軽率な気持ちで「どれ、ちょっと催眠ものでも」と思ってやると、人によっては食あたりすることになるかもしれない。
まずシナリオが非常に重たい。緻密なプロットでシリアスに、という方向性ではないが、全面的に笑ゥせぇるすまん的な暗さがある。
ストーリーは表では優等生、裏では自分の境遇を呪っている主人公がある日謎の少女ニアと出会い、黄昏時だけ人を思い通りに
操ることができる『繰眼』の力を授かる。その力は13日間限定でありその後主人公にとって最も大切なものが奪われるというが…。
といった素晴らしく中二精神溢れた内容。ちなみに何が奪われるかはルートによって異なる。
ハッピーエンドというものはほとんど存在せず、バッドエンドがデフォルトであることも今作の特徴。シナリオもそれに向かって書いて
いるのでヒロインを操る万能感をシンプルに味わいたい人には向かないかもしれない。
また特筆すべきはその強烈なマニアックさである。卑語、アヘ顔は当たり前(ただしアヘ顔は非表示設定可)。
何の説明もなくメイドのさらは重度のマゾヒストであり、何の説明もなく脇毛が生えている。
アシュリーエンドの倒錯感。玲、くるみの狂気描写も圧巻である。そういった属性を持たない自分は、正直少なからず面食らうこと
になった。
では使えないのかといわれれば、否。陰気で破滅的な展開と繰眼による特殊なシチュエーションに無理矢理背中を押され、ツボ
に嵌ればもちろんのこと、嫌悪感を抱くタイプの人間もそう思いつつうっかり実用してしまうだろう。そのくらい破壊力がある。
CGはアニメ絵的で安定してレベルが高い。抜きゲー、殊に卑語ゲーやMCゲーでこのクオリティは貴重だ。
声優の演技力や行き届いたシステム環境もこのブランドの売りになっている。
ニアやさらの正体が最後まで不透明であったり、幾つかのエンドで似たような結末になっているが、それも積極的に否定する気に
はならない。というのもこれ以上凝れば例え出来が良くても抜きゲーとしては使いにくく、文芸的なものとして楽しむには「それなら
別なのを読むよ」という気分にさせられ、一言でいえば中途半端なものになってしまうだろうから。
どのようなゲームにも、それを100点と評価するユーザーがいても何らおかしくない。でもこのゲームに関して、私はかなりそれに
賛成できる。それでも82点だったのは、単に少しばかり嗜好が合わなかっただけのこと。