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うるぽんさんのるいは智を呼ぶの長文感想

ユーザー
うるぽん
ゲーム
るいは智を呼ぶ
ブランド
暁WORKS
得点
90
参照数
198

一言コメント

ゆとり八犬伝。決して悪い意味では無く、昔からの道徳的観念が通用しなくなった現代社会を藻掻きながらも進んでいく感じ。そして8人の仲間と導き出した答えは大団円ではないビターなものだったが、そこへ至るまでの道のりは決して悪い物では無く引き込まれる内容。ただアンチヒーローものでもある。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

里見八犬伝をある程度元ネタにしているようだが
八犬伝をなぞっているような作品ではなかった。
むしろその逆であるところが面白いところ。
呪いのせいもあるが
嘘をつき続けなければならかったり、
親子の絆なんぞドブ川へかなぐり捨てるようなヒロインばかりである。
常識で考えれば花鶏なんぞ
失礼極まりないヤツだし。
八犬伝では親の仇の化け猫を退治する話はあるが
本作では逆に茜子が猫と大の仲良しなんてのもある。ネコと和解せよ。
儒教を元にした仁だか考、礼とは
明らかに意図的に反対方向へ向かわせた
もっと言うと反逆しているような登場人物達である。
現代ではもう昔とは違って
利益にならない関係は親子といえど薄くなっていく、崩壊していく。
そんな、彼らの言う呪われた世の中で
なんとか生きていこうとする姿を描いた本作にはシンパシーを感じるが
逆にそこが分からないと本作の意図は分かりかねるのかもしれない。

仲間同士での絆がクローズアップされがちであるが
仲間以外の人物、組織、世界との断絶もかなり感じさせる。
昔からの慣習、特に八犬伝の八つの珠の元ネタ、儒教的な価値観について
もう今の世の中には適応出来ないのですよ、と言わんばかりの
今時の人生観を持つ主人公達。
今を平穏に生きていたいと願う彼ら。
でもそれを呪われた世界が許さない。
だから団結が必要となる。
そしてその団結する相手は家なし子であっても、レズであっても、生えてないロリであっても、委員長であっても、変人であっても、裏社会の人間であっても、訳あり殺人者であっても構わない。
そんな凸凹激しい8人が結託していき、時には反目しあう様を
本作ではとても魅力的に描いている。
共通部では全然仲良しでは無いどころか仲は険悪。
そりゃこんな連中が集まって普通上手くいくはずが無い。
礼だか忠だかはどこかマリアナ海溝にでも落としてきてしまったような人達である。
それでもパルクールレースや呪いを解くために
利害一致でなんとか同盟として集まって
次第に仲良くなっていくが
やはり各人呪いの秘密があるせいで
どこかまだ不信感、緊張感が出ており
かなり最後の方まで物語のテンションを維持できているのは関心するところ。
彼ら8人の敵となる呪い。
禁忌となる行動そのものも危険であるが
本来の目的は8人が一丸となって纏まり、仲間としての絆を結ぶことを防ぐことなのだろう。

また本作は儒教的な価値観に基づいた
勧善懲悪的価値観とも相反しているようだ。
所々で出てくる「そもそも正義とはなんなのか、もう分からない」とった台詞。
無論現代社会で崩壊した善悪の価値観と絡めているのだろうし
最後の恵の命と引き換えに呪いを解くというのも
決して正義ではありえない解決の仕方だった。
そういえば本作では主人公達による仇討ちといった行動は取られていなかったはず。
また茜子√の最後、親なんてもう二度と顔を見せてくれるなFワードの台詞も、そういうことなんだろう。

最初のほうは理由はあるというものの
すごい行き当たりばったり、疑問に思う行動など多いし
ことあるごとにレズネタを突っ込む、
アホ、毒舌、良く分からないネタを唐突に挟んできて
話が中々進まない。
イエンフェイが本作をプレイしたら
序盤で間違いなくディスクを叩き割っているだろう。
いいからおまえは喋るな!、って。
が、それでも彼らなりのコミュニケーションの取り方であり
孤独であったが故にまだ慣れない人間を相手にしていた、ということの現れだと思う。
だからここについては批判するような箇所ではなく
生暖かく見守るべきなのだろう。
自分も小まめに区切りながら序盤は乗り切った感じでしたが。

以下各ヒロイン感想

・るい
題名からメインヒロインかと思っていたがトップバッターヒロインだった。
情に厚いように思えるが
餌をくれる飼い主には尻尾フリフリ、ある意味犬っぽい。たまに犬化してるし。
でも変態姉御肌の花鶏、妹分のこよりとは違い頼れる友といった感じ。
秘密の多い登場人物の中でも裏表が無いので
それも安心感に繋がっているのだろう。
とはいえ仲間の離反、父親に関しては過剰に反応するあたり
これはるいにとってのもう一つの呪いに思える。
しかし最後父親の真実を知ることにより一番救われたヒロインではなかろうか。
他√で出番が少なすぎなのが残念。
あと胸あってH回数もダントツトップでもどこか色気不足気味なのも不利な点か。

・花鶏
なんやねんこの意地っ張りキャラは!、と最初の最初は思うのですが
すぐに呪いのせいであることに気付く。
一番呪いの内容が分かりやすいヒロインではないだろうか。
最後わざと呪いを踏みながらなんとか花鶏も智も無事に生存したが
果たして本当に呪いから逃げ切ったのかは疑問に思った。
呪いは花鶏の家の再興や祖父への尊敬の念を奪い去っていき、それによって呪いは終息したのではないだろうか。そしてそれらの執念から解放された花鶏はやはりエンドで救われたということなのだろう。誇りの喪失や智への依存を代償と受け取るかどうかは意見の分かれるところかもしれない。

印象に残ったレズネタは「生卵つっこむわよ!」。

・こより
ロリ枠その1。ロリコよりン。小動物系。
本作では数少ない抱きしめたくなるヒロイン。
もう一人のロリは設定上抱きしめられませんから。
部屋着の髪降ろした姿を見ると美人さんである。
将来有望。オッパイはありませんが姉君を見る限り心配する必要は無さそうです。
るいと並んで安心系、と思いきや
オジさんについて行って危ない目に遭うという
お手々繋いでないとやっぱり心配です。
三宅は他√とは異なりヒゲ無しだったと思うのですが
どういうことでしょう。
そっくりさんの二人目がいたというわけでも無さそうですが。
こより√では最後、姉と和解には至っていないが
姉への依存を克服し成長を見せる、というよりも決別したということだろう。
これも上記のるい、花鶏同様救われたということなんでしょう。

・伊代
マジメガネ系なので変態花鶏、毒舌茜子のストッパーになるべき立場になるはずが
火に油を注ぎまくる空気読まずに酸素を供給しちゃう人。
途中まではちょっとイラっとくるのだが
段々と印象は変わってくる。
伊代に関しては礼、だとか正義にこだわる印象を持つのだが
物語が進むにつれてそう単純な考えを持っている訳では無いことが
分かってくるので次第に興味深いキャラになっていくのだ。
最後は茜子√の前哨戦といった感じに思えるので
4番目攻略が良さそう。

この辺りで振り返ってみると物語で言われている呪いの他に
各ヒロインには他の縛り付けている呪いのようなものが
あることが見えてくる。
それらは仁義八行によるものではないだろうか。
全員に厳密には当てはまらないかもしれないが以下のように考えた。
伊予→礼
るい→???
こより→悌
花鶏→考
恵→信
茜子→??
イエンフェイ→忠
智→考、、、あれ?花鶏とダブるぞ?w
でも茜子√の最後での判断は智、道徳的な判断を吹っ切っての判断といえるので
智なのかな。

・茜子
まさかのトリ。
茜子√の後に真√でもあるのかと思っていたが、
この物語の流れ、どう見ても最終√。
ただどちらかというと茜子単体ではなく恵と茜子の物語とも取れる。
正直わかりにくいギャグをたまに言ったり
毒舌のせいで会話が中々進まない原因になっていたりもするので
感情移入しずらいヒロインである。
しかし心を読める茜子と本当のことを明かせない恵というのは
確かに問題解決に最も適した組み合わせだろう。
その一方で伊予√で恵の秘密は見当ついてしまうので
復習してる感は否めない。
恵にの呪いに関しては自分に関する本当の事を知らせられない、といった感じか。
真実を話せないだけだと筆談で出来てしまうので
もっと強力な制限の呪いなのだろう。
智達が呪いの内容に気付くのが遅すぎるのがもどかしい。

・イエンフェイ
最初怖ーいオネェちゃんでしたが
意外と話が分かる人でもありました。
結局は色々助けてもらってるし。
良い言葉が見つからないが魅力あるキャラである。
まな板でもいいじゃない!

・摩耶
双子の姉が生きて出てくるというのは予想していました。
妙な色気があるしラスボス感を醸し出していましたが違ったようで。
最後唐突にいなくなってしまうのがなんとも残念な気分にさせます。
もっと姉弟水入らずの場面があっても良かったのになと思いました。
自分は主人公智よりも摩耶のほうに魅力を感じます。