トリック、ミステリー部分も面白いといえば面白いのだが、終わってみると各キャラへの愛着こそが本作の肝だったのだと感じた。トリックはあくまでも味付けと見るべきだろう。そしてそれらを駆使して最初から最後まで飽きさせず楽しませてプレイ出来る密度は他では中々味わえないのだろう。もう飽和状態になっていると思われるこのジャンルにおいてもまだ過去の作品群を凌ぐこのような思い出に残るような作品が出てくるのは驚き。エロ水準も高めなのも見逃せない。久しぶりに90点台付けちゃう。
周回遅れでアメイジンググレイスをプレイしてから
続いてこちらのさくらの雲も
偶然にもスーパーで買ってきてたシベリアを食べつつプレイ。
アメイジンググレイスが売れたことから
予算がアップしたのだろう。
登場人物の増加など大幅にパワーアップした印象。
ヒロインはいずれも魅力的で物語に感情移入できるし
サブ登場人物たちとの会話も楽しく退屈な章は全く無かった。
アウトローから刑事、憲兵まで
善悪入り混じった配役となっている一方で
各人の内面はいずれも善悪どちらか一方だけではない
裏表のあるキャラクタとなっているようだ。
これについては人だけでなく
世界について、
大正時代、未来時代いずれも
良いところ悪いところもあり
表裏一体であり些細な歴史の出来事でそれが裏返ってしまうという
仕掛けにも繋がっている。
さくらの樹の下に死体が云々のくだりで
物語の最初にそれを宣言している。
主人公と加藤大尉の関係もそうなのだろう。
雪葉のエンディングでの言葉のとおり
200年後の未来も決して平和ではないのかもしれない、とあるし
加藤大尉の性格にもそれが現れていると見るべきだろうか。
主人公も裏の面があったのだが
両者の最大の違いは
仲間達との信頼関係があるかどうか、ということで
それによって歩む道が異なってしまったとなったわけである。
(それにしても今の時代に帝都大戦ネタが出てくるとは思わなかった。)
ナリゴンも二面性という点では同様で
最初の傲慢な姿勢とは裏腹に
メリッサ√での手の込んだ仕掛け、舞台設計など
単なる成金ではないことを伺わせる。
エンディングでも今までの行為を後悔している節があり
決して単なる小賢しい悪役ではなかったことが分かる。
所長の台詞にあった「人間とはそう単純な物では無いのだよ」というのを
一番よく表しているキャラクタではないだろうか。
ミステリーものとしてみると突っ込みどころは見られるし
暗号類は別に解けなくても結論は予想がつくものも多い。
その辺りのトリックは本当に隠したいものを
カモフラージュするための囮、釣り餌なのだろう。
幽霊の章で出てくる八百屋の絵のように
嘘八百といいたいのかもしれない。
所長の師匠が言うように本当に大切なことは目に見えないのだ。
メリッサ√ではご丁寧に各人と客室対応表まで
作成されているがあまり意味も無かったし
ESPカードも引っかけであった。
見た目で分かる伏線っぽいものは殆ど引っかけだったのだ。
各ヒロインのストーリーを追って感想
・遠子
共通部分第4章の最後を考えると嫌でも怪盗との関係を疑うことになる。
案外怪盗の正体は普通だったのだが
最初は怪盗の正体が遠子かメリッサだったり、なんて思っていたりして。
バイオリンの盗難犯人もすぐに遠子ということは分かってしまうし。
とはいえ遠子が怪盗を殺害することによって
どう歪みになっていくのかは良く分からなかった。
探偵事務所に来る依頼は殆どそんな感じであるけど、、、
本作は多くの人物が善悪の表裏一体の性質を持っており
それが全体を通してのテーマとなっているようだ。
お嬢様である遠子も浮世離れしたところがあり
一歩間違えれば悪いこととは思わずに殺人者になってしまうということなのだろう。
遠子√では銀座でデートするなどして
この時代の良い雰囲気を感じさせる。
明朗で朗らかな淑女ヒロインで
探偵事務所のお得意様として支えてくれるし
序盤では所長と並んで重要人物。
そして遠子と恋愛関係になったのなら未来へ帰るのが惜しくなるぐらいな存在でもある。
所長シナリオでの主人公ネタバレについては
各ヒロインへの愛着も心理的伏線としているのだろう。
トップバッターヒロインとしてはその役割は充分に果たしてると思う。
ただ後半段々と登場回数が減ってくるのは残念。
メインヒロインが所長となるので仕方ない部分もあるのだろうけど
・蓮
年下?後輩っぽいヒロイン。
バームクーヘン作成、モノポール、ランドルフのどれにも
それほど関わってこないので
ストーリー的には影の薄い存在ではある。
が、着替えを覗くと、、、
小娘なのに中々育ってるやんけHEHEHE、、、となってしまう。
ここでアメイジンググレイスと比べると
本作はエロ度がぱわーあっぷしていることに気付く。
魔人といえば加藤大尉であるが
本当の(エロ)魔人は蓮だったのだ。
最後結納までしてしまうあたり
やはり蓮についても親愛度が最高潮まで高まってしまうのである。
そしてやはり上記の遠子同様、心理的伏線になっているのだろう。
しかしながらドS女王様のキャラクタはあまり似合ってなかったような、、、
あとストーリーと蓮との絡みは希薄ではあるものの
主人公の左腕の伏線が段々と見えてくる√でもあります。
また連との会話でも色々と伏線がチラホラ。
そして遠子同様に後半影が薄くなってしまうヒロインでもある。
Hしちゃって次のシナリオに進んで
ヒロインを使い捨てみたいにはしたくはないのですけどね、本当は、、、
(そんなこと言ったら他のエロゲが出来なくなりますが)
遠子についてもそうだが
アメイジンググレイスみたいにアフターシナリオが欲しいところです、はい。
本筋ではないですがランドルフのキャラクタは良いですね。
万斎のご飯取ってくるあたりが秀逸。
ただ何故ニホンオオカミとは思わなれなかったのかが不思議。
万斎がタイムマシンを作りたい理由もここで分かります。
エンディング後に不老不死の研究を始めたとのことだが
やはり飼っていた犬の死が原因だったのだろう。
・メリッサ
蓮√とは違っていきなり探偵もの連続殺人事件シナリオになるが
やっとミステリーっぽくなってきたぞ、と思う箇所でもある。
女王蓮とは違って逆に尽くしてくれるメイドヒロイン。
ミステリーについては一見それっぽくて面白いのだが
ここは突っ込みどころが多いと感じた。
カヤノが果たしていったい誰なのか?というのが
キーになっているが
候補としては日本人で10代の女性か、または女性と間違われそうな男性。
日本人というのが引っかけのつもりなのだろうが
どちらかというと自分が引っかかったのは髪の色である。
カヤノの子供時代にピンク色の髪というのはさすがに外国の子ではないかと疑うと思うのだ。
過去のカヤノのグラフィックはセピア色にしているが明らかに黒髪ではない。
大正時代にピンク色の髪の毛の人なんて不自然すぎていないはずだが
グラフィックとしてはメリッサはピンクの髪。
染めてるというのも変な話だ。
ようするにメリッサの髪の毛は大正時代の人が見ても日本人として違和感がないということになってる。
ゲーム故のグラフィックの不自然さを逆手に取ったと解釈出来なくも無いが
さすがにこれはトリックとしては反則ではなかろうか。
また殺人犯にしても
柳楽は銃を持っているので犯人候補としては挙がったが
10年前に手記を書いた「余」としては若すぎると思ったためやはり途中で犯人候補から外していた。
これもグラフィックからまだ20代に見えるという思い込みからだろう。
所長も呼び捨てにしているので
まだ20代前半ではないかと思っていた。
あと幾らニコチンが毒であって濃縮したとしても
ペン先で注入した程度で
あの短時間のうちに人が死ぬはずはない。
集められたメンバーにはコイツいらないんじゃね?みたいのもいたし、
逆に主人公の知り合い以外にもカヤノ候補はいてもおかしくないんではないか?とか
その辺り突っ込みどころは多かったと感じた。
しかし密閉空間列車連続殺人事件としての雰囲気は充分であり
本作の最大の山場。
推理物というのはクイズではなくなぞなぞである。
知っている知識を答えるのではなく
想像を働かせて幾つかの事実を繋げていく。
その一方で出題者次第ではご都合主義で変な、
またはズルといえるような回答もありうるのだ。
本来ならば色んな可能性、それこそ桜の枝の分岐数どころではない
多くの可能性を差し込んで考える必要があるが
作品内で提示される手がかりだけでは
回答を確定させるのは元々無理があるのだ。
だからあまりトリックを解くのに躍起になるのも考え物だと思う。
どちらかというと面白いと思ったのは所長のハッタリ推理の箇所だった。
マイに矛先を向けた時に
ああ、狙いがあって適当に言ってるなこれは、、と。
そして解決後は本作にどっぷり浸かって余韻を残しつつ
ついに最終章へ、、、
・所長
この所長まんま探偵の衣装なのでエロゲなどにありがちな
可愛らしさを前面に押し出すような見た目ではないんですよね。
でもソファで共に眠る日々を過ごしたり
パンを半分こしたり
お金に目がなかったり、ハッタリ推理をかましたりして
次第にこの上ない愛着を感じていくようになっていった。
ただ単純な可愛いヒロイン、というよりも
パートナーとしてのヒロイン。
事件捜査の時は常に一緒、寝食、苦楽を共にするという、まさに理想と思える間柄。
二人一緒でない時は確かに寂しさ、心細さを感じるようになってしまうのだ。
そして大正時代で所長と共に生きていくのもアリなんでは無いだろうか、と
思うようになっていくのであるが
恐らくそこが本作の最大の心理的伏線、というか引っかけとなっているのだろう。
主人公については序盤からも
軍隊にでもいたのか?と思わせる箇所
本当に自分たちが知っている未来から来たのか?とか
明らかに片方の腕が義手か何か硬いものだよね?とか
色々気付くのではあるが
それらがテロ事件の防止、未来へ帰りたくないという心情には中々結びつかなかった。
やはりどちらかというと所長を初めとした各ヒロイン、大正時代に愛着を感じてしまっていて
あえて未来へ帰る必要がない、と思う程度であったと思う。
逆に言うと各ヒロインの魅力がないと
本作のトリックは成り立たなかったかもしれない。
そしてエンディングでは未来へ帰りたくない輩が続出したであろう。
所長との最後の会話と感傷的なカウントダウン
エロゲ界屈指の名場面だと思う。
しかしながら
所長は何故日本に来たのか、とか本人の背景を掘り下げる箇所があまりなかったのがちょっと残念と思えるが
描写不足というほどではないし、やたらに台詞で説明されるよりも
普段の言動である程度察して欲しいということかもしれない。
とはいえ外人らしさはかなり希薄。
喋ってる台詞としてはほぼ日本人と言ってもよい。
キャラクタ的にはアメイジンググレイスの
キリエとコトハを足し合わせて2で割った感じかな。
最後の決着については
拳銃が出てきた時点で万斎を殺るつもりなのか、とか少し思ったのだが
アララギが小夜子さんの手紙を万斎に渡した時点で
察してしまい笑ってしまった。
最後の最後で酷い決着のつけ方だなw、と。
<その他>
・主人公について・・・
電報での名前がカズミツカサとTKAZUMI0420の二通りある。
これについて
主人公カズミツカサは最初今自分たちの知る令和未来から大正時代へ送られてきたが
歪みによって未来が変化してしまい
枝を渡ったときはKTSUKASA0420として桜雲未来から来たのでは、と考えたがどうなのだろう。
最終的に歪みを正して令和未来へ帰れたというのなら
そちらのほうが自然と思うのだが。
そう考えると本作開始時にはすでに歪みが起こっていたと考えるべきだろうか。
ただ最初の万引き婦人の箇所だけは0420ではないほうかもしれない。
探偵事務所に帰った後、遠子と手を洗った、とあるので
この時点では義手では無い肉体の手であった可能性がある。
まさか手袋を外さず手を洗ったりしないだろうし。
・アララギについて
シュレディンガーのマタタビ実験では
蘭丸が被検体となっていた。
それを元に万斎はタイムマシンの理論を考え出していく。
ということはタイムマシンアララギ(蘭)の名前の由来は蘭丸。
メリッサ√の列車の中でも仲良くしてましたね。
・ちよ
結構可愛らしくて気になる存在ではあったが
あまり登場回数は多くないし物語での役割としては微妙な印象を受けた。
・何のために偽札を作ったのだろうか。
インフレを起こすためだろうか?
偽札の蔓延は決して国の未来には良い方向へは向かないと思うのだが、、、
印刷コストも馬鹿に出来ないはずだし。
歪みは確かに広がるだろうけどね。
或いは未来へ飛んだときのための貯蓄のつもりだろうか。
・何故最後各人にお別れの挨拶をしたときに中森氏と真霧氏に会わなかったのだろう?
・加藤大尉が震災時に唱えていた真言の意味は、、
不死の甘露より生起した者よ。
帰命したてまつる。あまねき諸仏に。噛砕せよ。粉砕せよ。破壊せよ。
・・・自分がやったと白状してるようなものですな。