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うらがえしおもてさんのChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-の長文感想

ユーザー
うらがえしおもて
ゲーム
ChuSingura46+1 -忠臣蔵46+1-
ブランド
インレ
得点
80
参照数
4274

一言コメント

一言でまとめれば、「ゲームの自殺」。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想


大胆な設定の歴史もの。
荒削りながら魅力的なキャラクターとテンポの良さ、
シリアスとコメディの使い分けの妙によってぐいぐい読ませてくれる。
武士道の一途さと純度、そして「理不尽さ」まで描き出す展開に少し感動してみたり。
そんな世界観に愛着を覚えたと思ったら残念、
なぜか後半では作品世界をぶっ壊してしまう。
作者自らが、今まで積み上げてきた作品への愛着を自壊させていくという、
誰も得しない展開にがっかり。
「身の丈にあった」というが、「作品の丈にあった」作り方をしてほしかった。
ライターが若いのか背伸びし過ぎたのか、もったいない。
ただひたすらにもったいない作品。



というわけで、だいたい皆さんが既に評価されている通りの作品です、

ライターは忠臣蔵から江戸時代全般に至るまでの資料集めに奔走し、
絵師は四十七志士の立ち絵から一枚絵から差分から、膨大なイラストを制作し、
演出も効果も頑張って、ひとつの作品に入魂した。
その努力が窺い知れるだけに、この中盤以降の展開の拙さが余計に目立つ。
面白いのになぁ。白ければ白いほど汚れが目立つように、
前半の展開に没頭すればするほど、中盤以降の展開の杜撰さが気になってしまう。


このゲームは歴史改変もの。
「忠臣蔵の志士、あれみんな女にしてみようぜ!」という感じの
エロゲー的な、もしくはライトノベル的なノリの作品。
なので、歴史的事実の信憑性はあまり望めないし、望むべきでもない。
かる~い気持ちでガンガン読み進めていけばいい。
とはいえ忠義や武士道を描く以上、ある程度の道徳的背景にも触れざるをえない。
感動させたいと思えば、ある種の価値判断を描くのは当然。

価値基準のレベルはわりと素朴なもので、そうだな、
作品で例えると「まじこい」とか「つよきす」とかのノリに近い。
もちろん「クロスチャンネル」とか「最果て」みたいなのよりはずっと浅いし、
さりとて「村正」ほど徹底的でもない。まぁライトなものです。
ただ、歴史物としての背景設定は頑張っており、
それとキャラクターの魅力もあって、なかなか読ませるものがある。
忠臣蔵の登場人物をヒロインにするからには、
どうしても仇討ちのはての切腹までを描かざるをえない。
死を定められたヒロインたちとの触れ合いを描くんだから、
まぁそりゃ感情移入もするもんです。


忠義に生き、武士道に殉じて仇討ちを決行し、当然に切腹する。
そんなヒロインたち。そんな彼女たちの生き様に狼狽し、翻弄され、
のちに感動し、共感し、自らも殉死しようとする主人公。
武士道に感銘を受けつつも、
どこかその「理不尽さ」に対する違和感も抱いてしまう部分が出てくる。
しかし、彼女たちの意志は尊い。それを受け継いでいこうと思う主人公。
そんな前半の展開については、ライターの意図通り読者に伝わっていたと思う。


そりゃあ最終的にはみんな救うわけですよ。
おそらくタイムスリップして歴史改変して忠臣蔵自体無くしちゃおうとか、そんな感じ。
そんで僕達の愛したヒロインをみんな救う。んでハーレムや。ハッピーエンドや。
そうなることはまぁ読んでいて予想がつく。
となると、やるべきことは「スマガ」だよな。
「こんな終わり方、納得できねぇ!」でいいわけです。
完全無欠のハッピーエンドを目指して、討ち入りが起こらない未来を目指せばいい。

でもライターさん、ここで少し力んでしまった。
「歴史は見方によって受け取り方が違う」とか
「そもそも歴史とは権力者の正当化である」とか、
「"忠臣蔵事件"の歴史的評価」について考えようとさせる。

はっきり言っちゃえば歴史認識の問題をエロゲーに持ちだそうとする。

現在における忠臣蔵の、歴史認識の背景に存在する黒幕は

「明治天皇よ」 っど~~~~ん!(効果音)

の一幕には、思わず失笑してしまった。申し訳ないけど稚拙なのです。


そもそも我々読者の視点では、
主人公の主観描写と他の登場人物の主観描写を合わせて俯瞰できる。
だから読者はゲーム上で描かれる「ゲーム的歴史事実」を全体的に知っている。
読者には全体像が見えてしまっているから、
運命に翻弄される主人公を愚かしくも感じるのだけど、
それを差し引いても面白いからいいかなーと思って読んでいるわけです。

主人公は、一人の主観からしかみえない
「主人公的事実」で生きてるわけですから、仕方ないと思って読んでいる。

でも、そこに「実際的歴史事実」を混ぜてくるから混乱する。


ようするに、このゲームには事実が3つ併存する。

・主人公的事実(オレの人生)=主人公が主観を通して体験する事実 →真実

・ゲーム的事実(みんなはこうだった)=読者が各人の描写を通してつかむ事実 →真実

・歴史的事実(教科書に書いてあること)=一般現実として語られている事実 →真偽不明


歴史なんてのは強者の正当化といえば、そうなわけです。
たとえば江戸太平が徳川幕府の正当化といえば、そうなのかもしれない。
聖徳太子は天皇の正当化なのかもしれない。厩戸皇子なのかもしれない。
キリストは生き返らなかったのかもしれないし、ソクラテスは浮浪者かもしれない。
一般的に伝わっている歴史事実はいわば物語なのであり
「そこそこ真実性がある伝聞の集合体」なわけです。それは構わない。

ただ、このゲームの主人公が愚かなのは、
自分は3回も赤穂浪士達と人生を送って真実を知っているのにもかかわらず、
どうでもいい他人に、真偽不明な歴史的事実(=真偽不明)を披露されて狼狽し、
何もかもに疑心暗鬼になってしまう点。

「赤穂浪士は只のテロリスト」と言われて、
あぁ何が正しいのかわかんないよぅ僕のやってたことは正しくなかったのかもしれないんだよぅ、
とかうだうだうだうだ悩みだす。

お前の人生経験って、他人から聞きかじりの伝聞を聞かされたくらいで
揺らぐほど薄っぺらいものだったのかよと。
あんだけ死線を乗り越えて、同士達の想いを託されて、それでこのザマかよと。


この展開が稚拙なのは、読者がゲーム的事実=真実を全て知っているからです。
浅野内匠頭の怒りは正当だし、吉良上野介は呪いによって頭ぶっ壊れていたのが真実なのを知っているから。

だけど、ここらへん「主人公的事実」と「ゲーム的事実」と「歴史的事実」の境目が
ごっちゃごちゃになってしまっている。
読者には混濁した事実を混濁したまま読んでしまうので、
空想の上に空想を重ねて、空想で空想を断罪されているような、わけわからない気分になります。
そんな空想でもって、僕達が読んできた真実を、感動を毀損されるわけですよ。

ゲームやってて、そのゲームの途中で

「お前、なに?このゲームで感動とかしちゃったわけ?
 でもそんなの全部ウソだったらどうする?ねぇねぇどうする?」

とか言われたって、困るでしょ。


やりたかったことはわからんでもない。
起承転結の転の場面で、面白いことをやりたかったのだろう。特別なことをやりたかったのだ。
エロゲーでいうところの「君と彼女と彼女の恋」みたいなね。メタネタに近いこと。
新しくて、衝撃的なことをやりたかったのだ。

もしくは、ライターが一生懸命調べた「忠臣蔵の事情」を、とにかく披露したかった。
ほら、歴史とか詳しくなると、他人に話したくなるじゃん。
そういうノリに近い。せいぜい高校生が「歴史の真実はこうだった!」みたいな本を読んで感動しちゃって、
よし明日学校でみんなに自慢してやろー、みたいなね。

ただ少なくとも18禁のレベルに達していないのです。
正史の正当性をチェスタトンだの平泉澄だの使って証明しようとするのが大学生くらいだとすれば、
やはり中学生~高校生の水準じゃないかな。
だって主人公からして

「武士道は死ぬことと見つけたり」

「え、なんですか、それ?」

のレベルなんだから。


ただでさえ、主人公的事実と、ゲーム的事実と、歴史的事実。三つの事実がごちゃごちゃになっている。
読者にとっては「このゲームの描写の真実性」自体が揺らいでるわけです。
さんざん生きる死ぬのやりとりを見せられ、愛しあったヒロインの死に様を見届け、
ゲーム自体への没入度が高くなった時点で、

「・・・あれ、このゲーム、実は夢オチ?」

などと思ってしまう。そう読ませてしまうのは、ライターの本意ではなかったはず。


冒頭に述べたとおり、このゲームの根幹は
「忠臣蔵の赤穂浪士達がみんな女性だったら」ですよね。
まず嘘から入ってるんです。ゲームの設定からしてパロディなんだから、
そこに「事実の真実性」を持ち出して議論してしまうと、
根本的に「このゲームの真実性」そのものが揺らいでしまう。
「愛したヒロインが死ぬ定めを持っていることの苦悩と悲哀、そして覚悟」
こういったものが、全て虚構になってしまう。
ゲームが自ら、ゲームそのものを壊してしまう。ゲームの自殺です。
悲しかった。感情移入したゲームが、途中からゲーム自体を損なっていく風景。

「んなこといったら、このゲーム全部ウソじゃねぇかよ…」と、
思っちゃったらおしまいだよね。


発想としては面白いと思うのです。ただ稚拙だった。見せ方を誤った。
もしくは「忠臣蔵の歴史」を調べ過ぎて、視野狭窄になっていた。
ゲーム全体の構成を俯瞰することに加え、「読者からの視点」に対する配慮。
ここを見誤って、途中からゲーム全体を戯画化してしまった。

鮮烈な忠義の精神と、過酷な運命への抵抗と、主人公の悲壮な抵抗はしかし、

「忠臣蔵は、テロリストが暴徒化したものだったんだ!!」

「な、なんだってー!?」

みたいなノリのテイストで崩壊し、
「いま言ってるのは、事実?真実?嘘?はぁ???」と、読者に残るのは混乱だけ。


もう少し事実の峻別を徹底するべきだったと思う。
清水一学をタイムスリップさせて、江戸時代の茶屋で、平成の歴史知識をもとに歴史談義を行うのはダメでしょう。
「いま目の前で起こっている事実」を、「200年後の平成に書籍で聞きかじった知識」を使って否定されては困る。
ましてや主人公自身がそれを聞いて揺らいでしまうのでは、もうゲーム自体の設定崩壊という他ない。

あるいは、「吉良上野介が乱心したのは呪いのせい」という
「隠された真実」自体を、読者の目に見えない形にするべきだった。
とにかく、読者が見えているのに、主人公に見えない事実が多すぎ。
そして、そのラインの線引きが、非常に下手っぴです。
だから主人公が一気にバカに見える。今までだってバカに見えそうだったのを、
赤穂浪士の皆さまの一生懸命さとテンポの良さでごまかしてきたのに、
"ぼくのかんがえたほんとーのれきし"を使って、虚構の上に虚構を上塗りする始末。

前提として、このゲームは根本的に

「武士みんな女性にしちゃったでござる」

「呪いとか呪術とか、そういう裏ワザ有りでおねがいします、てへっw」

なわけで。

じゃあもうぜんぶウソじゃん!バカじゃん!みんなバカじゃん!

というね。
音楽と効果音だけやたらシリアスなのが、より滑稽さを際立たせて、虚しい。


ちなみに、このバカになっちゃった主人公。最終的に混乱して敵ヒロインをレイプします。
なんなの、この展開…。


一周目から三周目までで徐々に強くなり、
赤穂浪士でも有数の剣技を習得するに至る主人公だが、
中盤以降、主人公にも目覚ましい成長は見られなくなり、
いつまでたっても狼狽し、状況に翻弄されることに変わりはない。
ましてや「ゲーム自体の否定」を通過し、感情移入の減った後半では、
そこまで思い入れあるゲームプレイもできなくなるわけで。

これだったら単純に周回を増すごとに強くなって、
俺つえー状態の剣技と胆力で状況を打開していってくれる方がよほど良かった。
精神的絶対強者として大石内蔵助を設定しているのにも若干うんざりするし、
剣技の方も、主人公より強い奴が次々現れて、恐れおののくばかり。
カタルシスにも欠けるし、だんだん設定が現実離れしていって妄想はエスカレートしていく。

「イレギュラーは上野介に対する呪いだけ」だから良かったのだ。
まぁ伝説の剣が云々している辺りは熱血少年漫画だから置いておくにしても、
幽霊だのガイコツ剣士だの、伝説の剣豪だのロウソクの火が命の灯火だの。
終盤でやることじゃねーだろと。
はいはい色々しらべたのねーいろんな言い伝えがあったんだねーと、
褒めてやる気にはならんのである。


中盤以降は伏線の貼り方もあからさまで見え見えで、

「きなこよ」 っど~~~~ん(効果音)

の見え透いた展開に冷笑してみつつ、主人公の精神年齢も下がっていく一方。
前半のテキスト水準と比べると、全体的に気が利いていない。
というか、もう読んでいて興が醒めてしまったのかもしれない。

誰も得しない展開は、製作者でもなく、購買者でもなく、
ただひたすらに作品そのものを貶めてしまう。


というわけで、中盤から終盤にかけては、茶番。
感動展開も見え透いてくる、やっすい人情物語。
前半の生きるの死ぬのの話はまだ切実さがあって読めるんだが、
ただの親子姉妹もの、生き物感動ストーリーなどでは数段落ちる。
何の意味も無いので適宜飛ばそう。
ラストに至っては、まぁなんというか、アレな感じです。
いちおうの解決編??なので、まぁいいんじゃないでしょうか。
もはやとっくにアレな感じになってたので、
いまさらどれだけアレでも知ったことではないです。

なんとなく熱血路線で演出がすげー頑張ってるから読後感良くなってしまい、
「うん、いろいろあったけど面白かったな!そんな気がする!」
で済ませちゃいそうなんだけど、ちょっと考えると疑問符が浮かんでしまう、
そんなラストで終演。




全体を考えるとわかりやすいのだけど、まずは設定ありき。
「忠臣蔵の登場人物みんな女性化」。
忠臣蔵だと、確かに歴史的事実として一人は刑を免れたらしい。
ということは、生き残ったこいつが主人公だ。
残り46人みんなヒロインであると。
で、エロゲ的文脈からすると、ハッピーエンドでハーレムエンドにしたい。
しかし

忠臣蔵×武士道=最後はみんな切腹バッドエンド

になってしまう。
これを覆すには武士道を否定するか、忠臣蔵を否定するしかない。
しかし、武士道は物語として使える。なんかかっこいいし。
だから、忠臣蔵そのものを否定しよう。

つまり、

「忠臣蔵に巻き込まれてバッドエンド」→?????→「忠臣蔵からの大団円」

という流れの中で、この物語の転換点をどうするか。
たぶん困ったんだろう、考えた結果は
「忠臣蔵という歴史物語自体を否定する」という発想。

発想そのものは悪くないのだけど、
失敗したのは「歴史という物語」と「ゲームという物語」の相似性を見逃した点。
さらには「歴史を語る難しさ」に対する配慮の欠如。
そして、そもそものストーリーテリングの稚拙さ。

結果はご覧のとおり、「物語全部が壊れた」。
ゲーム全体を否定しちゃったのです。


物語を壊したあとで、残った残骸で繋ぎあわせたガラクタは、
どうあがいてもつぎはぎだらけで、いくら水を注いでも零れていくばかり。
最後は、もはや投げっぱなしジャーマンといった体で考察する意味も残らない。
前半の鋭さは、軽快さはなんだったのか。
最後の締め方に苦悩したことがわかるような幼稚化していく展開は目も当てられない。


最終的に「忠臣蔵を否定してバッドエンド回避」もまた、中途半端に終わってしまう。
一番のハッピーエンドは「浅野内匠頭の殿中斬りつけ事件自体を無くす」こと。
これができれば全ては円満に収まる。赤穂藩士と吉良の双方の怨恨は失われる。
しかしこの場合、赤穂藩士は皆助かるし、浅野内匠頭も存命なんだけど、
困ったことに主人公がヒロインたちと出会う意義も失われる。
忠義も奉公も武士道も、ヒロインたちとの物語も、全てが無効化されてしまう。
「歴史を変えてみんなを救った、それでいいじゃないか…」というのも
物語としては悪くないと思うんだけど、それじゃあ残念、ファンディスクが作れないのである。
せっかくのハーレムハッピーエンド計画が台無しになってしまう。

これではいかんので、試行錯誤するのが4章。
まず浅野内匠頭は仕方ない、殺そう。
「みんなで花見がしたかった」とか、そこらへんは諦めよう。
吉良サイドの方だって決して悪くなかったという史実もある。
赤穂浪士はテロリストだと考える書籍もある。
そこらへんの歴史観も組み込みたい。勉強したし。
そうすると、討ち入り事件自体はあったことにしたい。
そのうえでハーレムエンドにしたい。しかし、赤穂浪士たちは殺せない。
なかなか難しい命題です。で、それを叶えるためのウルトラC級が、

「本当の敵は、吉良でも柳沢吉保でもなく、謎の浅野家の末裔だったのだ!」

「そしてそいつの目的は、国家転覆だったのだ!」

「そいつは呪術で大地震とか起こすのだ!」

「空とかも飛んじゃうのだ!」

『ナ、ナンダッテー!?』

という、まぁ超展開ですね。そもそもが超展開で始まるゲームなんだけども。

「主人公的事実」「ゲーム的事実」「歴史的事実」に加え、
「作者が創作した架空の歴史的真実」まで飛び出してしまい、
読んでる方は「あーなるほど、もうなんでもありなのね…」と虫の息。

この設定のおかげで、赤穂浪士は仇討ち者から「国の危機を救う者」へと変化。
そのおかげで、なんやかんや色々あって、非常にご都合主義的に
「討ち入り事件はあったけど、赤穂浪士は生き残って、しかも史実は変わらない」
というストーリーを、なんとかかんとかでっち上げた。

ただまぁ、そのかわりにストーリーは崩壊した。
キャラクターを活かして、物語を殺したと言ってもいい。

「ハッピーエンドだったからいいじゃん!」
「そもそもなんでもありだったんだからいいじゃん!」

とは言えるだろうけど、
前半部のの精緻な事実の積み上げや、中盤の史実にこだわる描写とは明らかに反する。

黒幕が浪士の誰かだったり、今まで出てきた登場人物だったらまだしも、
「謎の第三者が全てやってました!」なんて言われたら、
もうそれこそ、なんでもありだ。
「すべては宇宙人の仕業だったんだ!」と叫ぶ某マガジン編集者と変わりない。
それはやはり、ストーリーの自殺、ゲームの自殺ではないだろうか。


光る部分はとても多い。とにかくよく調べて、
それをエンターテイメントとして出力できている。
ギャグも悪くないし、テンポもいい。
戦闘シーンは効果音とかけ声の応酬ばかりで拙いといえば拙いが、
演出の良さもあって、いちおう見れる出来には仕上げてある。
テキストそれ自体も、若気の至りは非常に多いものの、
ギャグとシリアスの両方を描いてみせるレベルの高い文章といっていい。
前半の赤穂浪士たちとの交流はとても面白かったし、
江戸時代の知識を交えながら武士達の矜持を感じつつ、
じわじわと成長していく主人公と共に「死の身近な日常」を過ごすのは、
僕自身も寝る間を惜しんでプレイしたほどだ。
中盤から後半にかけては、前述の通り明らかな劣化と幼稚化が見られたものの、
途中とちゅうは面白い部分も多く、若干しつこいが伏線の回収も悪くなかった。
付け加えて言えば、
CG・音楽・演出など、テキスト以外の部分では文句のつけどころもなく、
熱意を込めて作られたゲームであることは疑いようもない。


何がいけなかったのかといえば、とにかく後半。
起承転結でいうところの「転」と「結」。
「起承」と「転結」の落差がひどすぎる。
物語を収束させるにあたっての、全体のプロットの立て方。
そして、そのプロットが、全体を通して一貫しているか。
落差はないのか。前半と後半は釣り合っているのか。
プロットの段階であまりにも無理があったからこそ、
書き進めていけばいくほど、後半に無理が出てくる。
その無理を引っ込めることができるほどの能力が無いのに、
力技でまとめようとしたから、結果として全ての評価を損ねてしまった。

納期があったからなのか、すでに発注してしまったからなのか、
同人から商業への移行で書き足した部分なのか、
そこらへんの事情は知らないけども、
足りなかったのはミクロとマクロの視点。
全体を把握しながら、均整のとれた部分を作り上げていく視野の広さ。
そういったものが欠けていたせいで、
このゲームは誰にとっても100%は満足がいかない、
不十分で不完全なものとして完成してしまった。
それが残念で仕方ありません。



かといってこのゲームが駄作なのだとは全く思わない。
前半はとても面白かったし、
中盤から後半に至っても、ところどころでは読むものを惹きつける展開があった。
ハッピーエンドへ至るためのシナリオ作りは難航したのだろうけど、
最後まで「ただのエロゲ」というだけではなく、
あくまで「物語」としての収束を模索し続け、それを描き上げたという点については、
高く評価できるものだと思う。
だから、中盤はちょこちょこスキップしたけども、
終盤については読むことができたし、まぁまぁこれで大団円なら悪くないな、と思えた。

歴史物語をエロゲでやるのは難しい。
どうしても全編コメディで済ませたくなる。
一発ネタとして「赤穂浪士みんな女でハーレムひゃっほい」でも、
それなりに話題にはなるかもしれない。
にもかかわらず、あくまでもこの荒唐無稽な設定を、ひとつの物語として昇華してみせた。
つぎはぎだらけかもしれない、幼稚かもしれない、無様で滑稽かもしれない。
それでも最後まで読ませてくれたし、最後は爽快な読後感を僕に残してくれた。
ひとつの「作品」として。作り上げ、僕を楽しませてくれた。


赤穂浪士についてはずいぶん詳しくなったし、
いつか機会があれば史跡を訪ねてみたいとも思う。
江戸時代の豆知識もずいぶん教えてくれた。
「エロゲで学ぶ忠臣蔵」としての価値は120点をつけてもいいくらい。
堀部安兵衛だとか不破数右衛門だとかにここまで愛着を覚えさせてくれる媒体は、
日本中探してもこのゲームくらいだろう。

だからあくまで「だいたい皆さんの評価通り」。
欠点はあれども、総じて質の高い作品に間違いはない。
多少は日本史が読める性質で、それでパロディを受け入れる度量がある人なら、
紆余曲折しつつも、最後は面白がれるエンターテイメント作品なのだと思いました。





余談ですが、最後まで見て思うのは、「あぁ、竜騎士07っぽいな」。
「ひぐらしのなく頃に」に似てる。前半の良さと、中盤以降の失速と、それをごまかすような小学生的ノリ。
進んで踊れる人ならいい。だけど、中途半端に賢しらな読者は失望するだけ。

ひぐらしも、最後の方になると謎の熱血展開とか大言壮語とかでごまかして、
対象年齢がぐんぐん下がっていったからね。
妙なカタカナの使い方(戦略(コンバット)とかディスクローズだとかメガトン級だとか)が増えたり、
主人公が短絡的で直情的になっていったり、作中の陰謀論をさも恐ろしげに語ってるけど、読者には少しも響かなかったり。

そう考えるとほら、このゲームの主人公って前原圭一にそっくりじゃないですか。
一見かっこよく見えるんだけど、けっきょくは考え足らずで直情的。
目の前の正義に振り回されて、一貫せず、強者に慄いて潰されるだけ。
なんとなく主人公力でもってなんとかまとめ上げてはくれるけど、
俯瞰でものが見える我々読者としては、はっきり言って「鈍い」。
主人公の振りかざす価値観は下らない。浅い。足りない。

終わり方も同じで、ひぐらしは結局「軍の力だからなんでもあり」でごまかした。
こっちは「呪術とよくわかんねー陰謀だからなんでもあり」でごまかしている。
終盤の熱血展開で、なんとなくよかったことになっているんだけど、
「色々御託をこねたけど、最後は戦闘と演出で無理やりごまかしました」
という感覚は、やはり拭えない。


ひぐらしの方は、作者が風呂敷を広げすぎて壊れていったんだけど、
こっちの方は、なんだろうね、やや幼い感じがする。
18禁ノベルなんだけど、書いてるのも20歳前後なんじゃなかろうか。
高卒フリーターでオタク、でも同人やってみたら評価されたんで、
大作に挑んでみました、みたいな。勝手な想像ですけどね。


僕もなんだかんだエロゲーやって10年近いんだけど、
「前半は良かったけど、中盤以降は崩れてしまう」
そういう作品を読むたび、すごくがっかりする。
物語を閉じることの難しさは、ライターではない僕にはわからないけど、
せっかく面白いものを作り上げたのに、それを自ら壊してしまうのは、
本当に、ただひたすらに、もったいないと感じる。


たぶん才能ある作者だから、もっと人気出て欲しいとも思う。
下手すると、タカヒロみたく商売人になっちゃうかもしれないし、
竜騎士みたく潰れてしまうかもしれないけど、
めげずに、気楽にこの業界で長く務めてほしいものです。
もっともっと、いい物語が書けるはず。
ライターはじめ製作陣の皆さま(ていうかほとんど二人)には、
その力が備わっているはず。
安易な感動、安易な笑い、安易な技巧、安易な展開には走らず、
もっと精緻で、もっと心の底からの情動を迫るような、
そんな作品を作ってくれることを信じます。


主に中盤をプレイしながら感想を書いたので、
どうにも辛口っぽい感想になってしまいました。
でもこの物語は好きです。
いつか赤穂に行ってみたいなと、思っています。