kihaneさんの「さくら、もゆ。 -as the Night's, Reincarnation-」の感想

本作が気になっている人は必ず体験版をやりましょう。私のような人がこれ以上出て来ないことを願って、この感想を捧げます。
公式サイトやOPムービーから名作のオーラをこれでもかと感じ取ったので、
十年以上のエロゲーライフで培われた自らの勘を信じ、体験版を触れずに購入。



結果、まさかのギブアップ。
二週間くらい、なんとか読み進めようと頑張りましたが、無理そうでした……。



原因はただ一点、テキストにあります。
グラフィック、音楽、システム、声優の好み、世界観設定、登場人物……これら全てが私の期待値を満たしていました。
物語それ自体も悪くなく、それなりに先の気になる導入部に加えて、早々に可愛らしさを感じられたヒロインたちの存在もあり、
この物語をもっと読み進めていきたいと思える牽引力は十分にあったかと思います。
しかし、それを上回るほどに、テキストが苦痛でした。

良くも悪くも、小説的(あるいは時として演劇的)な文章なんですよね。
言い回しを変えて、同じ事を何度も伝えようとしてくるので、くどさがある。
このくどさ、しつこさ、冗長さ――言い換えれば丁寧さを以て、物語世界に浸れるか否かが評価の分かれ目だと感じました。
ヒロインたちや親友との掛け合いは比較的軽妙な反面、主人公(のモノローグ)とあさひさんの台詞回しがどうにも臭い。
本作を好きな方には申し訳ないんですけど、主人公とあさひさんからは凄まじい“酔い”が感じられるんですよね。


あの二人が作中でも重要かつ特異であろう夜の魔法使いという立場である以上、他の登場人物たちとは異なる雰囲気を醸し出す必要があったのかもしれませんし、その点に関しては成功しているとは思いますが、そのせいで物語の舞台装置的存在感と言いますか、強烈な演劇感を覚えました。
舞台演劇では、大袈裟な身振り手振りや持って回ったような言い回しをすることで、物語を魅力的に演出したり印象付けたりする面がありますが、それに近い感覚がありました。
例えるなら、他の登場人物たちは割かし自然体な演技をしているのに、主人公とあさひさんだけ凄く酔った演技をしていて、どうにも悪目立ちしているというか、調和が取れていないように感じられるんですよね。

あの二人の作中における立場からすれば、別段それ自体は悪いことではないと思う一方で、私はそこに強烈な違和感を覚えてしまいました。
とにかく、主人公のモノローグにおける語りとあさひさんの台詞回しが、聞いていて恥ずかしいくらいの陶酔感があるんです。
特に、序盤から台詞の上に「・・・」をつけて強調する表現(俗にいう傍点や脇点)が数多く見られるんですけど、
あれは用法用量を守らないと、読者にはフラストレーションになってしまうと思うんです。
登場人物に思わせぶりな台詞を思わせぶりな態度で言わせることは伏線になりますし、読者を物語に没入させる一助にもなりますけど、
多用されるとどうしてもくどさを感じてしまって、逆に没入感を削ぎかねません。
それに何より、強調表現が強調表現として機能しなくなってしまうんですよね。
ラノベなんかでも稀に、一ページの中に傍点のついた箇所が幾つもある文章があったりして、そういうのを見るとうんざりします。
この感じ、分かりますかね……?

例えば攻略ヒロインが五人いる巨乳ゲーの場合、全員が巨乳ヒロインだと巨乳それ自体に魅力を感じられないからって五人中三人も陥没TKBにしちゃうような暴挙と同じで、巨乳ゲーの陥没TKBヒロインはオンリーワンだからこそ輝くというか、強調表現はここぞというときに伝家の宝刀的な感じで使わないと意味ないんですよ。
本作はまさに陥没TKBヒロインが五人中三人いるみたいな強調の仕方で、くどいんです。
そういう意味では冗長的なテキストも同じで、本当に伝えたい、詳細に描きたいところだけ丁寧に言葉を並べるべきなのに、ライターさんが常時アクセル全開でテキストを盛り込んでくるものだから、その物量にうんざりしてしまうんですね。



これは完全に想像ですけど、ライターさんが自らの物語に酔い過ぎていたのかなと、私は感じました。
私も物語を書きますし、何度か出版させて頂いたこともあるので、作者側の気持ちは多少なら分かるつもりです。
本作のテキストは読者からすれば些か以上に冗長でくどいですけど、作者からすれば書きやすかっただろうなと思います。
なぜなら、創作ひいては物語を書くという行為は、自己陶酔の最たるものの一つだからです。
自分の想像あるいは妄想に酔い痴れていれば、物語なんて幾らでも書けます。
設定の辻褄を合わせたり、ご都合主義的な物語にならないようにしたりといった注意点も、自分に酔っていれば創造力に変わっていきます。

言葉を飾らずに言ってしまえば、創作なんてオナニー同然だからです。
読者や評価なんて気にせず、自分に酔ってさえいれば、なんでも楽しいんです。
同じ内容のことを言い回しを変えて、何度も文章にして表現するのも楽しいんですよ。物語に一層酔えますし、文章を書くこと自体が既に楽しいので、物語を先に進めるためではない冗長な文章だろうと、必要以上に微に入り細を穿つ丁寧すぎる文章だろうと、それらしい文章を書けていると思うと、それだけで嬉しいし楽しいんです。今この文章を書いていることにさえ私は楽しさを感じていますし、自制しないと興が乗りすぎて無駄に持論を展開してしまいそうです。上述した巨乳のくだりがいい例です。あそこは説明過多で逆に分かりづらくなってしまっているかもしれません。今この文章もかな。
そういう訳で、私は本作のテキストを読み進めているとき、「このライターさん、ここ書くの楽しかっただろうなぁ」とか思ったりしていました。


しかし、創作はオナニーだからこそ、自分に酔いすぎると読者に伝わりづらかったりテンポ感や構成の悪い物語になってしまいます。
逆に読者を意識し過ぎると、酔いが醒めてしまって自分の主張を見失い、中身のない物語になりかねません。
私は物書きとして三流なので不確かですけど、おそらくプロはこのバランスを上手く取って執筆しているのだと思います。
本作のライターさんは間違いなく確かな技量のある方でしょうし、前作「いろとりどりのセカイ」を見てもそれは明らかです。
技量が高いだけに、自分に酔い過ぎていようがいまいが、全体的に見れば完成度の高い物語になってしまうんですね。

以上を踏まえた上で、本作はライターさんの自己陶酔感の強い独特な言い回し、冗長さが目立つせいで、少し人を選ぶ作品になってしまっているように思います。
ただ、プレイ途中まででも物語の魅力は十分に感じられました。

既に軽く触れたとおり、私は特にあさひさんの台詞回しに違和感を覚えたんですけど、もし本作がノベルゲームではなく小説あるいは演劇であれば、割とすんなり受け入れていたと思います。
あの持って回った台詞を、萌えイラストのキャラクターが、声優さんの上手な演技により喋っているせいで、小説的あるいは演劇的な要素とノベルゲームという表現法が摩擦を起こしたのでしょう。それが私の中で看過し得ない強烈な違和感というか拒否感となったのだと思います。
そんなこと気にせず物語に没入できていれば、きっと凄く楽しいノベルゲーム体験になったはずです。
まあ、ライターさんが冷静な判断のもと、意図してあのようなテキストにしたかもしれないので、あんまり適当なこと言えないんですけど……。
実際、あのテキストが本作の雰囲気作りに多大な貢献をしているとも思いますしね。


纏めると、シナリオを理解するためのテキストに冗長さや違和感を覚え、それに耐えきれなかったため、本作は泣く泣くギブアップしました
……ということを説明したかったここまでの私の文章も大概冗長ですね。すみません。





私が本作の体験版に触れなかった理由についてですけど、
私は基本的に「これはまず間違いなく面白いはず」と思ったゲームの体験版はやらない派の人間です。
それはノベルゲームだろうとアクションゲームだろうと変わりません。
なぜなら、最初から最高の状態で、一気に最後まで作品を堪能したいからです。

他の多くの方と同じように、ゲームの体験版はあくまでも試金石に過ぎないので、本作「さくら、もゆ。」は体験版に触れませんでした。
試し読みをするまでもなく、名作になると確信できていた作品だったので、最初から完全な形で楽しみたかったんです。
「いろとりどりのセカイ」でライターさんの力量は知れていましたから、公式サイトとOPムービーの出来から、不安など微塵もありませんでした。
実際、テキスト以外の要素は期待通りでした。
しかし、まさかテキストがネックになるとは思っていなかったので、我ながら少し困惑しています。

物語(シナリオ)が心の栄養だとすると、文章(テキスト)は味なんですよね。
普通は味気なかったり栄養がなさそうだったりするから途中で食べるのをやめるんですけど、本作は味が濃すぎて胸焼けを起こしてしまい、食べるのを断念してしまった感じです。
本作には凄く栄養があることは分かりますし、この味が癖になる人がいることも理解できます。
ただ、私には合いませんでした。

この感想を書いている時点では、このサイトの評価はかなり良さげですし、きっと完食できれば相当な満足感を味わえるのでしょう。
なので少し時間を置いて、またチャレンジしてみようと思っているので、点数は付けません。




ギブアップした作品については感想書かないようにしていたのに、どうしてもこのやるせなさを吐き出したくて、書いてしまった……。
それくらい魅力的で、私にとっては未練たらたらの作品なので、本作が気になっている人は私の感想を見て食わず嫌いを起こしたりせず、体験版をやってみて自分の心で吟味してみるのを強くオススメします。

あのテキストが合った人が本当に羨ましい……チクショウ……どうしてこうなった……。


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