタという婚約者がいました。
序列を重んじる芸術界にあって、若いヨハンは日陰の存在でした。
しかし、「捨てる神あれば……」という、世の理どおり、彼の作品を高く評価する事
業家ダリオの計らいにより、ヨハンはいよいよ表舞台へと躍り出そうとします。
そんな矢先、最愛のジュリエッタが病に倒れ、終には帰らぬ人となります。
ヨハンは、創作に掛ける気概を失ってしまいました。
そして、気をやられてしまったのでしょうか、彼はジュリエッタを模した人形を作り
出し、物言わぬ人形に語りかるのです。
そして願うのです。誰か、この人形に魂を与えてくれと。
その声に、悪魔が答えます。
――お前の大切な物を差し出せ、と。

さて、この作品はタイトルからも分かるとおり、ギリシャ神話の一節をモチーフとし
ています。
主人公ヨハンは、死者を移し身の中に蘇らせようとします。
同様のアイデア自体は、珍しいものではありません。
ファンタジーに目を向ければ、ホムンクルス。SFに目を向ければ、ロボットやアン
ドロイド、クローンなど。広い視野を持ってすれば、『鉄腕アトム』も、また、この
着想が設定に用いられていると言えます。
そんな選択肢の中から、この作品が、あえて『人形』をモチーフに据えたのは、昨今
の時勢でしょうか。ドールや球体関節人形と言ったほうが、良いのでしょうか……。
そういった作品が、アートからホビーへ裾野を広げているという背景が、影響してい
るように感じられます。
そのような時勢の背景を取り払ったとしても、確かに『人形』というモチーフには、
強烈な魅力があります。
ビスクドールや日本人形。それらが抱かせるのは、美しさに対する感嘆だけではあり
ません、寧ろ、私にとっては『恐怖』が先立つのです。
であればこそ、他のモチーフとは比較するまでもない程、暗く沈んだストーリーと親
和性があるのではないでしょうか。
また、悪魔との契約という発想にも、ある種の様式美を感じます。

この作品の最大の魅力は、その見事なモチーフの選別にこそありました。

更に、この作品は、規格外な構成が成されています。
ヒロインを攻略しようと、我々ユーザが足掻いてみても、その先にはバッドエンドが
待っているのです。
そのバッドエンドの鎖を断ち切る事により、一応のハッピーエンドも用意されていま
す。ところが、そのあまりにも呆気ない表現に、プレイした数少ないユーザの誰もが
首を捻った事でしょう。
エロゲの大半は、ハッピーエンドに向かってシナリオが進み、その派生としてのバッ
ドエンドが用意されています。
しかし、この作品はその間逆を行きます。全てのシナリオのコンパスは、バッドエン
ドに指針を向けているのです。

この様な異質さが、私の心を鷲掴みにした本作ですが、システム周りの使い辛さや、
フラグの分かり辛さが仇となり、シナリオのテンポを著しく損ねています。更に言え
ば、シナリオ自体にも、もう一癖、欲しいところでした。


音楽/声優・・・
BGMの質感も、作品にマッチしています。変におどけた曲などなく、真面目に作ら
れたBGMという印象です。ただ、そこに『遊び』がない分、面白みもないというの
は、偽らざる本音です。
もう一歩、作品の本質――狂気や違和感――を演出する事が出来れば、尚、良かった
のではないでしょうか。
OP・ED曲は、『個性的』です。ですが、それは先駆者だけに使える褒め言葉であ
って、追従者には『二番煎じ』というレッテルが貼られるのが、世の常でしょう。
この作品の曲も、似ているのです。そして、その先駆者が、現在進行形で、唯一無二
な活躍をしているのですから、『二番煎じ』という印象は拭えません。
声優は、意外にも豪華。更に、その組み合わせも幅広く、また、そのキャスティング
も奇抜です。まさに意外性の布陣。高評価。


さて、何よりも残念なのは、やはりシステムの不味さでしょう。
私的に、評価の項目にシステムは採用していません。これは、確実に新旧作の得点差
の開きを助長する上に、ユーザ側の環境による影響が大きいからです。ですが、この
作品のように、シナリオのテンポを悪くしたり、周回する意欲を妨げる要素は、可能
な限り取り除いて欲しいものです。

■ムービーのスキップが出来ない → 特に、EDロールは辛い
■ロードアイコンが無い → タイトルへ戻ってからロードは辛い
■アイコンの同時押しが可能というバグ → 誤操作の元

その他、誤字脱字がかなり散見されます。
9割方、ギャラリーは埋まったんですが、まだ、フルコンプに至りません。

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