自分探しの旅への誘い。
キラキラのアップデート版といった印象。
もう今はすでにメジャーデビューしたからといって成功とは言えないし
そもそもインディーズなんていう表現も古臭い。
ジャンルに沿った特色のあるレーベルに所属して
世界に自分たちを発信したほうが成功といえる。
出てくる用語やバンド名とかは全体的に古い。
ロックンロールなんて死語に近い。
ギターで本当に重要なのはピッキングする右手だぜ?
・・・・・とか、色々心のなかでツッコミはした。
しかしだからといって本作がつまらないかと言われたら
全くそんなことはない。
寧ろ自分はバンド関係の話がずっと続くせいか
キラキラよりものめり込めた。
キラキラはロードムービー的な側面もあって
旅していくこと自体が楽しかったり
個別シナリオはあまり音楽とは関係なかったりしてたような気がする。
より物語がバンド活動に完全フォーカスしていて
なおかつテーマも分かりやすくストレートな表現になっていると思った。
自分探しの旅というテーマは音楽の物語と相性も良いと思う。
めぐりんシナリオでは年取った師匠が死に際に自分を取り戻し、
弥子シナリオでは夜間学校の学生たちが自分たちの存在を主張するためにライブをする。
シナリオの分岐は大まかに
学校にきちんと通い社会のレールに乗っていく方向性、
自分のやりたいこと、すなわち音楽、バンドに力を注いでいく方向性に分かれている。
でもどのシナリオを選んでも
やっぱり自分のアイデンティティの探求は避けられないということなのだろう。
例え最後の死に際だとしても。
三日月シナリオがバンドを成功させるための
現在進行系の真正面のシナリオなのだろう。
とはいえ自分のアイデンティティを追求するために
他者との関わりを断っていくと
独りよがり扱いになりバッドエンドとなるのだけど。
(音楽、バンド活動を深く追求しつつ、でもやっぱり楽しまないとね、といった選択肢を選んでいくと三日月シナリオに入るようだ)
一方でこの三日月シナリオは
三日月の可愛らしさを存分に堪能する話でもある。
変に他のシナリオより長い、寄り道が多い、でも変に端折ってるという気もするのはそういうことだろう。
三日月がくっつくと
ひたすらベタベタする。嫉妬深くもあるようだ。
これは過去のエロゲでもよくあった
依存型ヒロインで自己を確立するにつれ
適度な距離に落ち着く、という典型的なパターンだと思う。
なので新鮮味はないけど
最近この手のヒロインがあまりいないような気がして
寂しかった自分にはとてもフィットした。
ただでさえ強烈な個性の金田の登場が多く
ヒロインの存在感を食いがちな本作。
ここでヒロイン寄りの展開にしてバランスを取っておいて正解だと思う。
そしてじゃあ主人公についてはどうだろう。
三日月シナリオでは最初、Dr.Flowerらしさを封印されるリスクを選びながらも
成功していく。
すなわち自己のアイデンティティを捨てていく、という道を選ぶことになる。
しかしそれでも
最後には
「今まで馨さんはロボットみたいって言いまくってたけど本当は違うっていうのはわかっていたんです」という言葉とともに主人公は救われたことになる。
そういえばキラキラのきらりシナリオの最後の最後の選択肢、
あれは受動的に生きていくか能動的に生きていくかという
感じで提示される。
途中までのシナリオでは能動的に行動していくのが良い、みたいな展開であったが
この最後で引っ掛け問題のごとく逆の回答を示すというのを思い出した。
その結果鹿之介はリーマンになってきらりと共に生きていくという
表面的には明るいが微かにビターな感触を残して終わっていった。
今作も同様に
選択した内容はともかく
結果的にはグッドエンドとなっていく。
三日月との婚約は解消したのは
三日月が音楽の神として生きていくということでしょう。
そもそも彼女の名前、三日月=月の神アルテミスのイメージで
アルテミスの兄(是清)はアポロン=音楽の神だったのでは・・・
他に・・・
・金田は助演男優賞もの。明らかにふざけた奴だが最後まで憎めないコミカル担当キャラ。
そして本作は彼の成長物語でもあるような気がする。
・ロックとは暴力性、反体制だけでなく新しい価値観を取り入れていく側面もあったはず。
そういった意味で古典的なロックの概念に固執してしまったために
落ちぶれて破滅していくといったバッドエンドもあって良いような気もする。
現在音楽シーンが衰退しているのは
多様化が進んだが、いくらか新しい音楽出てきても新鮮味がなくブームになりきれないというのがあると思う。
過去の凝り固まった感覚を新しく塗り替える音楽が出てきても
情報が多すぎて見抜けない、
あるいは他の実は既存の音楽だったとしても被ってたことがよく分からないのかもしれない。
だから澄シナリオに入ったときに出てきたような
アバンギャルド系の連中もある程度は必要なのだ。
・全体的にキラキラよりも寓話的な表現は少なく分かりやすくストレート。
なおかつ過去の瀬戸口氏の作品にあったようながキツ目の表現は抑え気味。
初心者にもおすすめ。
自分としても2019年度プレイした中でもトップレベルだったと感じた。
・本作のタイトル、Musicusは「音楽家たち」というふうに公式には書いてあったが
最後までプレイしてみると実際には音楽の神という意味のほうがしっくりきそう。
・ノベル形式そのものはいいのだが全編それなのでヒロインが隠れすぎなのは
現在のゲームの水準としてはどうなのだろう。絵師もすめらぎ先生なのに。
瀬戸口氏のテキストが前面に出てくるのは自分には嬉しいが
それ以外のところで不満がある人は多いかもしれない。