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КさんのHell Guideの長文感想

ユーザー
К
ゲーム
Hell Guide
ブランド
M no VIOLET
得点
46
参照数
1900

一言コメント

丁寧なのか雑なのか・・・

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

基本的な構成要素はよく出来てる。Hell Guide(地獄への案内人)と深窓の令嬢、その家族、対抗勢力としてのHeaven Guideの存在、といった舞台設定は面白い。システム周りも文句なく行き届いており、また絵も美麗。声優陣も及第点といえるだろう。

にもかかわらず、随所に散りばめられた多くの細かなポイントでこつこつとその質を低下させ、総体的には凡作かそれ以下になっているのが感慨深い。
もっとも印象的だったのが主人公のキャラクターで、ここまで頑なに感情移入をさせない主人公もある意味珍しいと言える。いずれのルートでも冷酷な性格から慈悲を覚えるという大筋は決まっているものの、描写がちぐはぐなため掴み所がない。何らかのエピソードによって変化が生じるというのでもなく、突拍子もなく行ったり来たりすることが多いせいか。プライドが高いのか下衆なのか、計算高いのか馬鹿なのか、分別があるのか未成熟なのか、欲望に抗えないのか自制心があるのか、人心を理解するのかしないのか。
主人公については他にも、妙に迫力のある面構え(というかドラゴンボールに似てるよね。目の辺り)が浮いていたり、必要とは思えない一枚絵があったり、口癖で台詞3回につき1回は挟む「はっ」という笑いも悪党というより思春期の少年を想起させて痛々しかったり、何かとネガティブな要素が少なくなかった。
決して上手いわけでもないテキストが三人称(一元描写)気味に書かれているのも場を白けさせる。下手というほどのことでもないが、そもそもエロゲに一人称以外の手法を使うのはよほどのことがない限り難しいのだろう。
初めてのヒロインとの絡みが妄想や寝取られだったりするのもいかがなものなのか(後者は属性のある人は悪くないかもしれないが)。他作品では明らかに本番ができるくらいのヒロインとの信頼関係が既にあるにも関わらず、明確な理由もなくまずは手コキ、翌日フェラ、翌日…などと進むことがよくあるが、それに“(同意なしで行為に及ぶと)冥府から罰を受けるから”と理由をつけたのはよかった。だがそれによってCG数に対して本番の比率が少なくなったり、陵辱ゲーの雰囲気の中で内容が和姦ばかりになってしまったのは大きなマイナスである。また魔界の住人といっても主人公は大した特殊能力も持っておらず、それを使ってヒロインを陥落させるということもない(せいぜいちょっとした媚薬を調合する程度)。文章を素直に読む限り恋敵の涼は真性のレズビアンだったということが後半に判明するが、キャラクターにかなり無理があり単に鬱陶しい存在になっている。天使である天通の匂いが我慢できない主人公は、彼女を犯すため嗅覚を麻痺させる薬を使用する。が、効かずにそれならと自らの鼻を削ぐ。何故そんなスプラッタ風の演出をしなければならないのか、おそらく制作者の趣味なのだろう。あるいは、突飛なことをして何とか凡作にすまいという意志か。普通に薬が効いたでよかったと思う。

エロゲにあまり突っ込みを入れるのも無粋だと思うが、とにかくこういうことがまだたくさんある。エンディング付近などシナリオ上で思わず疑問符を浮かべてしまうところはもっとある。もう少し、あとほんのちょっと詰めて、工夫を凝らせばクオリティは格段にアップするのに。そんなふうに感じさせることが多かった。

たまにはプレイ前の人に役立つ情報も…と思いシーン数やシチュエーションを振り返ってみたが、他の人が詳細に書いていたので割愛する。
いずれにせよ、純愛好きにも陵辱好きにも残念ながらお勧めしかねる作品だ。
物語に浸りたい人、実用的なエロを求める人にも同様である。どっちつかずというより、どちらも出来てないという方が実情だろう。

ただ、ひどく個人的ではあるがHeaven Guide此花天通のキャラクターは非常によかった。本番は1シーンのみである。